集中連載:「調教のすべて」第2回
平成19年11月16日、美浦トレーニングセンターに、ニューポリトラック馬場が完成した。そして、わずか1ヶ月も経たないうちに、ゴスホークケンが朝日杯フューチュリティSを逃げ切り、ニューポリトラック調教馬として初めてのG1勝利を飾った。奇しくも、ミホノブルボン以来となる、朝日杯ヂューチュリティSの逃げ切りであった(正確に言うとミホノブルボンは押し切り)。例年に比べ、極端なハイペースにならなかったことは確かだが、それでも逃げ切りが難しい朝日杯フューチュリティSを押し切ったのだから、ゴスホークケンの強さは素直に評価してよいだろう。
ゴスホークケンは新馬戦を1分34秒9という好タイムで圧勝するや、次走、いきなり重賞である東京スポーツ杯に目標を定めた。そこではキャリア1戦にもかかわらず、初戦の勝ちっぷりや、迫力たっぷりの馬体から溢れ出る素質が高く評価され、何と1番人気に支持されることになった。しかし、プラス12kgの馬体重で出走し、レースでは2番手を追走したものの、直線では伸び切れずに4着を確保するのが精一杯という結果に終わってしまった。
惨敗を喫してしまった理由は明らかである。ゴスホークケンは東京スポーツ杯に臨む中間、左前脚の球節に骨膜炎が出てしまい、思い切った調教が出来なかったのである。もちろん、そんな状況の中でも、斉藤誠調教師は精一杯の仕上げを施し、勝つ意志を持ってゴスホークケンを出走させたのだろうが、現実はそんなに甘くなかった。
ここで、ゴスホークケンが東京スポーツ杯に臨むにあたっての調教内容(1週間前と最終追い切り)を、朝日杯フューチュリティS時のそれと比較してみたい。
東京スポーツ杯
11/07 南D良 田中勝 72.3-56.1-41.1-12.1 ⑦ 馬也 (1週間前)
11/14 南D良 田中勝 68.0-53.6-40.2-12.3 ⑥ 馬也 (最終追い切り)
朝日杯フューチュリティS
11/29 美ポ 中谷 81.4-66.6-53.3-39.8-11.5 ⑦ G強 (1週間前)
12/05 美ポ 中谷 65.0-50.4-37.2-11.6 ⑥ 馬也 (最終追い切り)
調教内容の見方については後ほど詳しく説明するが、まず気が付くのは、追い切りが行われたコースの違いである。東京スポーツ杯が行われた時点では、まだニューポリトラック馬場は完成していなかったので当然だが、南Dコースで追い切りが行われている(Dコースとはダートコースのこと)。実は、ゴスホークケンはデビュー戦の前はウッドチップコースで追われていたのだが、後ろ肢の踏み込みが深い同馬は、ウッドチップ(木片)で蹄の裏を傷めてしまった。そのため、東京スポーツ杯ではダートコースで追い切られたのである。
しかし、蹄の裏を傷めただけではなく、左前脚の球節の骨膜炎を患っていたため、脚元に負荷の掛かりやすいダートコースではビッシリと追い切ることが難しく、1週間前も最終追い切りも馬なりの調整に終始せざるを得なかった。たとえ馬なりでも、しっかりとした時計が出ていれば問題ないのだが、時計的にも5ハロンで68秒0という、重賞に臨むにあたってはいささか物足りない内容であった。この調教内容では、当日のプラス20kgは、成長分を含めても重め残りと考えて間違いないだろう。それでも1番人気になったのは、ゴスホークケンの素質が買われたということもあるが、案外、調教の内容について無関心な競馬ファンの存在もあったのではないかと邪推する。
ニューポリトラック馬場が朝日杯フューチュリティS前に完成したことは、ゴスホークケンにとって大きな福音になった。1週間前の追い切りでは、6ハロンから長めに行って、ゴール前で強めに追うことが出来た。これもクッション性が良く、蹄の裏を傷めることのないニューポリトラック馬場だからこその強気の調教であった。1週間前に長めから強く追われたゴスホークケンは、最終追い切りの時点でほぼ仕上がっており、馬なりで5ハロン65秒、ラストの1ハロンも追うことなく11秒6というスムーズな走りであった。
