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集中連載:「調教のすべて」第9回

それでは、④の芝コースについて説明していきたい。当然のことながら、ウッドチップコースやダートコースに比べ馬場が硬く、馬の脚元に負担が掛かることは避けられない。そのため、何か理由がない限り、芝コースでしっかりとした時計を出す追い切りは行われることは珍しい。その代表的な理由としては、以下のものが考えられる。

1、他のコースの馬場状態が悪い
2、馬体を絞りたい
3、右回りだとモタれて仕方ない

1は降雨で馬場が悪くなったり、冬場に馬場が凍ってしまったりして、他のコースの馬場状態が極端に悪くなってしまったときのことである。たとえば、2007年のセントライト記念に臨むにあたって、ロックドゥカンブの最終追い切りは芝コースで行われた。前日から降り続いた激しい雨の影響で、どのコースの馬場も軒並み芳しくない状態であった。その中でも、堀調教師が実際に歩いてみて「一番良かった」という芝コースを選択したのである。このような特殊な状況においては、芝コースが最も安全な馬場になることもあるのである。

2はレアケースと考えてもらってもいいだろうが、馬体を絞りたい時に芝コースで追い切りを掛けることもある。レースの1週間前になっても、思いのほか馬体が絞れてこない時など、最後の策として芝コースを使うということだ。芝コースは速い時計が出るので、脚元だけでなく、馬の肉体面に対する負荷は最も大きい。そのことを逆に利用して、冬場などに体が絞りきれない馬を一気にシェイプアップさせるということだ。

2006年のフェブラリーSの最終追い切りにおいて、カネヒキリは珍しく芝コースで併せ馬を行った。 その理由として、角居調教師は「芝でのスタートに失敗が多いので…。あとJCダートの時とは仕上げが違います。フェブラリーSは最近、芝馬が好走している。パンと弾くような走りの方がいいと思います」とコメントしているが、おそらくそれだけではなかっただろう。直前に1本芝コースで追い切っただけで、芝コースのスタート部分の走りが速くなるはずがなく、芝を走るための走法にチェンジできるはずがないからだ。

それぐらいのことは、角居調教師が一番良く分かっているはずで、この芝コースでの調教の真の目的は、カネヒキリの絞り切れない馬体をなんとか間に合わせるためだったのではないかと思う。その甲斐もあってか、JCダート以来、3ヶ月の休み明けにもかかわらず、カネヒキリはわずかプラス2kgの馬体重で出走し、見事に勝利を収めた。

Tyoukyou10 by Ichiro Usuda

3はそれほど多くない例だろうが、右回りではどうしてもモタれてしまう馬を、本馬場に入れて左回りで追い切ることがある。鞭で矯正したり、馬を右に置いたりと工夫することも出来るが、右にモタれる癖のある馬を右回りで繰り返し追い切っていると、どうしてもその癖を助長してしまうことになりかねないのだ。そこで左回りのコース(芝であることは関係ないが)で追い切ることによって、悪い癖をなるべく出さないようにするということだ。

たとえば、シンボリクリスエスは苦しくなると右にモタれる馬であった。3歳時の有馬記念では、タップダンスシチーを差し切ったものの、最後の直線で右にササってしまった。次走の宝塚記念でも、休み明けということもあったが、直線で右にモタれてしまい失速した。この癖を出さないように、藤沢調教師はなるべくシンボリクリスエスを左回りの本馬場で追い切ることを心掛けたそうだ。その効果もあってか、ラストランとなった有馬記念では、ペリエ騎手に目一杯に追われても、シンボリクリスエスは真っ直ぐに走り、2着のリンカーンになんと9馬身もの差をつけて圧勝した。

(第10回へ続く→)

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