素直になろうよ。

武豊騎手の騎乗に批判が集まったことに対して、私は少しばかり驚かされた。もう少しポップに言えば、「あれっ、ああいう騎乗を期待していたんじゃないの?」という感じであった。見聞きするところによると、ベッラレイアを買っていた多くのファンは、武豊騎手がもっと前の位置で競馬をするという期待を込めていたらしい。だからこそ、ほぼ最後方に近い位置取りからの騎乗に不満を覚えたのだろう。スローな展開で末脚が不発に終わったとなればなおさらである。しかし、結果こそ裏目に出てしまったが、今回の騎乗こそが、武豊が武豊たるゆえんではないのだろうか。
武豊騎手はおよそ届かない位置から届いてきた(届かせてきた)ことで、今までの競馬の常識を覆してきた騎手と言ってもよい。シャダイカグラの桜花賞を筆頭に、ナリタタイシンの皐月賞、ダンスインザダークの菊花賞、スペシャルウィークの天皇賞秋など枚挙に暇がなく、特に大舞台において人気を背負っているからこそ、そのインパクトは大きかった。名騎手でもあった実の父(武邦彦氏)にさえ、「豊は後ろから行き過ぎているのではないかと思うことがある」と小言を言われたこともあったが、現代の競馬においては届くものは届くという信念を彼は貫いてきた。そうした信念をサンデーサイレンス産駒の瞬発力が後押ししたところもある。
当然のことながら、武豊騎手は後ろから行って騎乗馬の末脚を引き出すだけの騎手ではない。スーパークリークやメジロマックイーンのように正攻法の競馬にこだわることもあるかと思えば、サイレンススズカのようにサラブレッドの常識を超えた大逃げを御すこともある。ディープインパクトのように折り合いに危うさを秘めた馬の力を、コンスタントに発揮させ、走らせることも出来る。もしひとつだけ彼の騎乗に流儀があるとすれば、そのレースに勝つためにはどう乗ればいいのかを忠実に実行する(出来る)ということであろう。
今回の秋華賞に臨むにあたって、武豊騎手はベッラレイアの新馬戦からオークスまで全てのレースを見直したに違いない。そして、ローズSに乗った時の感触、追い切りでの手応え、京都2000m内回りで行われる秋華賞の特性などを加味した上で、ギリギリまで脚をタメるだけタメて末脚を爆発させるという作戦を第一にしていたのだろう。ダイワスカーレットに勝つにはこれしかない。さらに、返し馬でベッラレイアがいつも以上に行きたがっていたこともあり、その作戦は必須のものとなった。ほんの僅かでも無駄な動きをしてはダイワスカーレットには勝てない。
ちなみに、道中がスローでもジョッキーが動けない(動かない)という競馬の難しさについて、田原成貴元騎手はこう語る。
スローなレースの流れがわかれば、道中で動けばいいじゃないか。スローで進んで前にポジションを取った馬が有利なのがわかっているなら自分が出て行けばいいじゃないか。私たち騎手はよくそう言われることがある。机上の計算やレースを見ていればなるほどそう言う気持ちも非常によくわかる。しかし、誰も出て行かない。きっと自分が買った馬券の馬がスローなレースの中の後方に位置している場合など、ファンの人は歯がゆい思いでレースを見ていることと思う。ましてや自分の思った通り強烈な差し脚を発揮しても、前の馬を捕らえ切れずに負けた場合等、「だから出て行けばよかったんだ…馬に乗っていない素人のオレでもそんなことわかる」「あの三流騎手が…」そう思われることだろう。
しかし、はっきり言わせてもらえば、出て行けばよほど能力差がない限り、出て行った馬は負ける。たとえ、前の馬は捕らえ切れたとしてもスローな流れの中でジッと我慢に我慢を重ねた馬の餌食になるはず。馬の能力差がない場合、その確率100%と言っても過言ではないでしょう。
武豊ほどの騎手であれば、道中のペースが緩んでいたことに気付かないはずがない。ベッラレイアも窮屈そうに走っていた。それでも、当初想定していた流れと大幅に違っていたとしても、途中から動くよりも動かない方がマシなのである。途中から動いていたら、4着もあったか疑わしい。勝つために後ろから行くと決めたら、それを最後まで忠実に実行するのが武豊の流儀なのである。そういう意味においては、武豊騎手は最後まで誰よりも勝つことを諦めていなかった。
それにしても、私を含め、私の友人のほとんどがベッラレイアに賭けていたことにも驚かされた。彼らは20年近く馬券を買ってきているいわゆるツウ(通)である。彼らはツウであるからこそ、ダイワスカーレットを逆転する可能性をベッラレイア、いや武豊に見たのかもしれない。しかし、もしその可能性が武豊の考えた可能性と違っていたとすれば、批判されるべきは正攻法で勝つには能力が足りないベッラレイアに賭けた自分の馬券だろう。やはり、競馬は前に行ける馬が有利で、当然のことながら勝つ可能性も高い。そんな当たり前のことも私たちは忘れてしまっていたのかもしれない。分かっていて可能性の低い方に賭けたのであれば、ダイワスカーレットの2.8倍、ベッラレイアが3.8倍という単勝オッズはあまりにも分が悪すぎた。ねえみんな、もう少し素直になろうよ。
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Comments
壁紙どうもありがとうございます!
