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ルドルフおやじから最後の手紙

Rudolf

女傑ツキシロの末裔にジンクエイトという馬がいました。66,5キロを背負わされたテンポイントが競走を中止した、凍える日本経済新春杯の4角。そこで起きていることに競馬場の視線が集められるなかを、静かに1着でゴールした馬がジンクエイトです。26戦6勝、うち重賞1勝。最も静かなゴール。人間にとってはありふれたことなのだが競馬場でこんなに静かなゴールを見たことはない。主戦、清水英次。病床で自らの死を公表してほしくないとおっしゃったそうだが、敢えてお悔やみ申しあげたい。

朝日杯当日の関西テレビで放映された、サムソンのオーナー松本好雄氏のインタビューは秀逸な企画でした。「僕は高橋騎手の豪快な騎乗ぶりが好きでね、それ以来のお付き合いなんですよ」と語る松本氏、なんとなく高橋成忠師のことが分かったような気がしました。

トウメイの天皇賞で「マイルの競馬を2回走るつもりで乗れば勝てる」と清水英次騎手に助言した高橋成忠。どうやら信ずることができるという資質は誰しも持ち合わせているものではないようです。勝負師としてもっとも大切な力だと思います。奔放に馬を御すと見えた騎乗ぶりには高橋成忠の馬に対する「信」があったのかもしれません。

仮にですよ、サムソンの騎手が石橋守ならば、高橋成忠は迷わず「信じて乗れ」と言ったに違いありません。ところが騎手は武豊ですね、うむうむここが味噌で、しょうゆ、失礼しょうぶの綾が生まれそうな気がしているんです。高橋成忠、なんと言うのかなあ。「任せたよ」ならばウケにまわっている。

「ちょっと内がゴチャついていたし、馬場も内が荒れていた。1番人気馬だから無理にインに入っていくのもどうかと思いましたから」サムソンは前走、はじめての1倍台の人気で出走して敗れました。どんな名手でもはウケにまわったときは案外もろいですね。武豊のコメントはそういう騎手の心理を語っているように思えました。

馬の力を信じてウチを突き進んだ岩田騎手のムーンとは対照的に、サムソンは最大の武器である闘争心を眠らせたままゴールしたように見えました。鞍上が冷静にレースを読める名手だったからこそ負けたのでしょうね。石橋騎手ならば勝てたなんてことは言えません。が、石橋騎手ならば迷うことなくウチを突いてゴチャつく馬群をこじ開けようとしたと思います。それが信じて乗るということだからです。時に勝負の世界では冷静な分析よりも信じることの方が大切な場面があるようです。

今回、ポップロックという強力なライバルがいるのは、殺戮の神サムソンにはむしろ好都合でしょう。この馬は自分でレースをつくったときよりも強い敵がいたり混戦になったときの方が強い競馬をしてきたと思うんです。1枠1番否応なくサムソンの荒ぶる魂が掻き立てられます。

治郎丸さんはJCのサムソンを少し余裕があるように見たのですね。秋は3走、なんとか2勝1敗でいきたいと、高橋成忠は3という数字を繰り返し言っています。秋3戦を同じ体調で走られるように作ってきていると治郎丸さんのおっしゃる通りです。インフルエンザ、天皇賞制覇、JCの敗戦、まさに禍福はあざなえる縄のごとし、有馬の勝利はそこに見えています。後は武騎手がどれだけサムソンを信じて乗るかでしょう。

「関係者に、勝っていると言われてホッとしたよ。これで3冠騎手? いや、それよりこの馬が菊花賞を勝ってくれた喜びの方が大きいね」と語るのは、菊花賞の四位騎手です。この方はダービーの後で「もう騎手をやめてもいいです」と言っておられました。やめなくてよかった、がっはははは。

この方は気持ちのやさしい人なんでしょうね。菊花賞4番人気の馬で勝ってホッとしたり、ダービーを勝って騎手をやめたくなったりするんですから。彼岸の清水騎手もこの方になら、「信じろ」と助言しやすいかもしれません。

