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集中連載:「調教のすべて」第29回

次に、調教における「変化」について述べていきたい。「変化」とは、今回の調教がこれまでとは違うということである。決して他馬の調教とのヨコの比較ではなく、その馬自身の過去の調教と今回の調教とのタテの比較ということだ。タテの比較をする以上、それまでの調教を観ている必要があるし、覚えていなければならない。そうしなければ、調教における「変化」には気づけない。

調教における「変化」のひとつ、初時計は前走後に肉体的な反動があったかどうかを知るひとつの目安となる。実戦のレースを走り、どれぐらい間が開いて時計を出し始めたかに着目する方法である。もし反動が出てしまい、肉体的な疲労が取れていなければ、当然のことながら乗り出しは遅くなる。たとえ馬場で乗られていたとしても、時計になるだけの調教が出来ていなければ、前走の反動の大きさが察せられるだろう。逆に、レース後すぐに時計を出せている馬は、元気一杯で、レースによる疲れがほとんどなかったということを意味する。

たとえば、2009年の安田記念のウオッカの乗り出しのタイミングをみてみたい。5月17日に行われた前走のヴィクトリアマイルを、ウオッカは2着馬に7馬身差をつけ圧勝した。ドバイからの遠征帰りということもあって、反動が心配されたが、ウオッカはなんとレース翌週の5月24日には初時計を出して見せたのである。

5/24(日) 栗坂 良 62.4-44.7-28.9-14.4 馬也

Tyoukyou36レース後は疲れを取ることに専念するため、これまでウオッカは翌週に時計を出すことは滅多になく、2週間後に初時計を出すことが多かった。そのウオッカが、ヴィクトリアマイル後は、翌週に馬なりの軽めながらも時計を出した。これは陣営が思っていたよりも反動が少なく、疲労もほとんど見られず、体調が良かったことを意味している。今年の安田記念に臨むにあたっては、最終追い切りの動きの良さばかりが強調されたが、それと同じくらい、もしくはそれ以上に初時計も大きな意味を持っていたということである。

実は、昨年(2008年)の安田記念もヴィクトリアマイルの翌週には時計が出ていた。昨年はヴィクトリアマイルこそ負けてしまったが、海外遠征帰りをひと叩きされ、安田記念に向けて順調この上ない調整が出来ていたことが分かる。また、いまや伝説のレースとなった2008年天皇賞秋に臨むにあたっても、前哨戦である毎日王冠の翌週に時計を出していたことは記憶に新しい。

このように、レース後、どれぐらいの期間(日数)が開いて初時計が出たかを見ることは、前走の反動があるかどうかを見極める目安となるのだ。もちろん、個体差があるので、その馬が普段はどれぐらいから時計を出し始めているかを知っておく必要がある。いつもはレース後の回復に時間が掛かる馬が、翌週から時計を出してくるという「変化」があった場合には、レースにおける反動がなく、体調もすこぶる良好と判断してもよいだろう。

ちなみに、残念ながら回避となってしまったウオッカだが、宝塚記念に臨むにあたっての初時計は6月19日であった。安田記念(6月7日)から12日後。7馬身差で圧勝したヴィクトリアマイルの後よりも、安田記念の後のほうが反動は大きかったということを意味する。もし宝塚記念に出走していたなら、果たしてウオッカは私たちにどんな走りを見せてくれただろうか。こういったタラレバが尽きないのも、また競馬の楽しみのひとつである。

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(第30回へ続く→)

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