集中連載:「調教のすべて」第28回

また、調教で「動かない」ことには、その馬自身の完成度が高くないという理由もある。まだ競走馬としての体が出来上がっていないため、実戦ではレースセンスの良さでカバーできても、どうしても調教で速いタイムを出したり、抜群の動きを披露したりすることが難しいのだ。
たとえば、今年のダービーで4番人気に推されたアプレザンレーヴは、最終追い切りの時点で、陣営から調教では「動かない」というコメントが出ていた。
追い切り後の池江泰朗調教師のコメントは以下の通り。
「調教では動かない馬だけれど、今日は気分良く動いてくれた。もうやることはない、満足できる状態です。(中略)2400メートルは最適。前走の様な競馬をしてくれれば」(スポーツ報知)
なぜアプレザンレーヴが調教で動かないかというと、ダービー時点では競走馬として成長途上であったということに尽きる。馬体だけを見ても、父シンボリクリスエスの3歳春時点と比べても、明らかに完成度が劣っていることが分かる(写真参照↓)。競走馬としての資質やレースセンスは非常に高い馬なので、青葉賞まではなんとか勝ち上がって来たが、やはりダービーという完成度を競う舞台で勝ち負けするのは難しかったのだ。陣営から「動かない」という言葉が頻繁に出てくるということは、アプレザンレーヴの完成度が高くないということを暗に意味していたのである。
シンボリクリスエス
引用元:競馬ブック
アプレザンレーヴ
引用元:競馬ブック
その他、調教で「動かない」ことには、年齢によってズブさを増している、蹄鉄が薄くなっている、○○コースでは動かない、など様々な理由が存在するが、最も多いのは先に挙げた2つ(「体調が良くない」「完成度が高くない」)である。よって、調教で「動かない」馬はほとんど走らないのである。「ケイコでは動かない馬だから…」、「元々動かない馬だから…」、「実戦タイプだから…」という調教の動きが悪いことを示唆するコメントが出てきたら、その馬は消しと考えてもよいだろう。
ただし、ひとつだけ例外はある。それはその馬がステイヤー(長距離を得意とする馬)であるケースである。基本的にステイヤーはゆったりとしたフットワークで走る馬が多く、気性的にもおっとりしているので、調教のような短い距離で速いタイムを出したり、抜群の動きを見せたりすることはない。
たとえば、私の中でステイヤーというと真っ先に出てくるのがライスシャワーという名前であるが、この馬は本当に調教では動かなかった。500万下の条件馬と併せ馬をしても、食らいついていくのが精一杯という具合。どこにでもいそうな小柄な馬だったので、もし菊花賞や天皇賞春を制したライスシャワーということを知らずに調教だけを見ると、誰もが走らない下級条件馬と認識したはずである。
つまり、ステイヤーが調教で「動かない」ことに関しては、その馬の特徴として大目に見るべきなのだ。3000mを超えるレースになってくると、ほとんどが調教で「動かない」馬たちであることも珍しくない。逆に言うと、調教で「動かない」馬は、もしかすると生粋のステイヤーかもしれないと可能性を探ってみることも、また楽しみのひとつではないだろうか。

菊花賞2
有馬記念
阪神大賞典
天皇賞春1
天皇賞春2
宝塚記念1
宝塚記念2
宝塚記念3
凱旋門賞1
凱旋門賞2
ジャパンカップ
ファイナルフライト1
引退式
ハーツクライ
伝説のウオッカ
メイショウサムソン
スイープトウショウ引退記念
アドマイヤムーン
ダイワスカーレット桜花賞
ディープスカイ
ウオッカ安田記念
伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
Comments
僕の競馬の基盤にはスペシャルウィークがいますが、スペシャルが現4歳秋に最終追いで格下馬に煽られたりと、全く走らなくなりました。でも天皇賞では復活しました。
それ以来、僕は調教の動きってのを信じなくなったんです。あれは何だったんでしょう?
Posted by: Special Week | June 18, 2009 at 02:56 PM
Special Weekさん
こんばんは。
スペシャルウィークが調教で全く動かなくなったことは、私の記憶に新しいです。
京都大賞典は大惨敗したのでしたよね。
そこから天皇賞秋→JC→有馬記念と復活を見せましたが、あの時のスペシャルはステイヤーとしての本質が顕著に出てきた時期だったのでしょうね。
それと春シーズンの疲れを引きずって、京都大賞典のような走りになったのではないかと考えています。
私もあの頃の馬たちが結構基盤になっていますので、また近いうちにお話しできるといいですね。
Posted by: 治郎丸敬之 | June 19, 2009 at 02:40 AM
やはりスペシャルもステイヤー的な解釈でいいんですね。なるほど~。
治郎丸さんは引き出しが多くてスゴいですよね。勉強になります。
Posted by: Special Week | June 19, 2009 at 08:58 AM
はじめまして
いつも次郎丸さんの記事を楽しく読ませてもらってます。今回ステイヤータイプであるライスシャワーの話が出たので質問なのですが・・
俗にステイヤーと呼ばれる馬はアタマ(もしくはクビ)のストライドを低くして走る走法というのが自分の印象なのですが、マンハッタンカフェがアタマ(クビ)をもの凄く高く上げる走法をして菊花賞や春天を勝ったのを見てステイヤータイプの本質が分からなくなりました。
産句の走りもアタマ(クビ)の高い走りをして長距離を好走してますが、あれは例外として考えて良いのでしょうか?
Posted by: アジアの壁 | June 20, 2009 at 08:29 PM
Special Weekさん
褒めてくれて嬉しいですが、何も出ませんよ(笑)
今年はスペシャルウィークの当たり年で、
また秋シーズンに向けて楽しみな馬がたくさんいますね。
ぜひ競馬場で遊びましょう。
Posted by: 治郎丸敬之 | June 20, 2009 at 11:05 PM
アジアの壁さん
こんばんは。
ライスシャワーも首を低く使って、
最後まで頭を上げない走法でしたね。
ステイヤーは走りに無駄があるとスタミナをロスしてしまうので、おっしゃる通り、首の使い方が上手い馬が多いという印象です。
ただもちろん例外はあって、マンハッタンカフェやサクラローレルなどは、どちらかというと首に力を入れて走る馬でしたね。
産駒にこれといったステイヤーが意外と少ないのは、もしかすると走るフォームの影響なのかもしれませんね。
あっ、ですから、結論としては、例外と考えてよいと思いますよ。
質問してくださって、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
Posted by: 治郎丸敬之 | June 20, 2009 at 11:10 PM