針の穴を通せ

オグリキャップが有馬記念を勝った年に競馬を始めた私にとって、トウカイテイオーの勝ったダービーが初めてのダービーでした。トウカイテイオーがあまりにも悠々と勝ってしまったので、あの時はダービーの重みが分かりませんでしたが、競馬と共に歳月を過ごせば過ごすほど、ダービーという言葉が重くのしかかってきます。毎年生まれる1万頭近いサラブレッドの中から、たった1頭だけが頂点に立つことができる一生に一度のレース。競馬に携わるものであれば、誰もが一度は夢見る檜舞台。今年もまた眠れない夜を過ごすことになりそうです。
さて、ルドルフおやじさん、オークスに続いてお手紙ありがとうございます。今年のダービーは役者が揃いましたね。どの馬が先頭でゴール板を駆け抜けても、どのジョッキーが勝利の拳を握り締めても、ドラマチックな結末になりそうな予感がします。
まずは皐月賞馬アンライバルドについて。レース毎に成長していて、ダービーで堂々の1番人気に推されるまで上り詰めました。ただ正直に言うと、ここまでの馬になるとは想像すらしていませんでした。馬を観る人が観れば、アンライバルドにはこの血統に特有の馬体の幼さや気性的な心配があることが分かります。能力の高さは疑いようがないのですが、それを発揮することを妨げる潜在的な悪さや弱さが見え隠れしている馬です。伝説の新馬戦を勝ち、あたかもエリート街道をそのまま走ってきたようにも見えますが、そうではないでしょう。
アンライバルドに関わる全ての人々が、この馬の潜在的な悪さや弱さを出さないよう、慎重に慎重を重ねてケアしてきた結果がここに繋がっているのです。離乳から始まり、仔別れ、馴致、トレセンへの運動、そして入厩に至るまで、ひとりひとりの愛情がこの馬を最高の形でダービーに導いたのです。道を分けた選択もたくさんあったのではないでしょうか。たとえば、京都2歳を3着に破れたのち、もし友道調教師がラジオNIKKEI杯にアンライバルドを出走させていたとしたら、勝っても負けても、おそらく別の馬になってしまっていた可能性もあると思います。それぐらい表裏一体の馬ということです。1番人気のオッズが示しているほど、陣営は簡単に勝てるとは思っていないはずです。
岩田康誠騎手の手綱が担ってきた役割も少なくありません。アンライバルドの走ったどのレースを観ても、先につながるように、技術の限りを尽くしてゴールまで持ってきていることが分かります。運に恵まれた部分も確かにありますが、アンライバルドが走ることを嫌いにならないよう、その時点での力を出し切れるよう、馬にレースを教えながら導いてきました。田原成貴元ジョッキーは、「針の穴を通すようなレース」と表現していましたね。かつては馬を壊すなどと揶揄された時代を乗り越えて、ようやくここまでたどり着きました。もしこの難しい馬でダービーを勝つことが出来れば、喜びもひとしおでしょう。
皐月賞でスキャンダラスな惨敗を喫したロジユニヴァースも巻き返してくるはずです。「サラ系」として蔑まれた母系なんですね。もう一度書きますが、この馬の皐月賞の敗因は、無敗で連勝してきたことによる人間のプレッシャーが馬にも伝わってしまったことに尽きます。負けられない、負けたくないという陣営の気持ちがロジユニヴァースに伝わり、思わず早く仕上がってしまい、ピークを保っていた精神状態がちょうど皐月賞前にプッツリいってしまったのでしょう。
ただ、変な言い方ですが、あそこで大敗を喫して良かったと思います。下手に食い下がって余力を使い果たしてしまうよりも、底をついた状態からの方がダービーに向けての回復が望めるからです。あれから6週間の間に、少しずつコップに水が溜まってきているはずです。そもそも、2歳時に2度関西に輸送して圧勝してきた馬ですから、その素質は一級品であることに疑いの余地はありません。連勝が途切れた馬が巻き返すのは極めて難しいことなのですが、横山典弘騎手の言うように、この馬の生命力、回復力、成長力に賭けたいと思います。
リーチザクラウンも巻き返しが期待できます。大跳びの馬だけに、小回りの中山競馬場よりも、伸び伸びと走れる府中の方が合うことは間違いありません。無理して行かせることのない枠を引きましたし、前半はひたすら折り合いに専念するはずです。体がグニャグニャしていて、実が入ってこれから強くなる馬だと思いますが、この馬の走りが出来れば、直線ではあわやというシーンを作ることもあるかもしれません。気楽に乗って一発を狙ってくる武豊騎手は怖いですね。
アプレザンレーヴは、内田博幸騎手が最高に上手く乗って、どこまで来ることが出来るでしょうか。青葉賞を勝った父シンボリクリスエスと同じ道を歩んできていますが、父の方がこの時期の完成度は高かったですね。私のイメージとしては、同じ藤沢和雄厩舎のゼンノロブロイと同じぐらいではないでしょうか。皐月賞組と比べると、やはり完成度という点で劣る気がします。それでもダービーはネオユニヴァースの2着なのですが。それから全然関係ないかもしれないのですが、実はこの馬は芦毛なのですね。芦毛は私の中でキーワードなので、そういった意味では2着候補としては注目しています。
今年もダービーを見ることができて、ありがとうと私も言いたいです。
感謝の意を込めて、ダービーの印を打ちたいと思います。
◎アンライバルド
○リーチザクラウン
▲ロジユニヴァース
△アプレザンレーヴ




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