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競馬は文化であり、スポーツである。

Nohirayuuji

2000年2月29日。400年に一度という特異な「うるう日」に私はJRA調教師を定年引退した。自宅に贈られてきた多数の美しい花たちを見るにつけ、なぜか涙ぐんでしまう。愛してやまない競馬に、現役という立場ではもう二度と戻れないんだ、という事実が私をセンチメンタルにさせる。

愛する競馬のために尽くしてきた。昭和17年、中学2年で中退して競馬の世界に飛び込み、騎手そして調教師として歩んできたこれまでの58年間を、私は胸を張ってそう言える。

競馬は文化であり、スポーツである。単なるギャンブルではない。「競馬とばく」と呼ばれていた時代から「ギャンブル一辺倒からの脱却」、その実現のために苦しんできた。ギャンブルだけでは競馬は滅びてしまう。そういう恐怖におびえていたからだった。

愛すべき競馬を滅びさせないためにはどうしたらいいか。若手騎手だった私は真剣に考えた。その答えが「ファンに見せる競馬、ファンを魅せる競馬」をモットーに騎乗することだった。

騎手にファンの焦点が合えば、競馬のスポーツ性にも目が向くはず。私が「演技力」というところの騎乗法が注目を浴びればしめたもの。競馬は、単に数字が走っているというものから、騎手が操る馬たちが競い合うスポーツに昇華するはずだ。

だからこそ、私はパドックで騎乗し、馬場に入り、レースに臨み、馬を止めて下馬するまで、常にファンの視線を意識しながら乗ってきた。フェアに華麗に勝つ。いつもファンのために騎乗してきた。

職人ばかりの当時の競馬サークル内から、「キザ」「格好つけ」などと、冷ややかな視線を投げかけられた。しかし、そのなかでも、私のやっていることを許してくれる人たちがいたから、ファンのための競馬を続けることができた。

私に対するファンの視線が変わってきた、と感じ始めたのは昭和20年代後半から30年代前半にかけてだった。

レースを終えた私への罵声がだんだん少なくなってきたのだ。勝負師にはなれなかったが、ファンのための競馬をしようという、競馬場で見せる私の姿勢が、ファンに伝わってきたのだろう。競馬をスポーツとしてとらえるファンが生まれてきたことに大きな喜びを感じた。

調教師として最後の競馬となった27日の夜、引退記念パーティの壇上で、溢れんばかりに込み上げてくるものがあった。

足を運んでくれた400人ものファンのすべてが、競馬を文化、スポーツとして楽しんでいることを肌で感じることができたからだ。

「ファンのためにやってきた自分は間違っていなかった。いま目の前にいる彼らこそ、競馬の人気を支えてくれる人たちだ」

さんざん苦労をかけた妻、嘉代子の横でそう思うと、不覚にもみんなの顔が涙でぼやけてしまった。

私が去っても競馬は続く。それが永遠であってほしい。これからも、競馬に対して私が力を尽くせるものがあるならば、日本の競馬のためにバックアップしていきたい。

口笛を吹きながら…。

これを競馬界での第3の人生を歩み始めるにあたっての所信表明としたい。

「58年間の競馬人生を改めて思う」より


この所信表明を読むだけで、私も涙ぐんでしまう。祐ちゃん先生が中学校を中退して飛び込んだ当時、競馬はセピア色の世界だった。生活費までを賭さんとする男たちが集まる賭博場であり、サラブレッドやジョッキーはギャンブルの駒であり、レースが終われば怒声や罵声が飛び交った。そこには文化やスポーツとしての感動や華やかさはない。まさに祐ちゃん先生の言うギャンブル一辺倒の時代であった。

誤解しないで欲しいのは、祐ちゃん先生はただ単に競馬にロマンだけを求めたわけではないということだ。競馬にはギャンブルという側面がある、いや半分はギャンブルであるということを誰よりも痛感していた。馬券が売られなくなった時代に、競馬がどれほど急速に衰えていったかを身をもって知っているからだ。競馬からギャンブルがなくなれば滅びてしまう。しかし、ギャンブルだけでも滅びてしまう。ギャンブル一辺倒から脱却しなければならない。そう感じていたのだ。

私が競馬を始めたのはオグリキャップが引退した年だから、競馬がカラーの世界になっていた時代だ。祐ちゃん先生が競馬の世界に入った時とは比べようもないほど、感動やロマンや華やかさが溢れていた時代。競馬が滅びてしまうという恐怖感はさすがになかったが、私は競馬を楽しむことにある種の罪悪感を覚えざるを得なかった。罪悪感というよりも、恥ずかしさといった方が適切かもしれない。いわゆるギャンブルというものに手を染めている恥じらい。それは今でも続いている。

「好きなことはなんですか?」と初対面の人に尋ねられると、私はいつも「競馬が好きです」と答えるべきかどうか逡巡し、葛藤し、「野球です」「ビリヤードです」「映画です」などと決まってごまかす。その0.1秒の逡巡や葛藤を数え切れないほど積み重ねてきた。野球もビリヤードも映画も好きなのでウソではないのだが、どうしても「競馬」とは答えられない。おそらく、その後に続く、「えっ、競馬?で、儲かってるの?」という質問に私は耐えられないからだろう。儲かっていないからではない。私が儲かっていないと答えれば、「ほらね、やっぱり儲からないよね」と相手は納得してくれるかもしれないが、そうではなく、たとえ儲かっていたとしても、そのたったひとつの質問で私の大好きな競馬が、単なるギャンブルに帰せられてしまうことに傷つくである。

