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心震えるレースを

Jiromaru

天皇賞春ではたくさんの名勝負が繰り広げられてきましたが、今でも私の記憶に鮮明に残っているのは田原成貴騎手がマヤノトップガンに乗って勝った平成9年のレースです。レース後は、1日興奮して眠られなかったことを覚えています。もう10年以上も前のことなのですねぇ。競馬におけるありとあらゆる綾が散りばめられた素晴らしいレースで、今観ても心が震えます。

その天皇賞春に臨むにあたって、さすがの田原成貴騎手も、宿敵サクラローレルに勝てる方法が見出せなかったといいます。当時のサクラローレルは、晩成の血が開花した真っ盛りでした。前年の天皇賞春でナリタブライアンをねじ伏せてからというもの、天皇賞秋こそ脚を余して負けてしまいましたが、有馬記念では圧倒的な力を見せつけて勝利しました。確かに天皇賞春はブッツケではありましたが、それすら不安に感じさせないほど、まさに付け入る隙のない強さを誇っていました。どう計算しても勝ち目がないと田原成貴騎手が感じたのももっともだったと思います(実際に私もサクラローレルに本命を打ちました)。

そこで、マヤノトップガンの田原成貴騎手はアルパチーノのビデオを、レース前に何度も何度も観たそうです。えっ、アルパチーノ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうです。あの「ゴッドファーザー」のアルパチーノです。アルパチーノは私も大好きな俳優で、彼の主演している映画の中では特に「セントオブウーマン」が好きです。盲目の退役兵役なのですが、スポーツカーをかっ飛ばしたり、女性とダンスを踊るシーン、そして、「I’m in the dark !(私は暗闇の中にいる)」というセリフが深く印象に残っています。とまあ映画について語り出すと、「ガラスの映画館」になってしまうのでこの辺で。

なぜ田原成貴騎手が本番前にアルパチーノのビデオを繰り返し観たかというと、意識を消すためだったといいます。演技をしているのに演技をしていないように見えるアルパチーノを見て、そこには余計な意識が働いていないことを悟ったそうです。つまり、ジョッキー(自分)にとっては、何もしない(騎乗技術を使わない)ことが正しい騎乗につながるのであって、今回の天皇賞春をマヤノトップガンで勝つ唯一の方法だと確信したのです。

スタートしてからわずかにマヤノトップガンは引っ掛かったものの、スタンド前までになんとか折り合いがつきました。マヤノトップガンのような首の低い馬は一旦引っ掛かると抑えるのに苦労するのですが、おそらくこれは田原成貴騎手が技術で抑え込んだわけではなく、意識を消すことに成功したのでしょうね。スタンド前を走る馬群の中に、田原成貴騎手とマヤノトップガンの気配がスッと消えて行ったのを私は感じました。

実はこれには伏線があって、マヤノトップガンはこれまで逃げ・先行して結果を出してきた馬でしたが、前走の阪神大賞典では後ろから行く競馬をしたのです。マヤノトップガンの前進意欲が年齢と共になくなってきていたということもあり、田原成貴騎手はマヤノトップガンの気持ちを尊重する乗り方をしたのです。前哨戦はメンバーも違うので結果を出すことが出来ましたが、本番の天皇賞春で同じ乗り方をして通用するかどうか、半信半疑なところがあったと思います。しかし、田原成貴騎手は、勝ちたいという意識だけではなく、そういったマイナスの意識も全て消そうとしたのです。

3コーナーを過ぎて、2週目の下り坂からサクラローレルが動き出しました。これは横山典弘騎手の意識というよりも、サクラローレルが休み明けであった分、力んでしまったということでしょう。その動きにつられて、マーベラスサンデーに乗った武豊騎手が動き出しました。武豊騎手はサクラローレルさえ負かすことが出来れば勝てると計算したのでしょう。田原成貴騎手が凄かったのはこの時点で全く動かなかったことです。この時の心境を田原騎手は後にこう語りました。

机上の計算では、あの時の馬場状態を考えると、もう少し差をつめておかなければとても届かない差であったと思う。それを私が意識していれば…、今はっきり言えること、それはただひとつ。あの時、もし差を詰めてしまっていれば、あの上がりの脚をマヤノトップガンは使えなかったということ。

しかし、たとえレースがあのように流れても、あそこで動かなければ最後にあの鋭い脚を使う、その思いは私の中に1パーセントもなかった。それが阪神大賞典から天皇賞まで私を悩ませつづけた全て。

その思いを消すことが、私がマヤノトップガンを天皇賞馬に導いてやれる全てだった。
(「馬上の風に吹かれて」 田原成貴著)

サクラローレルがマーベラスサンデーを差し返して、私が自分の馬券の勝利を確信した瞬間、外から信じられない脚で飛んで来たのが田原成貴マヤノトップガンでした。視界の外から飛んできたフックパンチに当たった時のように、脳みそがグラっと揺れたのを私は感じました。この感覚は後楽園ウインズにいた他の競馬ファンも同じだったようで、ゴールが過ぎて数秒の間が空いた後にようやく、「トップガンだ!」という大歓声が起こったことを憶えています。

今年もまた、心震えるレースを観てみたいものです。

平成9年天皇賞春

このレースは必見です!

