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「藤沢和雄の調教論」

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昨年度、藤沢和雄調教師は、それまで10年間守り続けてきたリーディングトレーナーの座を失った。それでも、日本競馬のパイオニア的存在であることは事実であり、その調教技術においてはまず右に出る者はいないだろう。あれだけの調教師でも、歯車が噛み合わないと勝つことができない競馬の難しさを再認識させられた。少し時間は掛かるのかもしれないが、いつか再びチャンピオンに返り咲いてくれるはずである。

さて、今から10年前に発行されたこの本であるが、今読んでも学ぶところは多い。まず驚かされるのは、藤沢和雄調教師のスタンスが少しも変わることなく貫かれてきたことだ。変化がないということは、進歩がないということではなく、その調教論の中心となる「馬本位(全ては馬のために)」の思想に一貫性があるということである。馬のためにならないことであれば誰がなんと言おうと絶対にやらないが、しかし馬のためになることであれば苦労は厭わないという強い信念を持って走ってきた10年であることがよく分かる。

私が一番興味深く読んだのは、藤沢和雄調教師が故・戸山為夫調教師のハードトレーニングについて語っている箇所である。ご存知のとおり、藤沢和雄調教師が併せ馬の馬なりを中心とした調教法を採るのに対し、故・戸山為夫調教師はいわゆるスパルタ式で馬を徹底的に鍛え上げるという、一見対極に位置する二人である。

馬を壊すことを恥だと考えている藤沢調教師が、馬を壊しながらも、しかしそれに耐え抜いた馬たちには能力を発揮させることで成功した故・戸山調教師について、意外にもこう語る。

「おそらく強くすれば壊れることを最もよく知っていたのは戸山調教師だと思うし、だから限度も知っていたはずですよ。そしてもちろん、ハードトレーニングのあとのケアの仕方も人一倍知っていたんだと思いますよ。」

逆説的ではあるが、スパルタ調教を課すからこそ、どこまで強くすれば馬が壊れてしまうか、そしてハードトレーニングの後のケアについても戸山調教師は誰よりも学んでいて、さらに実感として知っているというのだ。だからこそ、血統的には二流三流でしかなかった馬たちの中から、ダービー馬2頭(タニノはローモア、ミホノブルボン)を誕生させ得たのである。

「どのくらいやるべきかを知っている」ということは、
「これ以上やってはいけない限界も当然知っている」

馬なり調教の藤沢調教師と、スパルタ調教の戸山調教師が、この点において相通じていたのだ。藤沢流“馬なり”調教とは、一見“馬なり”ではあるが、馬にとっては決して生温い調教というわけではない。併せ馬をしながら、各馬の闘争心をかき立てることにより自ら走らせているのである。厳しくやっておかなければ競馬(実戦)に行って馬を苦しませてしまうことになることは、藤沢和雄調教師は百も承知なのである。やりすぎてもいけないし、逆に中途半端な仕上げでレースに臨ませてもいけないという物差しにおいて、一見対極に位置する二人は、実は同じ目盛りを持って調教していたに違いない。

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Comments

藤沢師について書こうとすると、
ずいぶん長くなってしまいそうなので、
短文で失礼します。
もう少しのところでダービーを逃しているので、
来年こそは勝ってほしいと思います。
この表紙の写真、若いですねー

Posted by: さとし | September 09, 2006 at 05:24 PM

さとしさん

早熟で天才的な馬が入って来たときこそが、藤沢調教師がダービーを獲るチャンスでしょう。

そうでもない限り、ダービーに合わせて馬を調教することはないので、どうしても古馬になってからの馬を育ててしまうんですよね。

まあ、私はそんな藤沢調教師の信念が大好きなんですが。

Posted by: 治郎丸敬之 | September 09, 2006 at 11:45 PM

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