2つのレースの共通点は?-展開編-

平成19年の阪神ジュべナイルFと朝日杯フューチュリティSには、レースの勝敗を決めた2つの共通点がある。ひとつは大方の予測に反した展開であり、もうひとつは抽選をクリアした馬の台頭である。この2つの共通点について、今回は展開、次回は抽選クリア馬をテーマとして、2回に分けて説明していきたい。
今回のテーマである大方の予測に反した展開とは、阪神ジュべナイルFがスローに流れると思われていたにもかかわらずハイペースになったこと、朝日杯フューチュリティSがハイペースに流れると思われていたのに対し、このメンバーとしてはスローに近いミドルペースで流れたことである。
これは【展開の最も簡単な読み方】として「馬券のヒント」でも書いたことだが、「あちらこちらからハイペースという声が聞こえてきたらスローペース、その逆もまた然り」ということである。つまり、誰もがハイペース必至と予測するレースは、ほとんどの騎手もそのように意識するわけで、大半の騎手がハイペースに巻き込まれることを嫌い、手綱を抑えて馬をゆっくりと走らせた結果、レースは思いもよらぬスローペースとなる。また、逃げ馬がおらず、スロー必至とされた時もまた同じで、大半の騎手がスローに乗じるために、無理をしてでも好位置を確保しようとした結果、レースは思いもよらぬハイペースとなるということである。
もう少し具体的に述べると、阪神ジュべナイルFでは、戦前から新設の阪神1600mのコースはスローになりやすいという声が大きかったし、私もそのように考えていた。もちろんその通りで、新設の阪神マイル戦はスローになりやすく、前に行った馬が好走することが圧倒的に多いというデータもある。それは3~4コーナーが緩やかな複合カーブであり、後続の馬たちは直線が長いことも手伝って、このカーブの部分で無理に動いて前との差を詰めることをしない(出来ない)からである。そのため、逃げ・先行馬がペースを落としてゆっくり回ることができ、中盤が緩み、前が残りやすい後傾ペースになりやすい。
朝日杯フューチュリティSでは、過去10年間のラップタイムを持ち出してみても、スローペースになったのは平成17年のフサイチリシャールが2番手から押し切ったレースだけで、平成18年のドリームジャーニーが差し切ったレースをミドルペースしても、それ以外の8年間は全てハイペースである。にもかかわらず、4コーナーを好位で回った馬が好走しているのは、開催替わりの中山は馬場が良く(特に保護されていた内)、前が止まらないからである。それでも逃げ馬はミホノブルボン以外勝ったことがないように、溜めの利かない、前に行き過ぎる馬にとっては厳しいレースとなる。
この意識は、私たちだけではなく、当然、実際にレースに騎乗するジョッキーたちも持っている。特にG1レースともなれば、各ジョッキーたちは今まで以上にレースを細部までイメージし、乗り方を工夫してくる。
たとえば阪神ジュべナイルFでは、前に行った方が有利である以上、普段は先行している馬はより前にポジションをしようと心掛け、後ろから行っている馬は、今回は思い切って前に行ってみようかと策を練る。外枠を引いてしまったジョッキーは、スローで外々を回されることを嫌い、無理をしてでも外から被せる形で好位を取りにいくかもしれない。
実際に、内枠を引いた武豊レジネッタは、好スタートから迷わず先頭を奪い、レースの主導権を握らんと主張した。それに対し、川田マイネブリッツも何が何でも逃げる構えを見せ、強引にハナを奪い返した。それに輪をかけたのが、外枠を引いた蛯名エフティマイアと岩田エイシンパンサーであり、外から一歩も引かない姿勢で先行争いに加わり、スタートから3コーナーに至るまでの激流を作り上げた。
一方、朝日杯フューチュリティSでは、逃げた馬や無理をして先行した馬が最後の急坂でパタッと止まってしまうことを想定すると、道中は馬との折り合いを付けて差し脚を残しておくことが必要になる。スタートしてから最初のコーナーまでの距離が短いことも考慮に入れると、無理をして好位を取りにいくメリットはほとんどない。外枠の馬が好位を確保するために、危険を冒してまで切れ込んでくることも考えにくい。
