集中連載:「調教のすべて」第25回

次に、坂路調教における「動き」について。
坂路調教での「動き」について話を進める前に、まずは坂路コースの「時計」(タイム)について少し述べておきたい。直線を駆け上がる坂路コースは、内外における差がなく、「時計」そのものの確実性は平地のコースに比べると高い。もちろん馬場状態を加味しながらではあるが、ある程度の信頼性を持って「時計」を評価できる。速い時計で駆け上がった馬は、それだけ調子が良かったり、しっかりと負荷が掛けられたことを意味する。
しかし、「時計」はしょせん「時計」であって、実際のレースが行われるのはトラックなので、真っ直ぐに駆け上がる坂路コースの「時計」がそのまま実戦に直結するわけではない。坂路で1番時計を出すような馬が、実戦のレースに行ってあっさりと負けてしまうことなどよくある話だ。坂路調教の「時計」は直線コースを速く走れることの証明にしかすぎず、過大評価をしてはならない。「時計」が速くても「動き」が悪い馬より、「時計」が遅くても「動き」が良い馬の方が、レースに行っても良い結果を出すことが多いのだ。
坂路調教での「動き」でまず見るべきポイントは、シッカリとした脚捌きで、真っ直ぐに駆け上がってきているかどうかである。幸いなことに、私たちは坂路コースを駆け上がってくる映像を提供されるため、坂路調教での馬の左右動は見分けやすい。力強い脚取りで、坂下から頂上まで真っ直ぐに駆け上がって来られる馬は、青写真通りに調教が進んでいて、レースに向けて最高の体調で臨めることが多い。逆に、左右ジグザグにブレて走ってしまったり、どちらかにモタれて走らざるを得なかったりする馬は、それまでの調教過程にどこかしら無理があり、完調手前の体調であることが多い。
たとえば、昨年で言うと、2008年のスプリンターズSを快勝した牝馬スリープレスナイトの最終追い切りの「動き」は圧巻であった。
スプリンターズS最終追い切り
栗坂 重 上村 53.3-38.4-24.8-12.5 強め
☆実際の追い切り映像はこちら
1週間前には49秒台が出たほど、やれば時計の出る馬だけに、走りにくい重馬場であったことを差し引いても、53秒3という「時計」は平凡に映るかもしれない。しかし、シッカリとした脚捌きで、真っ直ぐに駆け上がってきた迫力満点の動きを見れば、スリープレスナイトの体調や仕上がりの良さが伝わってくる。春から夏も休まず走り続けて来たにもかかわらず、調子落ちの心配は全くないという判断が出来たのではないだろうか。いざレースでは、危なげない横綱相撲で牡馬を相手に5連勝で頂点に上り詰め、上村騎手に嬉しいG1初勝利をプレゼントした。
また、最初から速いペースで飛ばし過ぎたために、ラスト1ハロンの「時計」が掛かるケースもある。坂路調教は前半に飛ばした時のバテ方が平地調教に比べて著しいため、こうした「時計」を見て、体調が悪いと判断してしまうのは早計である。前半を飛ばせば後半にバテるのは当然といえば当然なので、たとえバテバテになっていたしても、シッカリとした脚捌きで、真っ直ぐに駆け上がって来ていれば全く問題ない。私たちが見るべきは、「時計」よりも、あくまで「動き」なのである。
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