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誰に笑うことが出来るだろうか?

Jiromaru

Winningticket_2「ダービーを勝ったら騎手を辞めてもいい」という柴田政人元騎手(現調教師)の言葉には、全てのホースマンのダービーに対する思いが込められているような気がします。競馬の世界では誰もが一度はダービーを夢見ますが、実際にダービーの栄光を掴み取ることが出来るのはわずか一握りの者にしかすぎません。だからこそ、ホースマンは自らの存在と引き換えにしてでも、ダービーの名誉を手に入れたいと思うようになるのです。ウイニングチケットでようやくダービーを勝った時のインタビューにて、柴田政人元騎手は、「世界のホースマンに、第60回のダービーを勝った柴田ですと伝えたい」と答えました。もしかすると、ホースマンはダービーを勝つことで初めてホースマンになるのかもしれません。

柴田政人騎手と競馬学校の同期であり、かつ永遠のライバルでもあった、あの岡部幸雄騎手でさえ、たった一度しかダービーを勝つことは出来ませんでした。そう、20世紀の最強馬である皇帝シンボリルドルフとのコンビで挙げた1勝のみです。シンボリルドルフに出会ったこの年、岡部幸雄騎手は34歳でした。それまで決して順風満帆とはいえない騎手人生を送ってきた岡部幸雄騎手にとって、皐月賞を圧勝したシンボリルドルフをパートナーに迎えるダービーは、まさに千載一遇のチャンスだと思えたそうです。シンボリルドルフなら勝てるだろうという希望と、これで負けたらもう一生ダービーを勝つことはないだろうという絶望を、岡部騎手は両手綱に抱えながら第51回ダービーのスタートは切られたのです。

私たち競馬ファンがシンボリルドルフの異変に気付いたのは、レースが向こう正面に差し掛かったあたりだったでしょうか。なんとシンボリルドルフがなかなか前に進んで行こうとしないのです。皐月賞をほとんど持ったままで勝った時とは全く別の馬のような行きっぷりの悪さで、岡部騎手が追っ付けながらやっとのことでレースについて行っているという状態でした。焦った岡部騎手は肩ムチを1発、2発と入れました。スタンドで見守っていた野平祐二調教師の周りからは悲鳴が聞こえました。残り500m。シンボリルドルフはまだ7番手以降。この時点で、和田共弘オーナーは「もうダメだ」と目を閉じました。

「行くぞ。しっかりつかまっていろ!」というルドルフの声を岡部騎手が聞いたのは、府中の最後の直線ラスト400mのところでした。ルドルフは前との差を一気に詰め、最後の200mでは前を行くスズマッハに並んだかと思いきや、あっという間に交わし去り、ゴールでは先頭に立っていたのです。岡部幸雄騎手はレース後にこう語りました。「僕自身がルドルフに一切を教わりました。途中でどうなったのかと思いましたが、動くにはまだ早いということをルドルフの方が良く知っていたのですね。焦っていた私をルドルフが助けてくれたのです」と。

第51回ダービー

皇帝ルドルフが最も苦しんだレースのひとつです。

シンボリルドルフに助けられてラストチャンスを手にした岡部騎手は、それ以降、ジョッキーとしての大輪を花咲かせました。1987年には自身初のリーディングジョッキーとなり、多くの名馬と出会い、数多くの大レースを勝ち、57歳まで現役を続けながら、生涯通算で2943勝という大記録を打ち立てました。まさにジョッキーはダービーを勝つことで初めてジョッキーになったということなのでしょう。それだけの魔力がダービーにはあるということです。

「誰にミックジャガーを笑うことが出来るだろうか?」という村上春樹のエッセイがあります。

ミックジャガーは若いときに、「45歳になって『サティスファクション』をまだ歌っているぐらいなら、死んだ方がましだ」と豪語した。しかし、実際には60歳を過ぎた今でも『サティスファクション』を歌い続けている。そのことを笑う人々もいる。しかし僕には笑えない。若き日のミックジャガーは45歳になった自分の姿を想像することが出来なかったのだ。若き日の僕にもそんなことは想像できなかった。僕にミックジャガーを笑えるだろうか?笑えない。