それでも私は競馬の魅力について語りたい。大切なのはバランスであって、ギャンブル一辺倒ではなく、もう半分の文化やスポーツとしての競馬についても語らねばならない。たとえ偏見や差別があったとしても、私は語り続けなければならない。いや、偏見や差別があるからこそ、私は語るのをやめない。これが私の原動力でもある。もちろんそれだけではなく、競馬を愛してやまない人たちに、私の大好きな競馬についてもっと深く語りたい。祐ちゃん先生が筆を置いてから7年が経った。その間、私は「ガラスの競馬場」を立ち上げ、こうして駄文を書き連ねてきた。そしてこれからも、誰に何と言われようと、私の命の続く限り、大好きな競馬について語り続けるだろう。あなたと競馬が、100年続くことを願って。

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Comments

賭けようと思えば何にでも賭けれるわけで
賭博を楽しみたかったら、お金を儲けることを主眼にするなら、
・・・競馬じゃなくてもいいですよね。
(控除率を考えてもかなり無理がありますし^^;)

それでも競馬をする、というのはギャンブル以外の
魅力的な側面があるからだと思います。

野球にしろサッカーにしろ、どのチームが勝っても
誰が活躍しても「儲かり」はしないわけで
それでも胸を熱くする勝負を観れたり
夢中で応援する選手が出てきたり・・・
競馬でも馬券を買っていないくても感動するレースは
多々あります。

ロマンとドラマと・・個人的には頭のスポーツ、としても
競馬は本当に魅力的だと思います。

考えて考えて考え抜いて予想をして、その上でそれを超える
素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる馬と騎手・・。
今年も感動に震えるようなレースに出会いたいですね(^^)

Posted by: けん♂ | January 25, 2009 at 01:12 PM

治郎丸さん こんばんは
2009年も早や1ヶ月過ぎようとしていますが、 
今年も 貴ブログにお邪魔するのを 楽しみにしている 一姫三太郎です。
改めて 今年も よろしくお願い致します。

私は 今、
「好きなことはなんですか?」と 初対面の人に尋ねられたら 「競馬が好きです!」と答える事ができます。そして その答えを 尋ねた人がどのように受け止めようとも 私は大好きな競馬のことを 一時間でも二時間でも話し続けることができるでしょう。
スポ-ツとしての競馬、ギャンブルとしての競馬、  
>考えて考えて考え抜いて予想をして、
はずして、もうやめようかな って一瞬思って、
少し経つと また馬が走るのを観たくなる、応援したくなる、感動したくなる、そんなたあいのない繰り返しを
私は 自慢げに話し続けるでしょう。

2006年10月1日 一頭のサラブレッドとの出逢いから始まった私の競馬ライフは まだ2年と数ヶ月しか経っていませんが、私はこの年月の間に 感動に心震える多くの場面に出逢うことが出来ました。
歴史的名馬が去ったあと 程なくして 今度は歴史的名牝の時代へ… もしかして私は素晴らしい時代に競馬への扉を開けたのかも…(欲を言えば 更に2年早くこじ開けたかった)

雑誌の対談で 競馬界の‘永遠のマドンナ’鈴木淑子さんが、私の気持ちを代弁するかのようにおっしゃっていました。

長生きしてよかった。
本当に、もっと長生きしたい。 
2009年も元気で競馬を見続けたい。 

2009年も これからもずっと元気で競馬を見続けたい
そう願います。 

  

Posted by: 一姫三太郎 | January 25, 2009 at 11:26 PM

けん♂さん

ご無沙汰しております。

競馬にはギャンブル以外の魅力がたくさん詰まっているのですよね。

おっしゃる通り、頭のスポーツとしても。

けん♂のブログを拝見すると、まさに頭のスポーツになっていますもんね。

私は将棋に似た知的ゲームとしても考えています。

けん♂をはじめ、競馬の魅力を少なからず発信する私たちが忘れてはならないのは、競馬はギャンブルであり、ギャンブル一辺倒ではいけないということでしょう。

>考えて考えて考え抜いて予想をして、その上でそれを超える
>素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる馬と騎手・・。
>今年も感動に震えるようなレースに出会いたいですね(^^)

私も本当にそう思います。

昨年はとても素晴らしいレースが多かったので、今年もまた心が震えるようなレースが見たいですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 26, 2009 at 11:27 AM

一姫三太郎さん

こんにちは。

いつもありがとうございます。

鈴木淑子さんの言葉、私も正月早々ジーンと来ました。

競馬の素晴らしさは長生きすればするほど分かってくるということを教えてくれて、私も長生きして、もっともっとたくさんの名馬や名勝負を見ていきたいと思いました。

一姫三太郎さんは競馬が好きと言えて素晴らしいですね。

私はまだ相手や状況を選んでしまうところがあります。

競馬の魅力を伝えていく立場で恥ずかしいのですが、まだまだ気持ちの整理が出来ていないのかもしれませんね。

歴史的名馬から歴史的名牝へ移り変わる時代を目の当たりに出来て、今の競馬ファンは幸せだと思います。

ハイセイコーやシンボリルドルフを知らないことは残念なように、ディープインパクトを知っているかどうかは大きいと思います。

ウオッカやダイワスカーレットも同じですね。

それでは、今年も元気で競馬を共に楽しみましょう!

Posted by: 治郎丸敬之 | January 26, 2009 at 12:08 PM

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