集中連載:「Good 馬場!」最終回
■ダートの馬場状態
次はダートコースにおける馬場について話を移したい。芝の馬場状態を把握する時と同じように、(1)どれくらいの重さ(軽さ)か?(2)馬場の内外で差はないか?(3)レースで極端な傾向はないか?の3項目に絞って考えてみたい。
まず、(1)どれぐらいの重さ(軽さ)かについては、①砂の深さ(厚さ)②砂の質③馬場が含んでいる水分の量によって大きく変わってくる。
とは言っても、現在では、ダートコースの①砂の深さは8cmに統一されており(滞在馬が多い札幌、函館、小倉競馬場は調教用に砂厚を8.5cmにしているが)、また全ての競馬場において青森県の六ヶ所村から採った山砂が使われているため、どの競馬場のダートコースも、①砂の深さ、②砂の質という点においてはほとんど差がない。
そのため、ダートの重さは、③馬場が含んでいる水分の量によって大きく変化する。水分を含んでいればいるほど砂が引き締まり、脚抜きがよくなることによって、馬にとっては走りやすい、軽い馬場状態になる。つまり、芝とは正反対に、ダートでは「良」→「稍重」→「重」の順に馬場が軽くなっていくと考えてよい。ただし、「不良」のダートについては、脚抜きは良いが水が表面に浮いているため、かえって走りにくい馬場となる。
また、馬場が含んでいる水分の量は主に降雨の影響が大きいが、それ以外にも「季節」や「砂を洗った時期」にも影響されることがある。
「季節」については、たとえ同じ良馬場だとしても、適度に水分を含んだ春や秋は走りやすい馬場となるが、砂中の水分が蒸発しやすい夏場と、乾燥しやすい冬場の馬場は比較的重くなる。
「砂を洗った時期」については、砂を洗った直後はサラサラになるため、一時的に引っ掛かりが悪く、走りにくい馬場になる。開催が進むにつれ、どうしても砂は汚れてきて、脚のかかりが良くなって走りやすくなる面はあるが、クッション性が失われてしまう。そのため、どの競馬場も年に1~2度は開催終了後に砂を洗う。たとえば東京競馬場の場合、ダービーの開催が終わって、夏から初秋までの間に行われる。そのため、秋競馬の最初は時計の掛かるダートになることが多い。砂を洗う時期は競馬場によって異なってくるので、JRAのホームページの「馬場情報」でチェックしておくべきであろう。
(2)の内外で差はないかについては、レースが進むにつれて砂は内側に流れるということは知っておくべきである。排水の関係で内側が低くなっているからである。日曜日の最終レースに近づくにつれ内側が重くなっていくのだが、競馬のない平日に内側にたまった砂をコース中央部に戻す作業が行われるため、実際にはトラックバイアスというほどの有利不利はほとんど生じない。ダートという馬場の特性上、やはり芝の馬場に比べると内外のトラックバイアスは少ないと考えてよいだろう。
さらに細かいことを言うと、土曜日に雨が降った翌日の日曜日や、午前中に雨が降った日曜日の午後などは、内側に砂が流れて重くなるということ、札幌、函館、小倉競馬場に関してだけは、調教用に使われる内側2頭分くらいの幅の砂が深くなっているので、内に入った馬が不利になることは知っておいてもよいかもしれない。
(3)のレースで極端な傾向はないか?については、ダートの馬場は雨が降って走りやすくなると、非力な牝馬が活躍する傾向がある。この傾向は特に地方競馬で顕著である。中央競馬であれば芝のレースを使えば良いだけの話だが、ダートしかない地方競馬では、たとえ非力な牝馬でもダートを走らざるをえない。そうした中、普段はパワー不足で負けていた牝馬が、適度に雨が降ってパワーをさほど必要としない馬場になるため、スピードと切れ味で牡馬を相手にあっと驚く好走をすることがあるのだ。
もしそれ以外に極端な傾向があるとすれば、それは馬場状態ではなく、コース設定(形態)によるものである。たとえば、中山のダート1800mは時計が掛かり、前に行った(行ける)馬が極端に有利とされるが、これは中山競馬場のダートコースが全競馬場の中で最も起伏に富む(最大高低差4.4m)ことに起因する部分が大きい。1周回って来た時には、どの馬もすっかりスタミナを消耗してしまっていて、前もバテているが後ろも同じくらいバテているという、行った行ったの典型になりやすいからである。
