清水英次騎手が肩入れしているのはどちらなんでしょう

そろそろ年賀状のことが気になり始めました。この歳になると12月に入って続々と喪中の葉書が届きます。ほとんどが年賀状だけのお付き合いの方からの便りで、はてどういう方が亡くなられたかで済むところですが、たまに喪中の葉書で遠方に住む友の父上や母上の訃報にはじめて接することがあります。そうした場合は無性にやるせない気持ちになる。歳をとるというのは悲しいことです。
清水英次騎手はすでに鬼籍に入っておられたのですね。牝馬が人気を集める有馬記念ということでトウメイでも書いてみようかな、とネットを眺めていてはじめて知りました。おやじが知らなかっただけのお話なんですが、やるせない。申し訳ない気になった。12、3年前でしょうか、おやじが競馬から少し離れているときに落馬事故に遭われて、それ以来懸命にリハビリに取り組んでいらっしゃったそうですが、ついに体調は戻ることはなかったようです。
愚息が騎手になりたいなんていったら、バカの一言で済ますことにしている。理屈などない。命がいとおしいから。一生涯勝てないかもしれぬ馬の背から落とされ、どんじりを走っている馬の蹄に背骨を砕かれる悪夢を背負わされ、それでも勝ちにいかねばならぬのが騎手ならば、騎手というのはもはや生業とはいえないないだろう。年に1度は畏怖の念をもって競馬を見たいものです。
岡部幸雄、柴田政人、福永洋一など、清水英次騎手と同じ年にデビューした騎手は花の15期生なんて呼ばれてもてはやされていました。天才もいれば哲人もいる、アローエクスプレスからタイキシャトルの時代を体をはって支えてくれた偉大な騎手たちです。レスター・ピゴットが福永騎手の天才を一瞥して見抜いたという治郎丸さんの話はおもしろかった。
清水英次騎手は花の15期生とは呼ばれません。長期騎手講習を経ず、短期講習によって騎手免許を取得したからです。よって花はない、といったらあまりにも失礼か。だが15期生のなかに職人と呼ばれた騎手はいなかったはずです。清水英次騎手は玄人を唸らせる職人でした。素人のおやじの目には凄みのある追い込みが今でもやきついています。自らも京都の外回りコースや東京で追い込みを決めるのが好きだと語っておられたと思います。
1967年にデビューした騎手のなかで最初に世間に注目されたのは、どの騎手だったのでしょうか。1970年はアローエクスプレスの年でしたが、皐月賞前までアローの馬上には柴田騎手がいました。1971年の秋には福永洋一もニホンピロムーティエで初めてクラシックを勝っていますし、春には既に岡部騎手が、カネヒムロでオークスを制しています。ああ、岡部騎手はこの中では遅咲きの花でしたね。
1971年、牡馬の強豪を何度も退け強いマイラーと目されていた女傑トウメイの手綱は清水英次騎手に託されました。もともと3着を外さない金になる馬だったトウメイですが、清水英次騎手に乗り替わってからは連勝を続けました。以後清水英次騎手はリーディングの上位に顔を出す騎手になっていきます。
トウメイといば牡馬相手に秋の天皇賞を勝ち、天皇賞馬テンメイの母になったことからステーヤーのイメージをもっていらっしゃる方も多いと思うのですが、当時の評価はあくまでマイラー。トウメイが天皇賞を勝ったときは3番人気でした。貧弱な母親から生まれ、売れ残って「ネズミ」と呼ばれた410キロそこそこの馬に天皇賞3200Mを走りぬく力を期待するのは酷でしょう。
おやじが実際に見た小柄な牝馬ならラフォンテースかな、かわいい馬でずいぶん入れあげたものです。彼女も秋の天皇賞に出て健闘はしたものの掲示板にのれませんでした。仮に牡馬であっても400キロ前後の馬には天皇賞2マイルを勝つのは難しい。
ところで花の15期生にはどうも名言がないような気がしているのですが、いかがでしょうか。なにせ天才や哲人たちなので言葉にする前に腕で語ってみせる。トウメイで天皇賞に挑んだ清水英次騎手にはひとつの名言があります。「マイルの競馬を2回走るつもりで乗ればいい」トウメイの距離不安について尋ねられたときの言葉でした。