「力があることが改めて分かったよ。一瞬、オッ!という感じがあったから」というのがJC後のコメントです。おやじも一瞬、オッと感じましたよ。力があることが改めて分かったのならそれを信じて乗るでしょう。今回、ウオッカが挑もうとする相手はどんな競馬をしても勝てるというような相手ではありません。勝つチャンスがウオッカに訪れるのは、先行する古馬より鋭い末脚を繰り出せた時だけです。ワンチャンス。ならば四位騎手はウオッカの最大の武器である末脚を信じて賭けるほかありません。

中山開催は外の伸びない、内にいる先行馬有利の馬場で開幕しました。少しは馬場も荒れて追い込みがきくようにはなりましたか。それでもウオッカにとっては苦しい馬場には違いありません。しかし負けを恐れてはいけません。勝負だから負けはあります。それどころが競馬ならば九割以上は負けます。大きく負けるのは負けを恐れる人なのです。レースの流れに乗って・・・など考えてはいけないような気がします。先行して末脚をさらに伸ばそうという馬がそろって先行馬群から脱落する馬も多いと思います。この馬にもチャンスはありと見ました。

角居勝彦師は頭脳派の調教師として有名ですが、おやじにはおおらかな人柄が魅力です。この方のコメントは正直でおもしろいですよ。秋華賞の前には「ウオッカは一流馬だからそのレベルを維持することに努めている」というウッカを褒めているんだか、自信がないんだかわからないようなコメントを出していました。エリザベスを取り消してJCに向かう時には「ご迷惑をかけました。損を取り戻してもらいます」と軽口を叩いている。そして今回はコメントの冒頭で「ご心配をおかけいたしました」ときた。心配は過去のものなんですね。もう大丈夫、心配はいりません。

「スタートが良く、スムーズに流れに乗れた。勝った馬は強いね。でもこの馬の強さも分かってもらえたはずだ」ペリエ騎手はJCのあと、ポップロックをこう評しています。確かに去年の暮れよりもポップロックは強くなっていると思います。

ポップロックは日本のG1に参戦して毎回堅実な走りを見せています。外国人騎手や地方の騎手は馬の特長をつかむのが本当に上手です。ポップロックの母系はパワー血統なんです。来年ここから必ずダートの大物が登場しますよ。ペリエ騎手はパワーを生かす積極的な競馬をしてくると思います。徹底的に逃げ馬をマークして底力勝負に持ち込むでしょう。先行馬の死命を制するのはペリエ騎手です。

父のエリシオはポップロックを唯一の活躍馬として送るワンホースサイヤーですね。実は有馬記念はワンホースサイヤーの歴史でもあるんですよ。ポップロックという歴史の1ページが加わるかも知れません。

ダイワスカーレットの松田国英師は「なぜ人気がないのか」と語っています。その通りですね。フサイチパンドラを破った(失格になった)Kプリンセスが宝塚で強い競馬をしたことを思うと、スカーレットにも十分すぎるほどの勝機はあります。コースや距離はむしろウオッカより向いています。今回はこの馬を頭にしないのでおやじにとっては実に怖い存在です。しかしウッカのようにダービーやJCなどで一流の牡馬に揉まれた経験がないというのが負い目となります。ただ雨の降る有馬記念ならば1着も考えておくべきだと思います。

Dメジャーはラストランですね。お疲れ様でした。なぜおやじに馬券を取らせてくれませんでしたか。失礼。不屈の魂をもった馬です。アメリカから種牡馬としてオファーがあったそうですね。もったいない。日本での初年度の種付け料は500万だそうです。おやじの月収ほどでまあまあかな。因みにユートピアのアメリカでの種付け料は30万ほどだそうですので、アメリカへ渡れば価値が下がるということかな。それでもこの血は明らかにアメリカ競馬向きなので本当に惜しい気がします。

ロックドゥカンブはMキネーンを配してきました。キネーンはカンブの父も母も知っているそうです。うむ、うむ、これが競馬だ。前走はもう少し前につけられれば、という恨みを残したのでこの手がわりはいいかも知れません。それにしても3歳牡馬はか弱いですね。菊花賞1、2着馬がJCにも有馬にも顔を見せない。

