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集中連載:「調教のすべて」第26回

Tyoukyou33

たとえば、「動き」はゆっくり見えるのに「時計」は速いということがある。どれぐらいのタイムで走っているのか知らないまま調教を見ていると、とてもゆっくりゆったりと走っているように見えるが、走り終わった後に計測されたタイムを見てみると、思っていたよりも速い。速く走っているように見えないのだが、実はかなり速い時計で走っているということだ。これは一流馬の調教によく見られる現象であり、またたとえ同じ馬であっても、調子の良い時にこのような動きをすることが多い。

なぜ「動き」はゆっくり見えるのに「時計」は速いかというと、馬がそれだけ全身を使って走っているからである。馬は体全体を伸縮させて、手脚を伸ばして走る。脚の回転数との関係はあるが、その伸縮の幅が大きければ大きいほど(ストライドが長ければ長いほど)、速く走ることが出来る。

一流馬は追い出されると、他の馬以上に手脚がしっかり伸びて走るため、当然のことながら重心は下がり、沈み込むようにして走る。かつて南井克己元騎手は、オグリキャップに乗った時と同じ、あのグッと沈み込む感覚をナリタブライアンでも味わったという。追い切りよりもさらに速く走ることが求められる実戦のレースでは、まるで地を這うような感覚があったという。道中はリズム良く首を使い、最後の直線で追い出されてから重心がグッと沈み、ゴール前でも決して頭が上がらず、まるで地の果てまで伸びて行きそうなその走りは、今観ても圧巻である。

これは余談だが、ナリタブライアンのシャドーロールは頭の高さを矯正するものではなく、新馬の頃に自分の影を怖がる素振りを見せたため着用したとのことである。その後、精神的にも成長して、シャドーロールを着けて走る意味はなくなったが、「シャドーロールの怪物」という競馬ファンのイメージを壊さないよう、最後のレースまで装着して走った。個人的には、シャドーロールといえばナリタブラインで、ナリタブライアンといえばシャドーロールなので、外さないでいてくれて良かった。女性や初心者にとっては、レース中にどこを走っているか分かりやすいという効果もあったと思う。

また、たとえ同じ馬であっても、調子の良い時に、「動き」はゆっくり見えるのに「時計」は速いということが多い。たとえば、2008年の天皇賞春を勝ったアドマイヤジュピタの最終追い切りは、速く走っているように見えないのだが、この馬にしてはかなり速い時計で走っていた。アドマイヤジュピタは本質的にはステイヤーなので、追い切りでそれほど速いタイムが出るタイプではない(このことについては後述する)。これまでは一杯に追われても53~54秒台でしか坂路を駆け上がって来られなかった馬が、最高の出来にあった天皇賞春では52秒ジャストの速い時計が自然と出たのである。調子が良い時は、自然と手脚がスムーズに伸びて、見た目以上のタイムが出やすいのである。

☆アドマイヤジュピタの天皇賞春の最終追い切りはこちら
http://www.jra.go.jp/keiba/thisweek/2008/0504_2/asx/training/14.asx

調子の良し悪しを見極めるためにも、「時計」と「動き」のアンバランスには注目してみるとよい。

(第27回に続く→)

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