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Comments

本当にこの年の天皇賞は燃えましたね、まさかトップガンがあそこから飛んでくるとは・・・・・。

マーベラスもやすみ明けのローレルも強かったですが、トップガンと田原のコンビは大勝負に出ましたよね。

今年は天皇賞親子4代制覇が見たいので、サムソンよりもスルタンに期待します!!

震えるようなレースが、また観たいですね

Posted by: 和人 | May 01, 2008 at 04:41 PM

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Posted by: アトムシステム販売 担当:岩瀬 | May 01, 2008 at 07:24 PM

私は今でも田原成貴を崇拝している。
「田原マジック」と私は彼の騎乗をそう表現した。
オグリローマンは武豊により桜花賞を制したが、
そのトライアルで思い切って後ろからのレースをさせたのが田原だった。

この天皇賞は珍しく馬券を買わずにラジオで聞いていたが、ラジオを聞いていても震えた。感動した。
何かがこみ上げた。

今年も震えるレースを見てみたい。

Posted by: はやひで | May 01, 2008 at 10:49 PM

サムソンの連覇、アドマイヤ軍団4頭出し、ドリームパスポートの復活あるか、
終わってみたら、菊花賞馬^^;ということも考えられます。

書いていただいたように騎手の腕・心理も大切なレース。誰が・いつ仕掛けるか
こちらも楽しみですね。

トウショウナイトが事故で出ないのは残念(昨年の◎)ですが、みんな無事で素晴らしい
レースを期待しています。

Posted by: ナルトーン | May 01, 2008 at 11:28 PM

和人さん

こんばんは。

まさかあそこからですよね!

田原騎手も言っていたように、トップガンにあの脚が使えるとは私も思っていませんでした。

最後の最後に新しい一面を見せてターフを去ったマヤノトップガンと、それを引き出した田原騎手は本当に素晴らしいコンビでしたね。

今年もたくさんのドラマがあり、今から楽しみでなりません。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 01, 2008 at 11:41 PM

はやひでさん

こんばんは。

枠から飛び出てしまったことは残念ですが、田原騎手はジョッキーの業を言葉で表現することに長けた、唯一無二の存在だと思っています。

彼から学んだことは数知れませんから。

オグリローマンのチューリップ賞は彼の騎乗だったのですね。

マヤノトップガンの天皇賞春も、私たちの期待をいい意味で裏切った素晴らしい騎乗でした。

だからこそ、私たちは馬券を超えて感動したのでしょうね。

今年も数々のドラマが生まれそうです。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 01, 2008 at 11:45 PM

ナルトーンさん

こんばんは。

私も終わってみたら…かなぁと思っていますが、レースが終わるまではたくさんのドラマが存在するのが競馬の良いところですよね。

>誰が・いつ仕掛けるかこちらも楽しみですね。
→はい、本当にそう思います。

一流ジョッキーが揃いましたので、長距離の心理戦を楽しみたいと思います。

トウショウナイトは調子が良かっただけに、あまりの突然の出来事に驚きました。残念です。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 01, 2008 at 11:48 PM

治郎丸さん
懐かしい映像をありがとうございます。
以下、見てる時の私の独り言。

「おおー、清さんの声だー」
「懐かしいッ!」
「あーあーあー、ローレル、かかっちゃったんだっけー」
「やっぱ長い(距離)なー」
「おーおーおー、来た、来た、来たーーーッ!」

リアルで見てるときとおんなじになってしまいました。

今年の春・天も手に汗握るレースだといいですね。

Posted by: 夏葉 | May 02, 2008 at 07:18 PM

夏葉さん

こんばんは。

懐かしいですよね。

この時、私は後楽園ウインズにいて、場内の「田原すげえ~」という驚きを生で感じました。

リアルで観ているときは、私はひと言も発せなかったような気がします(笑)

今年の天皇賞春も名馬と名手が揃って、素晴らしいレースが期待できそうですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 02, 2008 at 08:45 PM

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