なんとか持ってしまう。

府中のマイル戦はタフなコースであることは、オールドファンならずとも、ほんのわずかばかり前に競馬を始めた初心者でも知っているだろう。コーナーを2つしか回らないため、全体的に淀みの少ないペースになり、そのコーナーも複合カーブであるため息が入りにくい。それに加え、何といっても直線が長い。字ヅラ上は1600mという距離であっても、実際のところは、それ以上のスタミナが問われる舞台ということである。
だからこそ、関係者は府中のマイルでの走りを見て、2400mでも距離は大丈夫ではないか、もしくは3歳限定戦であれば持つかもしれないが、本質的に2400mの距離は長いのではないかと判断する。たとえば、今年のダービー馬であるディープスカイは、NHKマイルで圧倒的な勝ち方をした時点で、ダービーにおける距離に対する不安はほとんどなかったと言える。それぐらいに、府中のマイル戦は、スタミナと底力を問われるタフなコースであるということだ。
しかし、同じ府中のマイル戦でも、ヴィクトリアマイルというレースにおいては、そういったイメージを捨て去って臨んだほうが良いようだ。主な理由としては、牝馬限定であるこのレースは、G1であるにもかかわらず、あまりにも道中のペースが遅いからである。ヴィクトリアマイルが新設されてから3年間のレースのラップタイムを見てみたい。
12.6-11.2-11.6-12.1-12.2-11.4-11.3-11.6(47.5-46.5)S
1:34.0 ダンスインザムード
12.3-10.8-11.7-11.8-11.6-11.2-11.2-11.9(46.6-45.9)M
1:32.5 コイウタ
12.4-11.3-12.0-12.2-12.1-11.2-11.0-11.5(47.9-45.8)S
1:33.7 エイジアンウインズ
どのレースも、前半の800mの方が後半のそれに比べて遅い。コイウタが勝ったレースは比較的引き締まったペースであったが、特にエイジアンウインズが勝った今年のレースは、前後半のタイム差が2.1秒という究極のスローペースであった。軽くて走りやすい馬場で、これだけ前半が遅いペースになれば、ラスト3ハロン勝負のレースになることは目に見えている。もはやマイルを走るだけのスタミナは必要とされていないのだ。
一昨年のダンスインザムードはともかくとして、昨年のコイウタや今年のエイジアンウインズという、私にとっては府中のマイル戦では若干距離が長いのではと思わせる馬たちが、ヴィクトリアマイルの勝者となっているのはそういうことなのである。スピードには溢れているが、本質的にはマイルよりもスプリント戦寄りのスタミナと底力しかない牝馬が、遅いペースを味方につけて、なんとか持ってしまうのである。つまり、ヴィクトリアマイルは、スタミナと底力に富んだタイプではなく、どちらかというと短距離寄りの馬を狙うべきレースなのだ。
長く競馬をやっていると、圧倒的な人気を背負っているウオッカが復調一歩手前であることが見える一方で、エイジアンウインズにとって府中のマイル戦は長いと無意識のうちに決め付けてしまうことがある。それは経験や知識の成せる業であり、また怖いところでもある。人が生きていくために経験や知識は欠かせないが、人が新しい何かに挑むとき、最大の壁になるのはしばしばその経験や知識なのだ。ヴィクトリアマイルはまだ3回目を迎えたばかりの新しいG1であるからこそ、私たちはまず常識を捨ててかかるべきだろう。
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