ニューポリトラック馬場でキッチリ追い切られたことによって、ゴスホークケンの体調は明らかに一変した。回避馬が出て8分の1の抽選をくぐり抜けたことや、レースではすんなりハナに立ち自分のペースで走れたことも勝因のひとつではあるが、ゴスホークケンが力を出し切れる体調にあったことが大前提であることは言うまでもない。もしニューポリトラック馬場が11月16日に完成していなければ、ゴスホークケンではない他の馬が朝日杯フューチュリティSを勝っていたのではないだろうか。
ミホノブルボンやゴスホークケンのように、競走馬はどのようなハードとソフトで調教されるか(されたか)によって、競走成績だけではなく、その運命さえも変わってくると言っても過言ではない。つまり、どのような施設を使って、どのような内容のトレーニングをしたかが、その馬の成績や能力に直接、反映されるということである。だからこそ、調教師を筆頭とした関係者たちは、どのような調教を施すべきか常に頭を悩ませている。そこには成功もあれば、大きな声では言えない失敗もたくさんあるに違いない。もちろん、レースの結果を予想する立場にいる私たちも、馬の体調や能力を見極めるために、調教を見ない手はないだろう。いや、自分がまるで調教師になったように見るべきなのである。
菊花賞2
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Comments
いつも楽しく拝見しています。
今回は調教についてのことをお話(お書きに)なっていて、しかも最近自分が気付いた事に少しかかわっていたので質問も兼ねて書き込みさせていただきました。もともと調教重視ではいたのですが最近これも関係があるのではないかと思うところがあります。それは最終追い切りのコースについてです。中間の過程も当然重要なのですが、最終追い切りのコースが前走と違う場合かなりの確立で凡走する(僕の中では掲示板外)のではないかということです。きちんと統計を取った上での検証ではないのであくまで直近の数週間しかも自分が予想したレースのみなのでサンプルもあまりありませんので感覚的なものなのかもしれませんが・・・・。ただ、前走好走していて今回最終追い切りのコースを変えたのは変えなければいけない理由がそこに存在するのではないか、その理由とは足元の疲れ、怪我、傷病等からくる不安要素ではないのか、本来であれば好走した条件と同じ調整過程を施したい、いつもと同じ調整過程でレースに臨みたいがそれが出来ないからコースを変えて追い切る、のではないかと思ったのです。もちろん、それが全てではないので追い切りコースを変えても好走する場合もあります。前走が今までと違いコースを変えていて今回が本来の場合、気象的条件のためやむを得ず変えた場合など例外もあるとは思います。もちろんその時の体調等を考慮してコース等を調整しているとは思うのですが、その中でもその馬にあった調整過程、最終追い切りコース等があり、それに合わせて、その過程を取りたいのだが色んな要因から思うように調整できない。そこを見極めることが馬の体調を窺い知るひとつの目安になるのではないかと思ったのです。
拙い文章のうえに、長々と書いてしまい申し訳ありません。
Posted by: ミラクルヤン | February 27, 2008 at 12:58 AM
ミラクルヤンさん
こんばんは。
おっしゃること、とてもよく分かります。
最終追い切りが前走とは異なる場合には、必ずといってよいほど理由がありますね。
悪い理由であれば、人気になっていてもアッと驚く凡走をすることもありますし、その逆もまた然りです。
そのように、ひとつひとつの調教には意味があり、何よりも馬の状態を物語っているのではないかと思います。
大袈裟なタイトルをつけましたが、私が調教について知っている全てを書いてみたいと思いますので、何か参考になることがあれば幸いです。
Posted by: 治郎丸敬之 | February 28, 2008 at 01:17 AM