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神の視点を持つアスリート

Kaminositen

「名騎乗ベストテン2007」の第2位は、安藤勝己騎手が勝った安田記念である。

最後の直線、手綱を通して伝わってくるダイワメジャーの手応えを感じながら、前を逃げるコンゴウリキシオーの脚色を測りつつ、後続の差し馬の動きを背中の目で見る。コンゴウリキシオー1頭に相手を絞って馬体を併せに行くか、それとも後続の差し馬か。両者が内外に大きく離れている以上、ターゲットを誤ればすなわち敗北に繋がる。ほんのコンマ1秒の判断の遅れさえ命取りになるのだ。下手をすれば、コンゴウリキシオーを捕らえられないばかりか、後ろの馬にも差されてしまうという最悪の事態にもなりかねない。

そのような状況の中で、安藤勝己騎手は極めて冷静に、後続から差し馬が迫ってこないと瞬時に判断するや、コンゴウリキシオー目がけてダイワメジャーの手綱を解き放った。最後はまるで全てを計算しつくしたかのように、ダイワメジャーが首だけ前に出たところがゴールであった。この神がかり的な騎乗を見て、私は世阿弥の「離見の見」という言葉を思い出した。

舞の心得に、「目前心後」というのがある。これは「目では前を見て、心を後ろに置け」ということだ。見物席から見られるわが舞台姿は、いわば自分にとっての「離見」である。それに反して自分の意識は「我見」である。「「離見」に立った「見る」ではない。離見の見とはなにかというと、それは観客席から舞台上を見るのと同じに自分を見ることが出来るのだ。わが姿を見ることができてはじめて、左右前後も見ることが可能となろう。「離見の見」の真理をしっかりと体得してこそ、美しい舞が舞えるだろう。(「花鏡」)

「離見の見」は、一流のアスリートであれば誰もが経験することだろう。たとえば、元F1レーサーの中嶋悟は、調子の良い時は、時速300kmを超えるレース中においても、自分の前後左右の車の位置関係が手に取るように分かったという。サイドミラーやバックミラーで確認しているわけではなく、まるでレースを真上から見ているような感覚があったそうだ。そのような視点があってこそ、初めて美しいパフォーマンスが生まれてくる。中嶋悟も安藤勝己も、さながら神の視点を持つアスリートなのである。

また、安田記念に代表される一連のレースにおいて、あたかも安藤勝己騎手の意のままに馬が動いているような感覚に陥ることがあるが、そこにも卓越した馬を御する技術があることは言うまでもない。特に2007年は、これまでに比べ、さらに手綱を短く持ちながら馬を御することを意識して試みていたように見えた。

日本のジョッキーは、馬が引っ掛かってしまうのを恐れて、つい手綱を長く持ってしまうものだが、安藤勝己騎手は敢えて手綱を短く持ち、手綱を通してしっかりとコントロールすることで馬を御そうとチャレンジした。春先には京都金杯のキンシャサノキセキや阪神大賞典のドリームパスポートなど、引っ掛けられて失敗したレースも目に付いたが、その試みが結果として最高勝率、年間G1レース6勝という記録に結びついたと思う。

それからもうひとつ。引っ掛かっているように見えても最後までバテないのは、実は安藤勝己騎手がエンジンをかけながらブレーキも踏んでいるというテクニックを使っているからである。ある程度ハミをかけて馬を怒らせながら、かつ一方では手綱をガッチリと抑えて行かせないという絶妙なバランスの上に成り立つスタイルである。これはあの岡部騎手が全盛期に見せてくれたスタイルとかなり似ている。

安藤勝己騎手は「技術的には止まっている」と謙遜するが、そんなことはないだろう。安藤勝己騎手は今なお進化しつつ、いよいよ円熟の域に達しようとしているように私には思える。もし岡部幸雄騎手を知らない新しい競馬ファンがいるとすれば、これから数年の安藤勝己騎手の騎乗を見ればいいと思う。そんな幸せな時代に、私たちは生きている。

2007年安田記念

たまには中国語の実況でお楽しみください(笑)

関連エントリ
けいけん豊富な毎日:騎手の能力値(個性がはっきり)
ガラスの競馬場:「安藤老子」

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Comments

ご紹介ありがとうございます。

このあともデータを取り続けていますが、
調べれば調べるほど安藤勝騎手の凄さばかりが
目に付く感じ・・・まさに円熟の極みですね(^^;

完全に馬を御す、というのはもの凄い集中力がいることだと
考えられます。
そのためかどうかはわかりませんが
距離が長くなると成績が低下する傾向・・と言っても
充分に一流騎手と呼べる内容ですが(^^)g

今年はどんな成績を残してくれるのか、
素晴らしい騎手がいる時代に巡り会えていることに感謝しつつ
レースを見ていきたいと思います。

Posted by: けん♂ | February 11, 2008 at 06:02 PM

けん♂さん

どういたしまして。

こんなに小さな紹介でスイマセン。

けん♂さんの騎手データ分析は、他とは一線を画していてとても参考になります。

また騎手データについて触れる際は、ぜひリンクさせてください。

>距離が長くなると成績が低下する傾向
→そうなんですか。

そういうイメージはなかったのですが、もっと勉強します(笑)

安藤勝己騎手は昨年が凄まじかっただけに、今年は反動がこなければいいなと思いますが、おそらく杞憂に終わることでしょう。

いつの日か、関西に住んで、安藤騎手の追っかけやりたいのですよねぇ。

Posted by: 治郎丸敬之 | February 11, 2008 at 11:12 PM

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