「ダービーを勝ったら騎手を辞めてもいい」と語った柴田政人騎手や、ダービーでシンボリルドルフにレースを教えられた岡部幸雄騎手を私たちは笑うことが出来るでしょうか?柴田政人騎手はダービーを勝ったからといって本当に騎手を辞めたりはしませんでしたし、岡部幸雄騎手はダービーを勝った後に超一流ジョッキーへの道を歩み始めました。ホースマンはダービーを勝つことで初めてホースマンになるのです。私たちに柴田政人騎手や岡部幸雄騎手を笑えるでしょうか。笑えません。

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Comments

柴田政騎手はしかしながらダービーを勝った後、それ程年が経たない内に引退しましたね。
多分、満足だったのでは無いでしょうか。
きっぱり辞める決断が出来たのでしょうね。

藤田、四位、武豊と近年は若いジョッキー(藤田は若かったが・・他はまぁまぁベテランだったか?)が勝ち鞍をあげているダービーだが、
松岡に簡単に勝たれたくは無い様な気がする。

横山典が言ったそうだが(言葉は正確では無いが、次の様な出だしだったと思う)、「若くは無いので”勝てる”とか”自信がある”とは言わないが・・・」

思いっきり松岡を皮肉ってる気がする。

サクセスブロッケン 横山典。決してもう若くは無いし。息子も競馬学校に入った。
長らく中央GⅠの勝利からも見離されているが、ここで大輪を咲かせてもおかしくない・・・
とガラにも無く人情でダービー馬券を買ってしまいそうだ。

Posted by: はやひで | May 29, 2008 at 08:33 AM

あうぅぅ……感動しました。
まさに人馬一体。

ルドルフは、私の大好きなテイオーのお父さんでもあり、私を競馬に目覚めさせてくれた馬でもあります。
かっこよかったなあ……。

さて日曜は治郎丸さんもモチロン府中へいらっしゃるんですよね。
またどこかで知らずにすれ違いましょう。

Posted by: 夏葉 | May 29, 2008 at 09:31 PM

はやひでさん

柴田騎手は栄光を手にした後に落馬してしまい、騎手を続けることが出来なくなってしまったのですよね。

宝くじに当たった人が交通事故に遭いやすいように、何か不思議な力が働いたかもしれません。

岡部騎手と一緒にもっと現役を続けて欲しかったのですが、それでも記憶に残るジョッキーの一人であることに変わりはありませんね。

ダービーはベテラン騎手が活躍しますが、横山騎手のコメントは面白いですね(笑)

横山騎手のダービー制覇のシーンを観てみたいというはやひでさんのお気持ち、競馬歴が同じくらいの私にもよーく分かりますよ!

Posted by: 治郎丸敬之 | May 30, 2008 at 02:04 AM

夏葉さん

トウカイテイオーの父シンボリルドルフも素晴らしい馬でした。

といっても私も実は生で観ていないので、こうして映像で楽しむことしか出来ません。

ダービーに関してだけいえば、息子のテイオーの方が楽に勝ちましたね。

まるでスキップするような軽さで勝ってしまいましたから。

日曜日は所用で競馬場には行けなさそうです…

私の分まで夏葉さんが叫んできてくれることを願います。

いつか競馬場でお会い出来る日を楽しみにしております。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 30, 2008 at 02:06 AM

えッ!?
治郎丸さん、来られないんですか。
そんな、そんなー。
私が行かなくても治郎丸さんは行くと思ってました。
残念ですね。

わかりました、日曜は私が頑張って叫んで参りましょう!

Posted by: 夏葉 | May 30, 2008 at 11:35 PM

夏葉さん

そうなんですよ。

残念ですが、仕方ありません。

今年は馬券を買って、後から結果を聞きます。

ダービーをライブで観れないのって悔しいですよね。

明日はよろしくお願いいたします。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 31, 2008 at 09:33 PM

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