蘇りし炎
by sashiko
宝塚記念2002-観戦記-
大逃げを打ったかに見えたローエングリンが作り出したのは、中盤にゆるみを持った、横山典弘騎手により配合された絶妙なペースであった。馬場が良かったため上がり時計も必然的に速くなり、後ろ位置している馬にとっては戦いにくい展開となった。
一見ギリギリの勝利のように見えるが、実は着差以上にダンツフレームにとっては余裕のある勝利であった。
短距離馬の肉体を持つこの馬を支えていたものは、騎手の意を容易に汲み取るレースセンスと、あらん限りの力を出し尽くすことができる精神力であった。しかし、ダービーを2着したのを境に秋以降は、体が絞れないため調教でも動けなくなり、調教で動けないから体も絞れないという悪循環に陥ってしまった。もちろんレースでもまったく見せ場のない走りを繰り返すことになる。闘争心に身体が追いついていかないという不完全燃焼の状態が続いていた。
復活の兆しが見えたのは、今から思えば京王杯スプリングカップに臨む坂路での51秒台の最終追い切りであった。当のレースでは不甲斐なさを見せたが、続く安田記念での好走にははっきりと再生の色を窺うことができた。今回の宝塚記念に臨む最終追い切りの動きは抜群で、肉体的にも精神的にも万全の状態であった。レースでも藤田騎手の強気をハミを通して感じ取り、追われてからも一歩一歩確実に脚を伸ばし、後続の強襲を抑え切ったところがゴールであった。
藤田伸二騎手の騎乗には、まさに「脂が乗り切っている」という表現がぴったりと合う。馬を下りれば個性的な人間なのであろうが、馬に乗せるとピタリと己の姿を消してしまうというところに、この騎手の計り知れない魅力がある。つまり、スタートからゴールまで全てが基本通りに行われ、流れるように馬を持ってきてしまうため、観ている我々が騎手の存在を意識することを忘れてしまうのである。勝ちいそぐのでなく、かといって消極的なのでもない、馬の能力を信じること徹することによってのみ可能になる騎乗である。馬の背から姿を消し、風になれる騎手はほとんどいない。藤田騎手はそんな中のひとりであることには間違いがない。
勝ったようにみえたツルマルボーイであったが、阪神の坂を完全に駆け切る余力は残っていなかったようだ。もっとも、勝ったダンツフレームよりも展開的な重荷を背負いながらあそこまで伸びたことは正当に評価されるべきであり、自身力を付けていることは間違いなく、切れ味を生かせる(たとえば京都のような直線が平坦な)馬場であればG1にも手が届くかもしれない。ただし、子供っぽい顔つきからも分かるように、肉体的にも横綱相撲の競馬ができるようになるにはまだまだ時間がかかりそうである。
ローエングリンもその血がダテではないことを示した。肉体的な素質に恵まれていることは明らかで、あとはどれだけ気性的に成長できるかに未来はかかっている。道中でもっと力を抜いて走ることができるようになれば、その時には関東のエースとしてタニノギムレットらの強い関西馬をを迎え撃つことができるだろう。
4着に敗れたエアシャカールは、直線でもたれる悪癖を出してしまい伸びを欠いた。珍しく前々での競馬となったが、結果論ではなく、今回のレースは明らかに名手デザーモ騎手の失策であろう。やはりエアシャカールのような馬は、じっくりとタメて最後に力をを爆発させてこそのタイプであり、いくらペースが遅いからといって前に付けてしまうとエンジンを空ぶかししてしまうことになる。それにしても負け過ぎの感はあり、3歳時に漲っていた勝ち気な性格が失われているように見受けられた。惨敗を繰り返しているうちに自信を失ってしまっているのかもしれない。走る能力はある馬だけに残念である。
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