もっと好きに
好きな馬がいると、世界はキラキラと輝いて見える。私が初めて本当に好きになったのは、ヒシアマゾンという牝馬であった。黒鹿毛の馬体は薄い皮膚で覆われていて、その艶やかな黒さがほんのりとした色気を漂わせる。いざ走り出すと、完歩の大きなダイナミックなフォームで他馬をごぼう抜きにする。スタートがあまり良くないため後ろから行くことが多かったが、3コーナーから4コーナーにかけてスッと上がっていくあのスッという瞬間がたまらなく好きだった。
ヒシアマゾンが有馬記念で負けた時は、ショックで言葉が出なかった。比喩としてではなく、何か言おうとしても、言葉が口から出てこなかった。まるで世界と私が断絶されてしまい、その溝を言葉で埋めようとしても埋められないような感覚であった。華やかなりしクリスマスツリーと、田原成貴のインタビューを傍目に、当時付き合っていた彼女と一言も口を利かずに、船橋法典から高田馬場まで地下鉄で帰った記憶がある。
彼女が走った他の全てのレースにも、その時代の私のありとあらゆる感情が詰まっている。クリスタルカップの鬼脚は今でも語り草にしているし、ニュージーランドT4歳Sの府中のゴール前で、誰よりも叫んでいたのは私である。エリザベス女王杯は心臓が止まるかと思ったし、京都大章典ではその強さに酔いしれた。マイルまでならばナリタブライアンにも勝てると信じていたので、友人と言い争いをしたこともあった。どのレースも10年以上前のことであるが、その時の心象風景は、まるでつい昨日のことのように浮かんでくる。
好きな馬がいるということは、本当に素晴らしいことだと思う。投資競馬とか、勝ち組とか、競馬予想ソフトとか、いろいろと喧しい世の中であるが、1頭の馬の走りに自己投影をしてしまうことは、競馬を楽しむことの本質に最も近いのではないだろうか。あらたさんのヒシアマゾンに対する淡い思い出や、バランスオブゲームに対するUPUPさんの想いや、onyxkissさんのスウィープトウショウに対する思い入れを目の当たりにして、1頭の馬を好きになることがほとんどなくなってしまった自分に気付かされた。競馬に対する私の後ろめたさを癒してくれたディープインパクトにはとても感謝しているが、彼は私が自らを自己投影するには強すぎる馬であった。好きな馬は好きになろうとして見つかるのではなく、なぜか好きになってしまうものだ。好きな馬ができたことで、今を好きになり、人を好きになり、そして世界が輝き出すのだ。
私は、競馬の世界を心から楽しめているのだろうか。
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ちなみに、2006年に私が最も好きだった邦楽ポップ曲はBankBandの「to U」でした。最初に聴いた時は普通の曲だなぁと思ったのですが、聴けば聴くほど味わい深い名曲です。あなたの好きな馬、好きだった馬との想い出と一緒にご試聴くださいな。

日本人ジョッキーの中では、武豊→安藤勝己→横山典弘→岩田康成騎手の順に上手いという仮説を私は持っている。これはあくまでも現在の仮説であるし、「どの騎手が上手いか」という問いは、「どの馬が強いか」という問いと同じくらいナンセンスであることは百も承知である。












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