
■仕掛け①「左回り、右回り」
左回り(半時計まわり)と右回り(時計回り)では、実際のレースにおいてどのような違いが生じるのであろうか。
人間は足を交互に前に動かすことによって走ることが出来るが、4本足の馬は左右どちらか2本の脚を軸にして走らなければならない。左脚を軸にする走り方を「左手前」、その逆を「右手前」と呼ぶ。左回りだと「左手前」で、右回りだと「右手前」でコーナーを回るが、実際のレースではスタートからゴールまでずっと一方の手前で走り切ってしまうことはまずない。片一方の脚だけを軸にして走っていると当然負担がそちら側だけに掛かってしまうため、コーナーを回りながら騎手が意識的に手前を変えさせたり、馬が苦しくなって道中で手前を変えてしまったりするからである。
道中を「左手前」で走れば、直線では「右手前」、道中が「右手前」であれば、直線では「左手前」で走ることになる。たとえば、「左手前」で走るのが得意な馬がいるとすると、左回りのコースでは、道中は得意の「左手前」で進むことができるが、直線では「右手前」で走ることになる。「左回りの方が行きっぷりがいい」ということは“左手前で走る方が右手前で走るよりも得意である”ということを意味する。
しかし、たとえ道中の行きっぷりがいいとしても、不得意な「右手前」で走る直線での伸びがいいかどうかは別問題である。結局のところ、右回りでも左回りでも、どちらかの手前だけを使って走るわけではなく、基本的にはどちらの手前もバランス良く使って走ることになるのである。
■グラスワンダーは左回りが苦手ではなかった
グラスワンダーは、2歳時にG1朝日杯フューチュリティーS(当時の朝日杯3歳S)を勝利した。その後骨折してしまい、10ヶ月に及ぶ休養後、毎日王冠で復帰し5着。次走のアルゼンチン共和国杯では、6着に敗れてしまった。しかし、休養後3戦目の有馬記念で見事に復活し、その頃から、左回りは苦手で右回りに強いと言われるようになった。
安田記念でエアジハードの2着に敗れた時にも、左回りの東京競馬場が敗因のひとつに挙げられた。しかし、この馬の場合、たまたま敗れたレースが左回りの東京競馬場であったということで、断じて左回りを苦手としていたということではない。 実際にグラスワンダーは2歳時に左回りの東京競馬場で強い勝ち方をしているし、4歳時の京王杯SCにしてもまた然りである。さらに5歳時には、得意であるはずの右回りの日経賞、宝塚記念を惨敗している。 このことからも、グラスワンダーは右回りが得意で、左回りが苦手という説にはなんの根拠もないことが分かる。東京競馬場で負けたレースには他の原因があったと考えるべきで、左回り、右回りはこの馬の走る能力にほとんど影響を及ぼしてはいなかったのである。

■左回り、右回りは競走成績に影響を与えない
グラスワンダーの例からも分かるように、この馬は右利きであるとか、左利きであるという認識は専門家による恣意的なものであって、実際の競走においてはそれほど意味を持たない。もし明らかに左右どちらかの回りで走らないといったことがあるとすれば、それは利き脚の問題ではなく、後に詳しく述べるコースの幅やコーナーの角度が関係しているのではないだろうか。たとえば中山競馬場では走るのに東京競馬場では走らないといった馬のケースでは、それは左回り、右回りが原因ではなく、コースが大回りか小回りかいうことに理由を求めた方が良いかもしれない。
つまり、ほとんどの馬にとっては、コースが右回りか左回りかということはそれほど競走成績には影響がない。最も分かりやすい違いなので仕掛け①として挙げたが、実際のレースを想定して予想をする上では、左回りか右回りかはほとんど気にする必要はないだろう。
upper photo by fake Place
(次回へ続く→)
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