ただ、設定してると馬券が悔しくなってくるので、
時間がたってから設定しようと思います(笑)
武騎手についてですが、
うちのブログではかなり抑えて編集しているのですが
実態はあんなものではないです。
ここが一番難しいところなのですが、
現金がかかっていると、
どうしても皆冷静になれないんですよね。
Posted by: さとし | October 30, 2007 at 08:11 PM
素直になった人です(笑)
私はあくまで戦略上の問題で武豊騎手が前につけるのではと
考えていました。
計算上どうやっても後方からでは届かないと踏んだので
武豊騎手ならダイワスカーレットよりも先に追い出す策もあるかな、
とまで考えていたんですが(^^;武豊騎手の選択は後方でしたね。
無論、武豊騎手なりの計算があり、勝算があり・・・
もしくは状態的に苦肉の策だったのかもしれませんが
「勝つための騎乗」であったことは絶対的にたしかだと思います。
それにしてもベッラレイアは人気してましたね(^^;
私の身の回りでもベッラレイアに期待する声が多かったです。
日本人好みのドラマがそこにあったからでしょうか・・。
ダイワスカーレットが悪役になったかのようで
妙な気分になりました(笑)
Posted by: けん♂ | October 30, 2007 at 08:49 PM
いつも楽しく拝見させていただいております。また、今回のエントリーもなるほどの内容で驚いています。でも、こういう見解の人も多いと思い、代表選手として(?)コメントさせて下さい。
>正攻法で勝つには能力が足りないベッラレイア
正攻法でもダイワとはいい競馬だろうと思っています。ではなぜ正攻法を取らなかったのか?
>ダイワスカーレットに勝つにはこれしかない。
これが、「ウオッカに勝つにはこれしかない。」だったと思っています。
桜花賞でのアストンマーチャンも今回も、「まともじゃ勝てない相手」は、ウオッカだったのだと。
だから、あの日、あの位置取りは、私は予想通りでした。最後まで我慢していたのも、予想通りでした。ただ、すぐ目の前を走っているウオッカを見て、もう「ああ、こりゃダメだ」あるいは、「四位、なにやってんだ」と思っていたのだろうと。
はい、もうバレましたね、私の馬券はウオッカの単勝でした(笑
しかしなるほど、世紀の凡戦になったかに見えた秋華賞も、こうして皆であれこれ言える要素が満載、話せば話すほど奥深いレースとなってゆきますね。面白いものですね…
それと、今回の話題とは直接関係なくなりますが、
>武豊ほどの騎手であれば
わたしは、この言い回しに鋭く反応しましたよ!
