夕陽よ、急ぐな

突然のお手紙ありがとうございます。私も今週のスプリングSを前にモヤモヤしていたところでしたので、なんというタイミング!と驚いてしまいましたよ。遠く離れていても、競馬テレパシーで繋がってしまうのでしょうね。有難いことです。
血統評論家でもない限り、ブリガディアジェラードは聞き慣れない名前ですね。かくいう私も記憶の片隅の片隅に知っていた程度です。そこで、ブリガディアジェラードについてちょっと調べてみたのですが、もの凄く強い馬だったのですね。18戦17勝。エプソムダービー馬ロベルトに逃げ切りを許すまで16連勝をして、6ハロンから12ハロンまでのG1レースを6つ勝利しました。
大きく見せるゴツイ馬格や、レースに行っての凄まじいばかりの闘志は、まさにショウナンアルバに受け継がれている気がします。ちなみに、ブリガディアジェラードは重馬場を嫌うことはなかったそうです。唯一、違う点としては、ブリガディアジェラードは後ろから追い込む馬だったのに対し、ショウナンアルバは逃げ・先行するタイプであることぐらいでしょうか。
ウォーエンブレム産駒ということで注目されていますが、毛色や風格から見ても、ルドルフおやじさんのおっしゃる通り、ショウナンアルバはブリガディアジェラードなのでしょうね。そう考えると、ショウナンアルバの連勝はどこまで続くのか楽しみになってきます。ここに新しい物語が生まれましたね。
私もまた別の物語を見ています。ルドルフおやじさんは寺山修司が好きでしたよね?私も好きです。寺山修司の書く物語は傑作揃いですが、その中でも私の大好きな「夕陽よ、急ぐな」という競馬エッセイがあります。ルドルフおやじさんもご存知かもしれません。私は何度も読み返しました。
主人公は李という男です。李は祖国の韓国にいた頃、貧しくてかっぱらいを働き、少年院にブチ込まれて以来、ずっと逃げることだけを青春として生きてきた男です。「オレは弱いから逃げてばかりいた」というのが李の口癖でした。「夕陽よ急げ」という言葉が好きで、下宿の壁に大きく書いていたのですが、寺山がその意味を尋ねても教えてくれなかったそうです。この李という男が、キーストンという希代の逃げ馬に己を投影して、馬券を買い続けるという話です。
デビューしてからのキーストンは連勝街道まっしぐらに進み、一方の李も警察から逃れ続け、キーストンの馬券のおかげで貯金も少しずつ増えていきました。ところが、スプリングSを境目として、キーストンと李の運命は少しずつ変わり始めます。彼らの前に立ちはだかったのは、ダイコーターというスゴイ追い込み馬でした。このダイコーターにキーストンは4コーナーであっさりと捕まってしまいます。あまりの強さにショックを受けたのか、キーストンは続く皐月賞でも14着と惨敗を喫してしまいます。
そして、ダービーの朝、どしゃぶりの雨の中、激しくドアを叩く音に目を覚ますと、玄関のところに李がレインコートを着て立っていました。「どうした?」と聞くと、警察に追われていて、これから海峡を渡って祖国である韓国に密航するのだと言う。そして、李は「今日のダービーで、俺の残していく金全部で、キーストンの単勝を買ってくれ」とだけ言い残して、雨の中に消えて行きました。寺山は無茶だと思ったのですが、李の切迫した何かを感じたそうです。
レースでは、評価のガタ落ちしたキーストンが、1番人気のダイコーターを振り切って、捨て身の逃げ切り勝ちを収めたのです。このレース以来、キーストンは再び連勝を続けました。キーストンが逃げ切るたびに、寺山は警察から逃れている李の身を思って安心したといいます。キーストンの逃げ切りと李の逃亡生活を、二重写しにして考えないわけにはいかなかったのです。
暮れの阪神大賞典の4コーナー。キーストンは突然もんどりうって倒れます。折れた肢を引きずりながらも、気を失った騎手のもとまで歩き、鼻づらを押しつけて無事を心配したシーンはあまりにも有名です。寺山修司はキーストンの骨が折れた音が、遠い異国にいる李が拳銃で撃たれた音に聞こえたそうです。キーストンには安楽死処分が採られ、李の消息もそれ以来プッツリと途切れてしまいました。