堀宣行調教師がおもしろいことを言っています。
「いいえ、必ずしもそうとは思っていません。ディープインパクトが負けた時もこの臨戦過程だったように、むしろ仕上げは難しいかもしれません。だから、一度放牧に出して心身ともにリフレッシュさせたのです。」

冒頭の「いいえ」というのは「余裕をもったローテですね」という言葉を否定したものです。堀宣行調教師という方はおやじには馴染みのない調教師なのですが、このインタビューを読んで恐ろしい人物のように思えました。ディープの失敗をきちんととらえて自らのとるべき方策を打ち出している。セントライトの強い競馬を忘れたら痛い目に遭うかもしれません。

佐藤哲三とインティライミにはJCで悪いことをした。おやじの気合いが馬に乗り移ってしまいましたね。おまけに佐藤さんは怪我までして本当に申し訳ない。

Dパスポートは世代最強馬だと思っています。ただ20年に一度出てくる無冠の帝王というやつですね。治郎丸さんは無冠の帝王といえば何を思い出しますか。おやじならバンブトンコートなんですがそれ以外は思い浮かびません。帝王であって無冠という二律背反した命題を解く存在なので3冠馬より珍しいわけだ。なるほどこの馬、無冠の帝王でいたいがためにわざと負けてるんだな。よし次は無冠の帝王特集でいこう、いや、有馬記念ワンホースサイヤー伝説でいこう、しまった!おやじは隠居するんだった。

治郎丸さん、今日までありがとうございます。

手紙でよかった、往復書簡がこの1通で区切りを迎えると思うとやはり泣けてくるからねえ。

1年半付き合ってもらったのですか。「楽」のある時間を過ごさせてもらいました。だって好きなことをバンバン書けるわけでしょう。ノーコンピッチャーが好きに投げていいよ、と言われて「楽」しんでいたようなもんです。こんな「楽」な時間をもたせてもらった人間はおらんだろう。

受けとめる方は毎回大変だったと思います。あらためて治郎丸さんに感謝です。おやじの方は治郎丸さんの球を受け損なったことがある。これは反省だ。分からなかった部分はこれからまたひとつひとつ考えます。

惜しむ、惜しむ。おやじの隠居のことではありませんよ。病床にあるオシム監督のことです。とんとサッカーの分からぬこのおやじがオシムサッカーを見て何となくサッカーが好きになった。本当に物が分かっている人ってすばらしいですね。サッカーが見えなかったおやじにちゃんとサッカーを見せてくれている。

治郎丸さんが目指しているのはたぶんそういうことなんだと思っています。競馬、好きですか、がっはははは。おやじは大好きです。がっははははは。しかし競馬を競馬として見せるというのは難しいですね。サッカーや野球はスポーツという言葉で括れるんでしょうが、競馬は競馬ですからね。スポーツだと誤解されたりギャンブルだと誤解されたり、数学や統計学だと思われたり、色々難しい。

1000キロも離れていますがおやじは治郎丸敬之を応援します。そしてちょくちょく邪魔させてもらいますよ。ありがとう、ありがとう、感謝の言葉しかありません。

最後になりましたが手紙を読んでくださったみなさん、ありがとうございました。てめぇーのせいで大損こいた、なんて苦情がないのは心外だったなあ。これでも毎回当てにいってたんですよ。いつも手紙の最後に載せている◎とか○とか、あれ、冗談ではなかったのですよ。がっはははは。ガラスの競馬場に訪れていらっしゃる方は皆手強い。お元気で、またお目にかかれればと念じております。ありがとうございました。

◎ウオッカ
○メイショウサムソン
△ポップロック
×ロックドゥカンブ
×ダイワスカーレット
穴パンドラ

雨はだいじょうぶかな、事故のないようにお願いしたいものです。

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Comments

ルドルフおじさま こんばんは。

最後のお手紙とは・・・年の瀬に切ないですね。
いつも楽しく、拝見させていただきました。
どうもありがとうございます。

私は競馬歴は浅く、血統などにもとても疎いのですが
そういったものを超越して時として馬はレースで勝ちます。

JCのパドックで初めてポップロックの気合を見ました。
アドマイヤムーンは力強い返し馬をしました。
馬を見れば世間の評価なんてちっぽけなものです。
その世間の評価と、自分の目にしたものを信じられず、
ここのところ馬券が活気のないものになっています。