さて、治郎丸様は、どのくらいの騎手ならばあのレースに乗っていて、スローだと分かると考えていらっしゃいますでしょうか?それがわかったからどうだ、という話は抜きにして、伺いたいと思います。因みに、私は、中央所属では武豊騎手と、あとたった一人だけぐらいなものだと考えていますが…
<長文失礼致しました>
Posted by: 78 | October 30, 2007 at 09:15 PM
うーん。
私はシロウトの考えで、ドリさんのブログにベッラレイア騎乗について、秋山どころか、1流半、または2流でも乗せとけばあの展開にならず2着はあったんじゃないかと書いてしまいました。
パドックの怪人西川さんにまで反論したりしてしまいました。
どう考えても、4角最後方はないだろうと。
治郎丸さんの見解を読んで、確かにと思いました。
素直になりました(笑い)
Posted by: ヤブ | October 30, 2007 at 11:53 PM
『ダイワスカーレットに勝つにはこれしかない』・・・
確かにそうだったのかもしれないですね。ただ単に2着狙いだったらもう少し前で競馬をしていたかもしれません。
勝ちに拘った武豊騎手は、一度前哨戦で騎乗した(ローズSで対戦)ことで正攻法ではダイワには敵わないと思ったのでしょう。それならば脚をタメるだけタメて直線での爆発的な末脚を駆使できそうな魅力を感じるベッラレイアの能力に期待したのでしょう。
ただそれは武豊騎手が、それまでにベッラレイアに一度しか騎乗していなかった為に、末脚は切れるといったイメージだけで騎乗したことにもあった可能性もあるとは思いますが・・・。
結局本文と同じようなコメントになってしまいましたね。
『考えて乗る騎手』
大舞台で、そういう思い切った騎乗をできるのは数少ないですね。他では桜花賞でウオッカを負かしたダイワスカーレットの騎乗を見る限り考えて乗れる騎手は安藤勝騎手くらいでしょうか。
Posted by: 碧音一番星 | October 31, 2007 at 12:19 AM
さとしさん
どういたしまして。
この写真を見ていると、馬券を外したことなどどうでもよくなりますよ。
即刻、設定するように(笑)。
武騎手の騎乗には賛否両論があるのは分かっていて、このエントリーは書いています。
お金を賭けていると冷静になれない気持ちは分かります。
私もこの次の週で柴山ぁぁぁって思いましたから。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:22 AM
けん♂さん
けん♂さんは素直だったというよりも、完全に信頼していましたよね。
当たっても外れても、それが何よりも大切なことだと思います。
>武豊騎手ならダイワスカーレットよりも先に追い出す策もあるかな、とまで考えていたんですが
→おそらく武騎手はそこまでベッラレイアの力を信頼していなかったのでしょう。
というよりも、ダイワスカーレットの強さが底知れないということなのかもしれませんが。
確かにダイワスカーレットはなぜか悪役ですね(笑)。
だからこそ美味しいとも言えるのではないでしょうか。
そのあたりは、けん♂さんが一番ご存知かと。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:27 AM
78さん
こんばんは。
こちらこそいつもありがとうございます。
武騎手の騎乗には賛否両論があるのが分かっていて、このエントリーは書いています。
おそらくマジョリティの反感を買うことも承知で(笑)
>正攻法でもダイワとはいい競馬だろうと思っています。ではなぜ正攻法を取らなかったのか?
→(現時点では)正攻法では勝てないことがローズSで分かったのか、もしくはベッラレイアの良さを引き出すには正攻法ではなく後方からということだったのだと想像します。
これについては、日本のトップジョッキーである武騎手がそう判断したという事実を重く考えます。
>これが、「ウオッカに勝つにはこれしかない。」だったと思っています。
→なるほど、その考え方は面白いですね。
確かにそうだったのかもしれません。
ウオッカの強さはサークル内では周知のことですので、目標はウオッカで、ウオッカが動いてから動くという作戦だったのかもしれませんね。
>しかしなるほど、世紀の凡戦になったかに見えた秋華賞も、こうして皆であれこれ言える要素が満載、話せば話すほど奥深いレースとなってゆきますね。面白いものですね…
→そういうことですよね。
馬券の当たった外れたで騎手の乗り方どうこうを感情的に言っても、あまり面白いものではありませんからね。
と言っても、私も文句を言いたくなることもありますが…
>治郎丸様は、どのくらいの騎手ならばあのレースに乗っていて、スローだと分かると考えていらっしゃいますでしょうか?
→この質問だけについては、名前を挙げると、それ以外の騎手はどうなるということになって、色々と問題が生じますのでご勘弁ください。
間違いなくこのレースを勝った安藤騎手は分かっていると考えています(答えにならなくてスイマセン)。
それよりも78さんのもうひとりを知りたいですね。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:41 AM
ヤブさん
こんばんは。お久しぶりです。
武騎手の騎乗には賛否両論があるのが分かっていて、このエントリーは書いています。
おそらくマジョリティの反感を買うことも承知で(笑)
おっしゃる通り、武騎手でなければもしかしたら2着という結果もあり得たのかもしれません。
ただ、武騎手は「勝つための騎乗」をしたのだと思います。
だからこそ、単勝を買った私は負けても納得でした。
3.8倍というオッズには納得しませんでしたが。