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや
寺山修司による名歌が哀しく響きます。「8頭のサラブレッドが出走するならば、そこには少なくとも8編の叙事詩が内包されている」と寺山は言いましたが、まさにその通りですね。
さて、今週のスプリングS、そしてクラシックに、キーストンの影を見てしまう馬がいます。サダムイダテンという馬です。韋駄天のイメージからはほど遠い、フォーティナイナー産駒らしからぬ細身の体躯は、まるで盗みを働いた少年が必死で裏町を逃げていくような、悲劇的なムードを漂わせていたキーストンを思わせます。繊細な馬でもあり、前走は初の輸送で気を遣ってしまい、力を出し切れませんでした
そもそもサダムイダテンは逃げ馬なのではないかと私は思っています。道中の耳の動きや、走り方、そして華麗なる一族の血統背景を見ても、あり余るスピードを生かして小細工なしの競馬をした方が、この馬に合っているのではないでしょうか。直線で他馬と叩き合うような競馬は本質的には向かないはずです。安藤勝己騎手は将来のことを考えて、抑える競馬をしてきたのだと解釈しています。急がず逃げて、最後まで無事に逃げ切って欲しいですね。

菊花賞2
有馬記念
阪神大賞典
天皇賞春1
天皇賞春2
宝塚記念1
宝塚記念2
宝塚記念3
凱旋門賞1
凱旋門賞2
ジャパンカップ
ファイナルフライト1
引退式
ハーツクライ
伝説のウオッカ
メイショウサムソン
スイープトウショウ引退記念
アドマイヤムーン
ダイワスカーレット桜花賞
ディープスカイ
ウオッカ安田記念
伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
Comments
治郎丸さん、おはようございます。
キーストンvsダイコーターのダービーを観ているQuinaです。
エントリーを拝見して、キーストンと山本正司ジョッキーの物語、ともに二冠をかけた菊花賞でのライバル、ダイコーターとのマッチレース、阪神大賞典でのアナウンサーの涙声の実況、あの時代の競馬が持っていた「物語」を久し振りに思い出しました。
寺山修司の「夕陽よ、急ぐな」懐かしいですね。諸口あきらの「キーストン・ブルース」の~赤い夕日を背に受けて~という歌詞が頭に浮かんできました…
治郎丸さんのメールマガジン「馬券のヒント」№123で紹介されていましたディープインパクトと武豊ジョッキーのエピソードを読んで、キーストンの事が忘れる事が出来なくなってしまい、鞭を置いた山本ジョッキーの事を思い出したところでした。
さて、スプリングS、奇しくもキーストンとダイコーターが初めて対決したレースです。治郎丸さんが看破したとおりに、サダムイダテンが逃げ馬だとすれば、キーストンとイメージが重なります。勿論暗いイメージは皆無ですが。
サダムイダテンと、安藤勝己の新たな「物語」楽しみにしております。
さて、Quinaの印は…
◎ドリームシグナル
○サダムイダテン
▲アサクサダンディ
△パドック見てから
となりました。デジタル産駒、追いかけますよ!浦和桜花賞でもぶっ飛びましたが(笑)。
Posted by: Quina | March 23, 2008 at 08:08 AM
久しぶりにコメントさせて頂きます。経験浅のzourockです。
エントリーのロマン溢れる世界に気が引ける思いですが
一気に現実コメントです。
Quinaさんがデジタル産駒を追いかけると書かれていましたが
私はスペシャル産駒なのです。
天気がよかったようなのでもしかしたら、という親心にも
似た(笑)淡い期待があったのですが、やってくれました。
賞金を加算できたことで十分です。昔、某名物アナが実況で
復活レースの3着入線馬に向かって「###(馬名)よ、十分だ!」とやって
抗議の電話をたくさん受けたというエピソードがありましたが、