競馬は信じる心を養う修行のようなものですね。

有馬記念は、自分の信じた馬を購入したいと思います。

Posted by: onyxkiss | December 22, 2007 at 09:28 PM

最後のお手紙、楽しく拝見しました。

私の知らない時代からの競馬を、ルドルフおやじさんの視点とその時代の空気感も含めての言葉で表した手紙を楽しみに読ませていただきました。

あとになってからしかわかりませんが、その時のレースにはその時にしかない空気感がありますよね。私もその空気感をこれからもずっと見続けていきたいと思います。

Posted by: nozoweb | December 22, 2007 at 10:45 PM

ルドルフおやじさん、最後にして初めまして。
いつも楽しい手紙を読ませていただき、ありがとうございました。
ルドルフおやじさんが書く、その時・場所・情景が思い浮ぶ手紙が大好きでした。
スプリンターズSの時に書いていらした、ケイエスミラクルの話が嬉しかったですね。
とても大好きな馬でしたので。
ルドルフ親父さんの手紙から教えて頂いたものは、かけがえの無い物ばかりです。
また再開の日を楽しみにしております。
良い有馬記念を!

Posted by: M | December 22, 2007 at 11:53 PM

onyxkissさん、おはようございます。

ご愛読いただきましてありがとうございます。

寺山修司がたくさん賭けたものが勝つ、と言っていたと思うんです。たくさんって何かなあとずっと思ってました。

最近、信じることも、その「たくさん」のなかに入っているのかなと考えています。

「競馬は信じる心を養う修行のようなもの」名言!

どこかでごいっしょに修行できるといいなあ。

Posted by: ルドルフおやじ | December 23, 2007 at 04:46 AM

nozowebさん、おはようございます。

おやじの昔話で時代の空気が伝わっているとすれば、こんなに幸せなことはありません。ありがとうございました。

今の時代の空気ってどうなんでしょうね。
立ち止まることを許してくれないほど、何かに押し流されている気がしてちょっと気になっていたところなんです。

お元気でいてください。また会いましょう

Posted by: ルドルフおやじ | December 23, 2007 at 04:56 AM

Mさん、おはようございます。

ケイエスミラクルですね。
あの時いっしょに走っていた馬の血が復活しようとしていますね。

来年は何度も何度もケイエスミラクルを思い出すことになるかもしれません。

クフティーPがミラクルの近親でしたか。

きちんとミラクルの血は続いていますね。終わりはないのですね。

お元気で。またの機会を!

Posted by: ルドルフおやじ | December 23, 2007 at 05:06 AM

ルドルフおやじさんの記事おもしろくて好きでした
ときに、おやじさんが初めて競馬見たのっていつ頃だったんですか?よろしかったら一番好きな思い入れのある馬や、一番強かったと思う馬、一番見ごたえのあったレースなど伺いたいのですが
あと、ダイワメジャー&ダイワスカーレット、ビワハヤヒデ&ナリタブライアン、タニノムーティエ&タニノチカラの3組から「史上最強ブラザーズ」を選ぶとしたらどれか、「優駿」あたりに選考を依頼されたつもりで考えてみてください(笑)

Posted by: マークコールマン | December 23, 2007 at 05:23 PM

コールマンさん。
お返事おくれてすみません。

ありがとうございました。

はじめて競馬を見たのは小学生のころ。白黒テレビでハイセイコーを見ました。人気だけならばDインパクトより上だったと思います。おやじもさらばハイセイコーなんて唄っていました。

思い出の馬、悩みますねえ。見ごたえのあったレースはもちろん自分の勝った馬券が当たったレースということになります。

メジャーとスカーレットは有馬で頑張りましたねえ。素晴らしい兄弟です。

コールマンさんもお体に気をつけて競馬を楽しんでくださいね。ではまたの日を。

Posted by: ルドルフおやじ | December 25, 2007 at 05:50 AM

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