「馬を走らせる」

騎手としてよりも、調教師としての小島太が私は好きだ。私の中にいる騎手小島太は、サクラの馬に乗って大レースを華々しく勝つこともあるが、それ以上に、半ば乱暴に見える騎乗をして、人気馬を凡走させてしまうイメージが強い。我慢が利かないというか、自分の馬の強さを証明してやろうという騎手のエゴが先行しての早仕掛けが多かったように記憶している。鎬を削った岡部幸雄や柴田政人らと比べると、騎手としての才能で劣っていたことは、おそらく本人も認めるところなのではないだろうか。
しかし、調教師としての小島太は才能に溢れている。マンハッタンカフェを筆頭に、育て上げた数々の名馬はご存知の通りであるが、その調教法には開業当初からキラリと光るものがあった。馬なり調教に固執するわけでもなく、坂路調教バカでもなく、当時の実力派トレーナーの調教法のエッセンスを見事に融合しながら、小島太流にアレンジしていた。悪く言えばいいとこ取りの調教法であるが、その馬その馬に合わせた調教方法を柔軟に取り込んだ、非常にバランスのいい調教である。
騎手として成功した人間は、プライドが邪魔をして調教師としては成功できないことが多いが、小島太調教師に限っては当てはまらないだろう。おそらく私たちが持っている華々しくて豪快なイメージとは違い、実に繊細で柔軟な、如才のない性格の持ち主ではないだろうか。厩舎を経営するという視点を持ち、スタッフを育てることに重きを置く。そして、何よりも馬を愛してやまない。この本の全編を通して、小島太調教師のそういった人間性が伝わってくる。そういったことも含めて、小島太は騎手ではなく、調教師に向いているのではないかと思う。もし万が一、私が馬主になって馬を預けるようなことがあったとすれば、小島太厩舎も候補のひとつに入れてみたい。
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