変わってゆくことだ
ディープインパクトの動きが、ここに来て一変している。先週今週とDWコースで見せた動きは、まるでかつて走ることを楽しんでいたディープインパクトのそれであった。ひと言で言うと、ディープインパクトに走る気が戻ってきているのだ。おそらく、フランス遠征により環境が変わったことが良い刺激になったのだろう。馬にとってはストレスの少ないフランスでの生活が、ディープインパクトに再び英気を養わせたに違いない。
今年に入ってからのディープインパクトは、調教で全くといってよいほど動かなくなってしまっていた。調教と実戦の違いを分かっていたのではなく、ただ単に、厩舎での生活や、走ること自体に嫌気が差していたのである。デビュー以来、放牧に出されることなく厩舎にて管理され、ストレスの多いG1戦線で勝ち続けることを常に求められたツケが溜まっていたのだろう。絶対能力が圧倒的に高いため、勝つには勝っていたが、今年の春のディープインパクトは、いつどこでプツリと糸が切れてしまってもおかしくないような精神状態で出走していた。
陣営は120%の出来と証言しているが、凱旋門賞のディープインパクトは、精神的にも肉体的にもやや余裕がある状態での出走ではなかったのか。思えば、パドックでも馬が良く見えすぎていたし、返し馬での表情もやや虚ろであった。凱旋門賞というレースの結果だけを見れば非常に残念だが、日本での疲れをフランスで噴出し、皮肉にもかえってリフレッシュした状態で戻ってくることになったのである。
もしディープインパクトが凱旋門賞に勝つようなことがあれば、競馬が変わっていたかもしれないと私は思っている。競馬のスポーツとしての素晴らしさを、まるで野球やサッカーをそうするように、自然と語ることのできる日常がすぐそこまで来ていたと。青臭いと言われてしまえばそれまでだが、競馬が変わるかもしれないという希望を胸に、私は夢のような日々を過ごしていた。残念ながら私の夢は叶わなかったが、それでも、ディープインパクトやその関係者たちが果たした、日本の競馬に対する功績は計り知れないほど大きいはずである。
アラスカの地を冒険した写真家である星野道夫さんによる、こんな詩がある。
「いつか、ある人にこんなことを聞かされたことがあるんだ。たとえば、アラスカのこんな星空や泣けてくるような夕陽を一人で見ていたとするだろ。もし愛する人がいたら、その美しさやその時の気持ちをどんなふうに伝えるかって?」
「写真に撮るか、もし絵がうまかったらキャンバスに描いて見せるか、いや、やっぱり言葉で伝えたらいいのかな。」
「その人はこう言ったんだ。自分が変わってゆくことだって。・・・・その夕陽を見て、感動して、自分が変わってゆくことだと思うって。」
(「オーロラの彼方へ」星野道夫 PHP)
一連の問題については、私たちの過度な期待と注目が引き起こしてしまった部分も少なからずあるのではないかと個人的には思う。いずれにせよ、これから二度と同じ誤りを繰り返さぬよう、事実は事実として受け入れるべきである。だからといって、ディープインパクトにとって、今回のジャパンカップが汚名を払拭するための戦いになるとは決して思わない。ディープインパクトは、もはやそういう低い次元で走る馬ではないのだ。
かのフランスの地で、ディープインパクトや武豊騎手や池江調教師は、何を見て、何を感じたのだろう。私のちっぽけな言葉で表すことなんて、到底出来ない。彼らは変わってゆくことだ。そして、その姿を見て、感動して、また私たちが変わってゆくことだ。
special photo by Ichiro Usuda
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Comments
変わってゆくことか…。
2年ほど前、ディープインパクトと、サムライハートのデビュー予定が被っていたときは「サムライには勝てないだろうなぁ」と、正直思っていた。
その後ディープはあっという間にスターホースになって、僕とは住む世界が違う馬になってしまった。
そのディープの姿を見て、僕は変わっていたのか…。変わっていないと思う。
今こそ、ディープの走りから何かを感じて、自分を変えていく時なのかな…。
ディープの走りを見られることに喜びを感じて、ディープを応援できることに誇りを感じて。
Posted by: マトマル | November 25, 2006 at 02:03 PM
JRAのHPのJC出走表で、
ディープの前走が宝塚記念になっていますね。
ウィジャボードと比べると、明らかな違和感が・・
凱旋門賞の発走までは、何か漠然とした期待感がありましたね。
禁止薬物問題発覚後、パドックの時点で失格になるしか
結末が無かったともう思うとさびしい気もしますが、
凱旋門賞が競馬として、マスコミでスポーツとして取り上げられたことは、
これからの日本競馬の財産になると思います。
そういえば明日の京都メインで、ディープの全兄ブラックタイドが出ますね。
それぞれが生まれた時点では、
馬格からブラックタイドのほうが期待されていたらしいので、
対照的で皮肉ですね。
ブラックタイドが故障しなかったら、現在どうなってたかはわかりませんが、
ディープの強さはただ強いだけではなく、丈夫さというところも大きいと思います。
Posted by: さとし | November 25, 2006 at 02:50 PM
素敵な記事でした。
明日、府中へ行くことにしました。
有馬は観にいけない事情があるので、明日がディープの(肉眼での)見納めです。
しっか! と見てきます。
Posted by: 夏葉 | November 25, 2006 at 09:46 PM
マトマルさん
たぶんマトマルさんも何か変わっていると思いますよ。
変えていかなくてもいいんです。
変わってゆくだけで。
明日の一戦は本当に楽しみなレースとなりましたね。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 26, 2006 at 03:19 AM
さとしさん
>凱旋門賞が競馬として、マスコミでスポーツとして取り上げ>られたことは、
>これからの日本競馬の財産になると思います。
→私もそう思います。私たちは変わってゆかなくてはなりませんね。
ブラックタイドは素晴らしい馬格の馬でしたが、結局それがあだとなってしまいました。
馬体が立派=脚も速いとはならないところが、競馬の面白さのひとつでもありますよね。
確かに、ディープは丈夫な馬です。
そして、それが最も大切なことなのでしょうね。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 26, 2006 at 03:24 AM
夏葉さん
ありがとうございます。
府中に行かれるんですね。
その肉眼で、しっかりとディープの走りを見て来てください。
壁紙の件もありがとうございました。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 26, 2006 at 03:26 AM