集中連載:「調教のすべて」第11回
それでは、最後に⑦のプールについて。プールでの調教は時計が出ないため、媒体によっては表示されないこともある。中間の追い切りが数本しかないように見えて、実はプールで調教をしていたということもあるので注意したい。
プールにも「プール調教」と「ウォーター・トレッドミル調教」の2種類がある。
「プール調教」とは、文字通りプールに入って泳ぐことでトレーニングをすることである。馬の体は水に入っても沈むことがないので、四肢が水底につかなければ自然と泳ぎ出す。もちろん、馬によって泳ぎの上手い下手や好き嫌いはあるが、基本的には馬は教わるともなく泳ぐ能力を備えている。
「プール調教」の目的は、脚部に負担を掛けることなく、筋力や心肺機能を維持することである。さらに、馬は主に後肢で水を蹴って泳ぐので、後肢の筋力強化にも繋がる。坂路コースや平地コースではビシッと追い切ることが難しい脚部不安の馬を、プールで調教することによって補うことが出来るのだ。そうは言っても、やはり水中での四肢の動きと陸上でのそれは異なるため、走るための筋肉がすべて鍛えられるわけではない。
そこで考案されたのが「ウォーター・トレッドミル調教」である。水中の歩く歩道とでも呼べばいいだろうか、馬は胸元まで水に浸かって、回転するウォーター・トレッドミルの上を歩く。「ウォーター・トレッドミル調教」は、脚元への負担が軽減されるだけではなく、四肢を床につけて陸上と同じ動きをするため、鍛えられる筋肉は陸上での追い切りとほぼ同じになるのだ。

また、「プール調教」も「ウォーター・トレッドミル調教」にも、馬をリラックスさせる効果がある。同じような調教内容では馬も飽きてしまうので、リフレッシュを図るためにプールを使って調教すること調教師が多くなってきている。コースで調教をした後の気分転換として、プールで泳がせるのである。もちろん、泳ぐのが嫌いであったり苦手であったりする馬には逆効果なのだが…。
昨年の皐月賞馬ヴィクトリーは、プール調教を取り入れて成功した例だろう。ヴィクトリーは新馬勝ち後、いきなりラジオNIKKEI杯2歳Sに挑戦して2着と善戦したが、その頃から気の悪さを出し始めた。人間の指示を全く聞かないため、まともに調教することが出来ないのだ。若葉Sの時など、週に3日しか乗れなかったほどであるから、その気性の難しさはうかがい知れる。
そこで陣営が仕方なしに取り入れたのがプール調教であった。プールでは放馬の心配もなく、暴れたりすることが難しいので、悪さをすること自体が出来ないのである。もちろん、陸上での追い切りと同じだけの運動量や効果を望むことは出来ないが、馬場で追い切られなかった分を補うことは出来る。特にヴィクトリーのようなG1レースを狙う馬にとって、運動量の不足は致命傷となる。
ヴィクトリーの皐月賞に臨むにあたっての追い切り時計は、以下のとおりであった。
2007/04/01(日) 栗坂 稍 助手 58.3-42.0-27.9-14.1 馬也
2007/04/08(日) 栗坂 稍 助手 56.2-40.6-27.2-13.9 馬也
2007/04/11(水) 栗坂 良 助手 53.1-39.7-27.2-14.5 G一
本来であれば、4月1日(日)と8日(日)の間に1本、時計になる追い切りがなされていてもよいはずの追い切りがない。これは4日に坂路コースで追われるはずのヴィクトリーが乗り手を振り落としてしまい、追い切りを行うことが出来なかったのである。
これだけを見ると、中間に3本の時計しか出していないのだが、実は中間にプール調教が行われている。繰り返しになるが、媒体によってはプール調教が表示されないこともあるので注意したい。皐月賞に臨むにあたってのプール調教は以下のとおりである。
2007/03/28 プール4周
2007/04/03 プール2周
プール調教が追い切り1本分にあたるとはとても思えないが、陣営としてはなんとしてでも不足分を補いたかったのだろう。その気持ちがヴィクトリーに伝わったのか、11日の最終追い切りは、終いこそ掛かったものの、53秒のタイムでなんとか追い切ることが出来た。結果はご存知のとおり、大外枠から強引にハナを奪い、ゴール前ではサンツェッペリンを差し返しての勝利を飾った。これだけの調教量でG1レースを勝ってしまったこと自体驚きだが、それもプール調教があったおかげではないだろうか。

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