今日のフローテーションにはまさに「十分だ!」と声をあげてしまいました。
馬の状態を上げてこられたスタッフの方々の技量ももちろんですが
横山騎手のきっぱりしたレースぶりが素人目にもとても印象的でした。
本番では誰が乗るのかまだわかりませんが、コンビになってもらえたら
と思う今日のレースでした。
Posted by: zourock | March 23, 2008 at 09:28 PM
Quinaさん
こんばんは。
キーストンvsダイコーターのダービーを観ているって、スゴイですね!というか羨ましいです。
ジョッキーは馬に乗ることが仕事ですが、やはり心が通じ合う馬もいるのでしょうね。
また、この時代は各馬の個性を物語に仕立てる素晴らしい書き手がいました。
寺山の早世は本当に悼まれます。
Quinaさんのドリームシグナルは積極的なレースをしていましたね。
間隔が開いたことも、最後に響いたのでしょうか。
ひと叩きされて、本番は怖い1頭となりそうです。
サダムイダテンも良い所なく惨敗しました。
いつ逃げるのかドキドキしますが(笑)、それ以上に、もう少し体が戻ってきて欲しい感じがしました。
それでも物語はまだまだ続きますよ。
Posted by: 治郎丸敬之 | March 23, 2008 at 09:40 PM
zourockさん
こんばんは。
zourockさんはスペシャルウィーク産駒を追いかけていらっしゃるのですね。
それでは、今日のスプリングSは嬉しかったことでしょう。
十分だ!と叫ばれた気持ち、よく分かります(笑)
先行馬に有利な流れの中、鋭い末脚が目立ちましたね。
横山騎手によって引き出されたといっても過言ではありませんね。
本番もこのコンビで来るのでしょうか。楽しみです。
zourockさんもQuinaさんもクラシック本番へ向けて、また楽しみが大きくなったのではないでしょうか。
これからもよろしくお願いいたします。
Posted by: 治郎丸敬之 | March 23, 2008 at 09:43 PM
Quinaです。
コメントありがとうございました。
そうです、それぞれの馬の、それぞれの物語はまだ始まったばかりですからね!
※先のコメントで、『ともに二冠をかけた…』と書きましたが、ダイコーターは皐月賞・ダービー共に2着でしたので、訂正させていただきます。
何せ40年以上も前の記憶ですので、ご容赦願います。
Posted by: Quina | March 23, 2008 at 10:22 PM
Quinaさん
こちらこそありがとうございます。
ダービーは金で買えないのダイコーターですよね。
昔はドラマがたくさんあったんですねぇ。
私も40年後にもこうして競馬を語っていたいと思います。
Posted by: 治郎丸敬之 | March 24, 2008 at 01:38 AM
お久しぶりです。
と言えども、ほぼ毎日見ているんですが。
ルドルフおやじさんも久しぶりですね。
しっかし、あたらんわー。
皐月賞とか目をつぶって新聞にダーツでも投げて決めようかな?と思うくらいに混戦ですね。
皐月賞、桜花賞、天皇賞どれも混戦です。
まずは目先の高松宮ですが、本命予定馬が亡くなりましたからねぇ・・・・。。。福永騎手も最近スランプっぽいので、スズカフェニックス・・・買いにくいですねぇ。
Posted by: はやひで | March 24, 2008 at 05:46 PM
はやひでさん
お久しぶりです!
ルドルフおやじさんも久しぶりでした。
おっしゃるように、今年のクラシックは小粒で混戦ですね。
昨年の暮れ辺りから、なんとなく想像できた話ではありますが…
特に昨日のスプリングSの結果を受けて、皐月賞はなおさらどんぐりの背比べになってしまいました。
私としては、桜花賞と天皇賞春は順当かなと勝手に思っていますが(笑)
スズカフェニックスは私も買いにくいと思っています。
Posted by: 治郎丸敬之 | March 25, 2008 at 12:38 AM