■「場」を知ること
最後に、最近アメリカで話題になっているポリトラックの馬場の話をして締めくくりたい。ポリトラックの馬場とは、ゴムや電線の被覆絶縁体等の廃材、ワックスされた砂、弾力性のある繊維などを活用したものであり、水はけがよく全天候型であるだけではなく、砂ぼこりを抑制するため人馬の健康面にも良く、さらに競走馬の脚元への負担が極端に少ないとされている。現在、カリフォルニア州のすべての競馬場は、従来のダートの馬場ではなく、ポリトラックのような合成素材の馬場を設置することが義務付けられている(日本でも平成19年11月16日より美浦の南Cコースにニューポリトラックのコースが完成した)。
しかし、これだけ安全であることが証明されているにもかかわらず、ポリトラックの導入に反対する馬主や調教師がいるという。なぜなら、ポリトラックの馬場はスタミナを消耗しやすいので、スタートからガンガン飛ばして行くようなアメリカ的な流れにはならず、自分たちが現在所有している、これまでスピードにモノを言わせて勝ってきた馬にとっては活躍の場を失うことにもなりかねないからである。馬場が変わることは、その国で生産される馬の質を変え、育成手段をも変え、最後には調教を施す人間や、レースで騎乗する騎手をも変えてしまうだけの影響があるのである。
競馬を語る上で「馬場」は避けて通れないものである。数多くの馬たちが、馬場に笑い、そして馬場に泣いてきた。 数々のドラマは、時にはJRAによって演出されることもあるし、時には神の意志に拠るところもあるだろう。あの雨さえなかったら、もしかしたら歴史は変わっていたのかも知れない。ターフの上を疾走するサラブレッドたちは、陸上競技のアスリートたちと同じく、「場」というものに計り知れないほどの影響を受けているのである。そして、競馬の予想をする私たちにとっても、「場」を知ることが大きな助けとなることは間違いない。
(最後まで読んでいただいてありがとうございました)
参考文献
「コースの鬼!2nd Edition」 城崎哲 白夜書房
「コースの達人」 坂井千明 メディアアート出版
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Comments
治郎丸さん
こんばんは。
「Good 馬場!」の最終回、好きなダートで勉強になります。単純にバイアスが出にくいからです(笑)。私は中山・阪神は重い、東京・京都は軽いと分類していましたが、コースの高低差が影響していたのですね。この認識であっていますでしょうか?
また、札幌、函館、小倉競馬場の内側2頭分くらいの幅の砂が深くなっているとは知りませんでした。
最近、競馬新聞に馬場状態について気づいたことを書くようにしているため勉強になりました。ありがとうございます。
Posted by: hagi | December 10, 2007 at 10:30 PM
hagiさん
こんばんは。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございます。
ダートは微妙なことでバイアスが出易いのですが(たとえば風など)、気にするほどのバイアスは出ませんよね。
>私は中山・阪神は重い、東京・京都は軽いと分類していましたが、コースの高低差が影響していたのですね。この認識であっていますでしょうか?
→はい、その認識でほぼ間違いありません。
ただ、阪神に関しては京都と同じような形状ですし、高低差については京都の方があるぐらいです。
ですので、もし京都よりも阪神の方が重いダートとお感じになるとすれば、それは阪神の最後の直線に坂があるため時計が掛かっているからではないでしょうか。
基本的には同じ砂質、厚さですので、大きな差はないと思います。
>競馬新聞に馬場状態について気づいたことを書くようにしている
→さすがですね。
馬場状態は1年ぐらい通して追っかけてみて気付くことも多いです。
これからもよろしくお願いいたします。
Posted by: 治郎丸敬之 | December 11, 2007 at 12:19 AM