実際に、最内枠を引いた勝浦ゴスホークケンがロケットスタートから躊躇なくハナを切ると、他のどの馬もあっさりと引いて先頭を譲った。当初は逃げると予想されていた幸レッツゴーキリシマも、ハイペースに巻き込まれるのを避けるため抑える競馬を予定していたのだろう、最初から手綱を抑え先行策に終始した。道中も逃げた馬は最後の坂で止まるという思いからか、ゴスホークケンに鈴を付けにいく馬は皆無で、どの馬も自身の差し脚を溜めることに集中していた。
このように、ジョッキーたちの総意が飽和点に達した時、スローペース必至と言われたレースはハイペースに、ハイペースと言われたレースは思いもよらぬスローペースに変容する。いつそのような時点に達するか分からないのが難点だが、ひとつの目安として、あちらこちらからスローペース(ハイペース)という声が聞こえてきたら、その逆になることを意識してもいいのではないか。そもそも、競馬関係者を含めた私たちの心理は傾きやすいものであり、マスコミが騒げば騒ぐほど、現実の結果はその逆になるというパターンは繰り返されているのだから。

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Comments
こんばんは。
ペースの想定はいろんな要素が絡み合っていて難しいですよね。
今回のテーマに関してひとつ気になったことがあります。
以前の記事「レースは記憶を持たない」において
出走メンバーが変わればガラリと内容が変わる、ということに
ふれておられたとわけですが、このペースの想定においても
それが通じるのではないでしょうか。
競馬場の構造上どうしようもなくスローにならざるを得ない
部分や、ハイペースになりがちな部分はあるにしろ、
やはりペースを決めるのは出走馬なのではないかと・・。
もちろん騎手同士の駆け引き、思惑もあったと思いますが
ハイペースで逃げた経験がない馬しかいなかった
朝日杯FSはハイペースになる可能性は低かったと思いますし
エイムアットビップなど、前半から飛ばす馬が揃った
阪神JFはハイペースになって然るべき、だったと思います。
まとまりませんが・・
例年の傾向と、今回のメンバーの脚質・・・そして
思惑や天候・・
考える事が多いからこそ競馬は楽しいんですよね(^^)
Posted by: けん♂ | January 08, 2008 at 03:10 AM
けん♂さん
これはとても深い問いかけだと感じました。
展開は、出走メンバー、出走頭数、騎手たちの意識・思惑、騎手間でのやり取り、コースの構造など、様々な要因が絡み合って変わってきます。
おそらくこれら要素のひとつでも変われば、展開がガラッと変わってくることになるでしょう。
ですので、騎手の総意だけでは展開は決まりませんし、出走メンバーだけでも決まらないと思います。
最も簡単な~、とは誤解を招く書き方だったかもしれませんね。
この2つのレースに関して言うと、
>ハイペースで逃げた経験がない馬しかいなかった朝日杯FSはハイペースになる可能性は低かったと思いますし
→そうだったのだと思います。
レッツゴーキリシマが抑えたということもありますが。
阪神JFに関しては、外枠の2頭がスローを嫌って強引に行ったことがハイペースを引き起こしたと思っています。
そもそも、展開という概念は大川慶次郎さんが創り出したもので、最初は出走メンバーの脚質や前走までの走りから予測していました(その流れは原良馬さんなどに受け継がれていますが)。
ただ、これは多くの方々が気付かれてきたことだと思いますし、私もそうなのですが、「展開予想って全然当たらないじゃん!」って愛想をつかされてきたのです。
そこで、競馬場の構造やレース毎の傾向などを組み入れたりしたのですが、これも難しい。
つまり、レースは生き物であって、1頭やひとりの騎手の一挙手一投足が、全体の流れを変えてしまうということなのだと思います。
北京で蝶が羽ばたけばニューヨークでハリケーンが起きる、というような感じでしょうか。
で何が言いたいかというと、私に出来ることは、やはりジョッキーたちがするように展開予想をすることだということです。
出走メンバー、出走頭数、騎手たちの意識・思惑、騎手間でのやり取り、コースの構造など、全ての要素を考慮に入れて、けん♂さんに負けないように展開を読む努力をしようと思いました。
長文駄文を失礼しました。
Posted by: 治郎丸敬之 | January 14, 2008 at 10:45 PM