ここまではすべて若いころに耳にしたり読んだりした話なのですが、この言葉の真意がおやじにはずっと分かりませんでした。この言葉に2マイルの競馬の奥義が隠されているんじゃあないか、清水英次騎手は若くして奥義を窮めた仙人じゃないかと、天皇賞のたびにいつも清水英次騎手のことが気になっていました。今から思えば彼が倒れた後もずっとそう思っていたわけですね。
今回、1マイル+1マイル=2マイルという競馬では成立しえぬ足し算の謎が少し解けた気がしました。マイルの競馬を2回すれば勝てる、と清水英次騎手が言ったというのはどうもおやじの思い込みだったようでして、ネットをたどっていくとどのページにも先輩の助言だったと書いている。
その先輩というのが高橋成忠騎手。桜花賞(2着)を経てオークス(3着)までトウメイの主戦を務めていました。「トウメイは確かにマイルを得意としているが、強い馬だ、馬を信じて乗れば2マイルだって勝てる。」助言ならばそういう意味だろう。
高橋成忠は天皇賞を2度制して全国リーディング1位にもなった大騎手ですが、おやじは騎手時代の晩年をかすかに覚えているだけです。調教師となってからは実に個性的な馬を育てていらっしゃいますね。サンレイジャスパーやメイショウバトラー、情を感じさせる馬が多いのは人柄のせいでしょうか。
これまでG1勝ちはありませんでしたが、今年の春、サムソンを引き受けて天皇賞を勝たせています。そのときの高橋成忠師のコメント。「石橋くんはすごい自信でのったんじゃないですか」菊花賞で負けたメイショウサムソンもトウメイと同じように距離を云々されていましたね。人気も2番人気でしたか。
馬券を買う者なら分かるはずですが、必ずチャンスは何度か訪れる、訪れるがそれをチャンスだと信じることはむずかしい。おおよそ、あの時なあという話になっている。1枚の馬券でさえあの時なあである。それがトウメイならどうだ、サムソンならどうだ、と思う。高橋成忠師は清水英次にも石橋守にも「信じろ」と説いたのかもしれません。
トウメイは続く有馬記念も勝ちました。わずか6頭の競馬でしたがこのときも2番人気。メジロムサシに1番人気を譲っています。我々は既にトウメイが名馬であることを知っているので2番人気だったことをとても不思議に思いますが、牝馬に対する評価というものはそんなものでしょう。どんなに強くても、信じるというのはなかなかむずかしい。ただ、清水英次騎手はトウメイに「すごい自信でのったんじゃないですか」
余談ですが、トウメイの有馬記念を少し軽く扱う人もいますね。インフルエンザの大流行で有力馬が出走を取りやめていたからでしょうが、八大競争の勝利をけなすのは上品な態度ではありません。
彼岸にいらっしゃる清水英次騎手の目には今年の有馬記念はどう映っているのでしょうか。強い牝馬の挑戦、インフルエンザの流行。自らの1971年を思い出していらっしゃるかもしれません。物語は1971年に始まりました。そして今年、牝馬の挑戦を受けるのは、清水英次騎手に「信じろ」と助言した高橋成忠です。これが物語に仕組まれたプロットです。
2007年春、自らに訪れたウオッカというチャンスを信じて今年のダービーを制した角居勝彦師を清水英次騎手なら見守ってくれていたはずです。高橋成忠と角居勝彦、清水騎手が肩入れしているのはどちらなんでしょう。年の瀬には不思議な時間が流れているのでしょうか。時間に追いまくられながら1年の始末をつけているうちに、過ぎこし年月や別れた人を思い出してしまいました。
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凱旋門賞2
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伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
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カンパニー
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Comments
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