「カリスマ装蹄師 西内荘の競馬技術」

競走馬にとっての蹄鉄とは、人間にとっての靴のようなものであり、人間が自分に合った走りやすい靴を履かなければまともに走られないのと同じで、競走馬も自分の蹄にフィットした蹄鉄を履くことによってこそ、ベストパフォーマンスをすることが出来る。
従来の装蹄は、馬の蹄に蹄鉄を釘で打ち込んでいくのだが、ディープインパクトの出現により広く世間に知られるようになった、「エクイロックス」という接着剤を使った装着技術がある。
実は走る馬ほど蹄が薄い。なぜなら、馬が強ければ強いほどトレーニングを課せられる→強いトレーニングを消化すると脂肪が減り皮膚が薄くなる→蹄は皮膚が角質化したものなので、皮膚が薄くなればなるほど蹄も薄くなってしまうからである。走る馬というのは生まれつき皮膚が薄かったりもする。
また、走る馬ほどキック力が強いため、蹄鉄の減りも早く、蹄鉄を打ち替えなければならないサイクルもまた早い。蹄鉄を釘で打ち込む頻度が高ければそれだけ蹄が傷んでボロボロになっていくのは当然で、だからこそ、走る馬ほどより接着装蹄を必要とするのだ。
そういった意味においては、ダービーを勝ったウオッカを始め、関西のほとんどの有力馬の走りは、このエクイロックスを使用した接着装蹄を担当する西内氏の腕にかかっていると言っても過言ではない。そして、いずれかは、物理的に可能な限りにおいて、ほぼ全てのサラブレッドがエクイロックスを使用した接着装蹄の恩恵を授かり、脚元に気をつかうことなく、能力を十全に発揮できるようになる日が来るだろう(接着装蹄ではほぼ100%落鉄することもない)。大袈裟に言うと、下駄を履いて走るかそれとも運動靴かというぐらい違うのであって、それぐらい大切な技術なのである。
しかし、それ以上に私が大切だと感じたのは―競馬の予想をするという立場上―、蹄鉄についている歯鉄の問題である。歯鉄のついた蹄鉄とはいわゆるスパイクのようなものであり、歯の長さが長ければそれだけ引っ掛かりが良くなり、それだけで走る能力が高くなる。JRAの規定では、2mmの長さまでの歯鉄の使用が認められていて、どの程度の長さの歯鉄のついた蹄鉄を使用するかの判断は、各陣営に委ねられている。
たとえば、ウオッカは阪神ジュべナイルF(1着)は、1mmの歯鉄のついた蹄鉄を履いて臨んだという。しかし、歯鉄が長ければキック力が増すので、それだけ馬に掛かる負担も大きく、レース後はさすがに疲れが出てしまったという。そこで、桜花賞では先々を考えて歯鉄のない蹄鉄を履いて臨んだ(2着)。そして、最大の目標であったダービーでは、なんと規定最大の2mmの歯鉄のついた蹄鉄を使用したという。あの33秒ジャストの末脚は、2mmの歯鉄による引っ掛かりが生んだものなのかもしれない。そう考えると、その馬が何ミリの歯鉄のついた蹄鉄を使用しているかは気になるところである。現時点では確認するのは難しいが(たとえパドックでも)、これもいずれかはJRAから発表されるようになるのではないだろうか。それぐらい、陣営の勝負度合いを知るという意味では大切なことなのである。
最後にこれだけは言っておきたいが、あくまでも装蹄は馬が走るか走らないかを決める要素のひとつであるということである。本書には、あたかも装蹄師はサラブレッドの状態の全てを把握していている、もし自分がレースに出走する全ての馬の装蹄を担当しているケースには、その勝ち負けを容易に判断することが出来るかのような記述があるが、決してそうではないだろう。馬券を買う競馬ファンに向けての著作だけに、ある程度の煽りは仕方ないのかもしれないが、誤解を招きかねない部分があると感じた。
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Tracked on June 17, 2007 at 05:19 PM

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Comments
私もこの本は気になっていました。装蹄も複雑な競馬の要素のひとつとして参考になりました。今後も「こんな本を読んできた」に期待しています。
Posted by: hagi | June 14, 2007 at 10:58 PM
hagiさん
コメントありがとうございます。
今ブームになっている装蹄師さんですが、
この本はなかなか面白いですよね。
私としては、装蹄の部分よりも、間違いだらけの競走馬の知識という項が良かったと思います。
これからも本を紹介していきます。
ただ、お勧め本ばかりとは限りませんのでご了承ください(笑)。
Posted by: 治郎丸敬之 | June 15, 2007 at 02:20 PM