私はいつまでも素直になれず苦しんでいます。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:44 AM
碧音一番星さん
こんばんは。
私も碧音一番星さんとほぼ同じ見解ですね。
>ただそれは武豊騎手が、それまでにベッラレイアに一度しか騎乗していなかった為に、末脚は切れるといったイメージだけで騎乗したことにもあった可能性もあるとは思いますが・・・。
→もちろん武騎手の感触も間違うことはあって、末脚は切れるというのが思い込みであることもあり得るでしょうね。
オークスのようなレースも出来ない馬ではありませんから。
もっと言うと、武騎手の作戦は結果的に失敗したわけで、秋山騎手よりも結果を出せなかったということです。
私は秋山騎手のオークスは消極的で、武騎手の今回は積極的だったと思います。
消極的に乗って結果が2着、積極的に乗って結果が4着、競馬は面白いですよね。
別にこれは秋山騎手と武騎手の実績を盾にモノを言っているわけではありません。
『考えて乗る騎手』
そして、考えたことを実践できる騎手は少ないですね。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:50 AM
素直になればなる程、あの位置取りは・・・・。
後方から途中で動け!と言ってる訳では無い。
最初からあの位置取りに持って行った事に不満。
最初の1~2ハロンでペースが早いと判断してしまったのだろう・・・。そう考えると仕方が無いのかも知れない。
武騎手にすれば、「GⅠなんだから、もう少し誰か競りかけろよ」という感じなのかも知れませんねー。
ただ、私は最初からペース云々ではある程度前の位置でレースをすると思ってたので、不満なんですよねー。
一昔前にアイリッシュダンスで天皇賞辺りに挑戦してた年はこういう後方から届かずのレースを何回もされただけに、あの頃を思い出して、更に歯がゆかったです。
Posted by: はやひで | October 31, 2007 at 02:45 AM
治郎丸さん。おはようございます。
お世話になっております、でたまかでございます。
とても、興味深いテーマなので、本来は、物言うほどの経験も知識もない私めでございますが、一言。。。
>シャダイカグラの桜花賞を筆頭に、ナリタタイシンの
>皐月賞、ダンスインザダークの菊花賞、スペシャル
>ウィークの天皇賞秋など枚挙に暇がなく、特に大舞台に
>おいて人気を背負っているからこそ、そのインパクトは
>大きかった。
素直に、そう思います。あんな騎乗ができるのは、私が知るジョッキーの中では、天才の田原元騎手だけだと思うのです。
>やはり、競馬は前に行ける馬が有利で、当然のことながら
>勝つ可能性も高い。そんな当たり前のことも私たちは
>忘れてしまっていたのかもしれない。
物理的にも、4コーナーを前の位置で回って、直線に行ける馬が、その時点で後方にいる馬より、有利であること。これは、レースの大原則ですよね。
だって、その後のレース展開は、神様しかわかりませんもの。それが、競馬。それも、競馬って、ことでは、ありませんか?
大言、失礼致しました。
By でたさん
Posted by: でたまか | October 31, 2007 at 04:53 AM
はやひでさん
武豊騎手のこの騎乗については、賛否両論があると思いますし、どちらが正しいというわけでもありませんよね。
私としては、馬券を買った身として、勝ちに行ってくれたこの騎乗には納得しました。
>武騎手にすれば、「GⅠなんだから、もう少し誰か競りかけろよ」という感じなのかも知れませんねー。
→もちろんこういうこともあったと思いますよ(笑)
こういう展開になると分かっていれば、もう少し前に位置していたかもしれません。
武騎手だって、結果的には失敗したと思っていることでしょう。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:48 PM
でたまかさん
大言なんて、とんでもない。
>だって、その後のレース展開は、神様しかわかりませんもの。それが、競馬。それも、競馬って、ことでは、ありませんか?
→そうですよね。
レースは生き物で、だからこそ、ゲートが開いてみるまで結果が分からないのです。
いくらこちらかない頭をひねって考えても、それ以上に複雑で豊かなことが現実には起こってしまうものですよね。
競馬の神様とトモダチになりたいなぁ。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 31, 2007 at 12:50 PM
トゥザビクトリーでエリザベスを勝った時、後方から思い切った競馬をして勝利した武騎手を全員が絶賛した。
武騎手は「同じ乗り方をしろと言われても出来ないだろう」と言い切った。
すなわち、こういう時に絶賛出来て、失敗して負けた時にも諦めれるのが治郎丸さんでしょうね。
私は、こういう時にけなして、失敗したら尚更けなすタイプなのです。(笑)
Posted by: はやひで | October 31, 2007 at 06:59 PM
はやひでさん
息子の1歳の誕生日祝いに箱根に温泉旅行に行って、今帰ってきました。
トゥザビクトリーのエリ女は神がかり的な騎乗でしたよね。
あそこまでいくと、参りましたと言うしかありません。
ジョッキー批評は難しいのですが、勝っても批判されるべき、負けても評価されるべき騎乗もあってもいいですよね。
もちろん私も、ふざけるなー!ってことありますよ。
代弁してけなしてくれるタイプも必要です(笑)
Posted by: 治郎丸敬之 | November 01, 2007 at 06:48 PM