
実を言うと、この馬券は土曜日に買ったものである。個人的な事情により、当日どうしても買うことができなかったため、前日売りにて購入したのである。つまり、サイレントウィットネスが前日追いで放馬してしまったニュースを知る前に、この馬券を買っていることになる。
中山競馬場で行われた前日調整において、4コーナー手前でサイレントウィットネスが突然つまずいて前のめりになり、鞍上のコーツィー騎手は落馬してしまった。コーツィー騎手は無事であったが、騎手が不在のサイレントウィットネスはその後、もう一周馬場を走り切ってしまった。向こう正面では13秒5→12秒5の速いラップを刻んでしまったらしい。
このニュースを知った瞬間、「シマッた」と私は思った。既に買ってしまった馬券が、ただの紙切れになってしまうことを予感したのだ。この予感を分かりやすく言葉にしてみると、以下のようになる。
ただの放馬そのものは、大した問題ではない。問題がないと言うとウソになるが、馬の気任せに一周しただけであれば、競走成績に影響を及ぼすほどのことはないだろう。本来、馬は一日中走り回っている生き物である。つまずいた際に脚を痛めたり、埒に激突して怪我をしたりせずに戻ってきただけで幸いである。
しかし、なぜ騎手が落馬するほどにつまずいたのか。もしかすると、サイレントウィットネスは走ることに集中できていないのではないか。環境の変化に戸惑い、周りが気になって仕方ないのではないか。陣営は落ち着いているとコメントしているが、馬本人は意外とナーバスになっているのかもしれない。海外への輸送も今回でまだ2度目で、一度経験したからそれで慣れるというものではない。輸送を苦手とする馬は、何度行っても遠征すると力を発揮することができないのだ。
このように考えた伏線として、最終追い切りでのサイレントウィットネスのジャンプ事件がある。ダートコースで追い切りを済ませたのであるが、併せ馬をしていたにもかかわらず、サイレントウィットネスはゴール板の影を障害物と間違えて跳んでしまったのである。
このジャンプ事件と放馬がリンクして、サイレントウィットネスは環境の変化に敏感になっていて、走ることに集中できない(気が向いていない)のではないかと感じたのである。そうなると、いくら伝説の馬とはいえ、本番のスプリンターズSで勝つことは難しいのではないか。4コーナーを回っても手応えが悪く、他馬に交わされ、馬群に飲まれていくサイレントウィットネスの姿がイメージされてしまったのだ。
失敗してしまった。もしサイレントウィットネスでなければどの馬が勝つのだろうと考えて、ここで止めた。もう既に馬券を買ってしまったので、今さらどうしようもない。もう1頭の単勝を買うわけにもいかないだろうと。
サイレントウィットネスが勝つことを信じることだ。そもそも、集中力を欠いているというのは、私の勝手な思い込みに過ぎない。そういえば、歴史的快速馬デイジュールも、レース中に影に驚きジャンプしたらしい。スプリンターはステイヤーと比べると、気性的にもピリピリしているし、物事に対して敏感である。それはスタートから一気にスピードを爆発させるという特性を考えると、当然のことである。ジャンプしたのは、そういった敏感なところがあるからで、レースに行ってしまえば何の問題もないだろう。つまずいて落馬した件についてはは、本当に偶然なのであろう。馬がつまずくこと自体は、それほど珍しいことではないのだから。
結果的には、後者の仮説の方が正しかったようで、サイレントウィットネスは何事もなかったかのように圧勝した。放馬の影響も全く感じさせず、ゴール前でジャンプしてしまうこともなく、危なげない勝利であった。私の悪い予感は的中することなく、馬券も幸いにも紙くずになることはなかった。
しかし、もし馬券を買う前に放馬のニュースを知っていたなら、私はどうしていただろうか。サイレントウィットネスを買うか消すかについて、もっと真剣に考えを巡らしたに違いない。その結果、同じようにサイレントウィットネスを買っていたかもしれないし、もしかするとアドマイヤマックスの単勝なんかを買っていたかもしれない。
いずれにせよ、最後の最後まで詰めて考えることができなかったわけで、私としては不完全燃焼の予想であった。当たり馬券にも、失敗はたくさん転がっている。完璧な当たり馬券など存在しないのだ。
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