どこまで世界を変えるのか
by Deliberation
有馬記念2008-観戦記-
楽々と先頭を奪ったダイワスカーレットと安藤勝己騎手が作り出した流れは、前後半1000mが59秒6-59秒8というイーブンペース。コーナーを6つも回る有馬記念にしては、中盤の緩みも少ない、全体を通して息のつく間もない厳しいレースとなった。ダイワスカーレットを目標にした馬たちは壊滅し、勝ちに行かずに脚を溜めた馬たちが足元を掬った格好となった。
トウメイ以来37年ぶりの快挙となったダイワスカーレットは、もはや牡馬牝馬というレベルを超えた、現代におけるサラブレッドとしての頂上のレベルにある。天皇賞秋をひと叩きされて、精神的に落ち着いていたように、今回は磐石の勝利であった。それでも、1番人気を背負い、ハナに立つ形で目標にされながら、最後は逆に突き放してしまうのだから恐れ入る。自分のペースで走れば、どこまで行っても止まることなく、最後の直線ではもう一度伸びたように、この馬の底は一体どこにあるのだろうか。来年は海外遠征のプランもあるようで、どこまで世界を変えることが出来るのか、楽しみや期待が尽きない。私たちの常識を超えた馬である。
安藤勝己騎手もダイワスカーレットの強さを信じて、極めてシンプルに騎乗していた。スタートを決めると、迷うことなくハナに立ち、ダイワスカーレットのストライドをそのまま生かしながら、後続の脚をなし崩し的に使わせた。ゴール前で多少行きたがったダイワスカーレットを抑える技術もお手のものである。強い馬が力で押し切ったレースではあったが、ゴールの瞬間にガッツポーズを決めた安藤勝己騎手の表情を見ると、やはり相当なプレッシャーを感じていたのではないかと想像する。競馬の恐ろしさを誰よりも知る騎手だからこその重圧だったのだろう。
2番人気に推された前年の覇者マツリダゴッホは、全くレースをさせてもらえなかった。スタートでメイショウサムソンにポジションを取られると、さらにスクリーンヒーローにも内からブロックされてしまい、終始外々を回る形になった。切れる脚のない馬だけに、4コーナー手前から動いて行かざるを得なかったが、そんなに乱暴に勝てるほどG1レースは甘くはない。昨年と比べて、マツリダゴッホの力が大きく落ちたという訳ではなく、人気を背負っている分、他馬(ジョッキー)からのマークが厳しくなってしまったということである。本当にわずかな動きの差が、これほどまでに大きく結果を変えてしまうという競馬のレースの怖さをここに見た。
武豊騎手がメイショウサムソンを完璧に操り、あわやマッチレースかという見せ場を作った。おそらく予定していた通りのポジション、コース取りだったはずで、道中は(私を含め)夢を見たに違いない。4コーナー手前で夢は潰えてしまったが、メイショウサムソンのレースをしたという思いはあるだろう。厳しいペースをついて行っての惨敗ではあるが、もはやかつての唸るような強さは残っていなかったということである。3年間にわたって一戦で走り続けてきた馬だけに、目に見えない精神的な疲れが限界を超えてしまったのだろう。それでも後ろの世代にバトンを渡す、正々堂々とした走りであった。
スクリーンヒーローも勝ちに行っての敗北だけに、勝った馬が強かったと認めざるを得ないだろう。道中もしっかりと折り合い、虎視眈々とスパートのタイミングを窺っていた。最後の坂で止まってしまったが、4コーナーで捲くって行った時の脚色に今の充実が感じられた。ジャパンカップを勝って暮れの大一番だけに、完調とはいえない状態だっただろうが、それでも見せ場を作ったことで、ジャパンカップの勝利が決してフロックではなかったことを証明した。
大外から2着に突っ込んだアドマイヤモナークは、川田将雅騎手の思い切った騎乗が見事にハマった。力の要る暮れの馬場も合っていたのだろう。もちろん、日経新春杯、ダイヤモンドSを勝ち、京都大賞典でも2着しているように、今年に入って力を付けた馬である。同じくエアシェイディも、ハイレベルの天皇賞秋を5着し、有馬記念でも3着と走ったように、ここにきてまた馬が変わってきている。G1レベルだとあとひと踏ん張りが足りないが、8歳となる来年の飛躍に期待したい。後藤浩輝騎手もレースの流れを見切って、実に見事な騎乗をしていた。




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