集中連載:「Good 馬場!」第1回

■国立競技場で知ったこと
私が学生だった頃、国立競技場でアルバイトをしたことがあった。世界陸上のための準備で競技場の中に入り、機材を運んだりする仕事を手伝っていたのだが、その休憩時に、国立競技場の係員の方がこんな話をしてくれたのを覚えている。
「国立競技場のトラックは、とても走りやすいように工夫して作られているんだよ。なぜかというと、世界のトップアスリート達が日本に来て世界レコードでも出してくれれば大きなニュースになるだろうし、日本、もしくは東京で行われたということも覚えてもらえる可能性も拡がるからね。記録として残るし、人々の記憶にも残るようにね。」
この話を聞いて私は純粋に驚いた。なぜなら、選手の能力とは関係のないトラックまでもが、競技に大きな影響を与えているとは思いもよらなかったからである。誰よりも速く走ることのできる競技者が、どこよりも走りやすいトラックの上で走って、初めて世界レコードが生まれる。そんなこと当たり前ではないかと思われるかもしれないが、当時の私にとっては目からウロコが落ちるような思いがしたのだ。
つまり、選手達がいかに速く走るかだけではなく、競走が行われる「場」の状態も、競走の結果に大きく影響を与えるということを知ったのである。その話を聞いた後、国立競技場のトラックを軽く駆けてみると、確かに硬すぎず柔らかすぎず、クッションが利いていて、足でしっかりと地面を捉えている感触があった。
■競馬における「馬場」の影響
競馬における「馬場」も、レースの結果に非常に大きな影響を与えている。その影響は人間の競走とは比べものにならないほど大きく、「馬場」が変われば、勝ち馬も変わると言っても過言ではない。速いタイムの出る「馬場」では、軽い馬場を得意とするスピード優先の馬が勝ち、時計の掛かる馬場を得意とするパワータイプの馬は苦戦を強いられる。また、雨が降って道悪の「馬場」になれば、良馬場では勝負にならなかったはずの、道悪を苦手としない馬が堂々と勝つ。
それはまるでトランプの大富豪(関東では大貧民)の“革命”のようである。これまで最も強かったはずの「2」のカードが、ひとたび“革命”が起こってしまえば、あっと言う間に最も弱いカードになり下がってしまう。これまで最も強かった馬が最も弱い馬に変わるという天変地異。「馬場」が変わることは、それぐらいの大きな影響がある。そして、当然のことながら、その「馬場」の変化を把握する術(すべ)を持たなければ、私たちがレースの結果を正しく占うことはまず不可能となる。
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