集中連載:「調教のすべて」最終回

ここまで私の知っている全てのことを書いてきたつもりだが、最後に調教師について述べておきたい。調教を語るにおいて、調教師について触れないわけにはいかないだろう。
競馬の予想をするにあたって、調教師の腕が考慮に入れられることは意外と少ない。競走馬はもちろんのこと、種牡馬、ジョッキーなどの成績や適性は入念に調べ尽くされるのに比べると、馬を管理する調教師の手腕がピックアップされることは稀である。「競馬ブック」や「Gallop」の片隅に調教師リーディングがひっそりと載っているだけで、その存在が大きく馬券に影響を与えるとはあまり考えられていないようだ。トップ10に入るような調教師であっても、多くの競馬ファンは顔を思い浮かべることすら難しいのではないか。
調教師は競馬の世界ではいわば裏方だから仕方ない、という考え方もあるだろう。実際にレースで走るのは競走馬でありジョッキーである。調教師はよく経営者にたとえられることが多いように、よほど大きな企業ではないかぎり、そのトップの顔が表舞台に登場することはない。ただし、それが株を買うということになれば話は別だろう。おそらくその経営者の一挙手一投足に注目するようになるはずで、これまでどれだけの実績を上げていて、これからどれだけの成果を収められそうかをチェックするに違いない。同じことが馬券を買う場合にも言える。
結論から先に述べると、調教師の腕はその勝率と連対率に表れる。追い切りの手法から馬の入れ替えの頻度、馬を扱うにあたっての考え方まで、調教師によって大きな違いはあるが、それらを全てひっくるめて、調教師の技術というべきものは勝率と連対率に凝縮されていると考えてよい。もちろん、大レースになると強い調教師、ダート馬を育てたら上手い調教師など、それぞれの特徴はある。ただ、それらはあくまでも各論であって、総論としては勝率と連対率を見なければならない。
これは騎手の巧さを表す指標と同じである。騎手の総合的な上手さというのは勝率と連対率に表れる。リーディング上位の騎手ほど、良い馬が回ってきて、さらに勝てるという好循環を辿るものだが、必ずしも勝利数が多ければ上手いというわけでもない。どれだけ勝ったかというよりも、どれぐらいのパフォーマンスが出来たかの方が重要ということである。調教師も同じく、どれだけ数多く勝ったかではなく、いかに好走するべくして好走させたかということが問われるのだ。
以下、2009年7月18日時点における、リーディングトレーナーの連対率である。
関東
1、藤沢和雄 .261
2、加藤征弘 .231
3、久保田貴士 .260
4、尾形充弘 .151
5、伊藤圭三 .199
6、宗像義忠 .192
7、萩原清 .239
8、鹿戸雄一 .190
9、和田正道 .117
10、田村康仁 .133
関西
1、音無秀孝 .261
2、池江泰郎 .213
3、矢作芳人 .174
4、安田隆行 .272
5、中竹和也 .198
6、池江泰寿 .241
7、角居勝彦 .230
8、松田博資 .228
9、藤原英昭 .281
10、西園正都 .240
関東と関西のリーディング十傑を記してみたが、パッと見て分かるのは、関西の方が圧倒的に連対率の高い調教師が多いということである。関東では連対率が2割を超えている調教師がわずか3名に対して、関西は8名の調教師が連対率2割以上を超えている。西高東低が叫ばれるようになって久しいが、その格差の要因は、調教施設や輸送時間だけではなく、もしかすると調教師の技術にもあるのかもしれない。誰も触れないダークサイドの部分ではあるが。
続いて関東から見ていくと、やはり上位3名の調教師の腕は確かである。藤沢和雄調教師は言わずと知れた、日本が世界に誇るトップトレーナーであり当然としても、加藤征調教師と久保田調教師は新進気鋭のトレーナーである。このような実力のある若手の調教師が台頭してきていることは、関東の競馬だけではなく、日本の競馬界にとっても喜ばしいことである。さらにリーディング9位に目を移すと、あのロジユニヴァースを管理する萩原調教師の名前が目に入る。勝ち星こそ上記3名のトレーナーに劣るが、連対率を見てみれば、ダービートレーナーに相応しい手腕を持っていることが分かる。
関西は非常にレベルの高い争いが行われている。音無調教師と順位こそ4位に甘んじているが安田隆調教師の腕が冴えていることは一目瞭然である。逆に矢作調教師と中竹調教師は勝ち星こそ稼いでいるものの、まだこれからの成長が望めるトレーナーであることが分かる。そして、関西で特筆すべきはやはり藤原英昭調教師であろう。2007年度の年間連対率は.353で、2008年度は.317という驚異的な数字を残している。2年連続で最高勝率調教師賞を獲得しているように、いまやその技術ということだけでいえば、藤沢和雄調教師を超えているのかもしれない。そう考えると、両調教師の管理馬が叩き合った今年のフェブラリーSは印象的であった。
このようにして見ていくと、また新たな視点からの予想も可能になるのではないか。あのジョッキーが乗るならば買い、あのジョッキーが乗るならいらないと馬券を買っていたのと同じく、あの調教師ならば買いで、あの調教師ならばいらないということにもなるだろう。連対率の僅かな差といってあなどることなかれ。連対率には調教師の腕が凝縮されている。そのわずかな差がゴール前の勝敗を分けてしまうことだってあるのだ。そして、これを機に、お気に入りの調教師を見つけてみてはいかがだろうか。「○○調教師のファン」、「○○厩舎の馬であれば買い」などの言葉が、競馬場のそこかしこで聞かれるようになれば、競馬はもっと楽しくなるはずである。
追記
約1年半にわたる連載となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。秋からは「調教」にこだわった情報発信も計画中ですので、楽しみにお待ちください。これからもよろしくお願いいたします。
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Comments
治郎丸さん、こんばんは。
自分は美浦の堀宣行先生(ジャガーメイルなどを管理)や連対率ランキングに入っている鹿戸雄一先生(スクリーンヒーローなどを管理)を応援してますね。
堀先生はサラブレのインタビューで「調教で馬に内を突く練習をさせている」と語っていたのが印象的で、藤沢先生と同じくヨーロッパで修行を積んできたタイプだけに期待してます。
関西では大久保龍志先生とか応援してます。理由は大久保正陽先生の息子という理由以外ありません(笑)
Posted by: アジアの壁 | July 19, 2009 at 08:12 PM
アジアの壁さん
こんばんは。
コメントありがとうございます。
堀調教師は連対率.212とやはり高いですね。
若手で社台からの期待も大きいようです。
個人的にはロックドゥカンブの故障が可哀想でしたね。
大きなところを狙える逸材だと思っていましたので。
それにしても、
大久保正陽調教師の息子さんが調教師なんて、
時代は変わりましたねぇ。
Posted by: 治郎丸敬之 | July 21, 2009 at 12:54 AM