逃げ馬は1頭しかいない

先週の秋華賞は壮絶なレースでしたね。春はブエナビスタの強靭な末脚の前に屈してきたレッドディザイアが、力を振り絞ってようやく最後の1冠を手にしました。松永幹夫調教師にとっては、これが初のG1タイトルになりました。ミッキーと呼ばれた青年ジョッキーが、調教師になってG1レースを勝つとは、時代の移ろいを感じざるをえません。
ミッキーこと松永幹夫で思い出したのですが、ミホノブルボンの3冠を阻んだキョウエイボーガンという馬がいました。3冠を阻んだと言っても、実際に菊花賞を勝ったのはライスシャワーであり、キョウエイボーガンはミホノブルボンのハナを叩いて玉砕しただけです。それでも私がキョウエイボーガンのことを覚えているのですから、いかにこの馬がこの年の菊花賞の鍵を握っていたかということが分かると思います。
ミホノブルボンは圧倒的な強さで皐月賞とダービーを制し、夏の休養に入りました。対するキョウエイボーガンは、皐月賞にもダービーにも出走せず、ひたすら裏街道を歩みながら力をつけ、中日スポーツ賞4歳S(G3)と神戸新聞杯(G2)を連勝しました。2頭が初めて激突したのは、菊花賞の前哨戦にあたる京都新聞杯(G2)でした。
ミホノブルボンとキョウエイボーガンには「逃げ馬」という共通点がありました。
京都新聞杯を逃げたのはミホノブルボン。圧倒的な地脚の強さでハナに立つと、そのまま春の強さを再現するようにゴール板を走り抜けました。キョウエイボーガンは逃げることができず、2番手に抑える競馬をしたものの、本来の力を出し切ることなく、9着という思わぬ惨敗を喫してしまいました。逃げ馬が逃げられなかった時点で終わりという典型的なレースでした。
ミホノブルボンのあまりの強さに、競馬ファンの間では、シンボリルドルフ以来の無敗の3冠馬の誕生はほぼ確定ムードになっていました。春は血統的に距離延長が不安視されていたミホノブルボンが、菊花賞当日1.5倍の1番人気に推されたことからも、その熱狂ぶりがお分かりいただけると思います。ミホノブルボンが無敗の3冠に輝いた時、競馬場のターフビジョンに映し出すために、詩人の志摩直人さんはこんな詩を用意していたそうです。
その道に皐月花咲き
その道に青葉かぎろい
その道に菊花の飾り
ただひたすらにおのが道
速いことは美しい
そんな美学に酔いしれた
不敗の三冠、京の秋
ミホノブルボンの眩しさよ
ミホノブルボンの鍛え上げられた栗毛の馬体に、京都競馬場独特の夕陽が反射しながら、このような美しい詩が奏でられるはずだったのです。誰もがそんな結末を期待していました。
しかし、キョウエイボーガンと松永幹夫騎手が逃げたのでした。強い覚悟を持って、ミホノブルボンから先頭を逃げ馬の座を奪ったのでした。2周目の3コーナーまで先頭に立っていましたが、そこで失速し、そのまま後退して16着。ミホノブルボンはいつも通りの逃げが打てず、終始、折り合いを欠き、最後の直線半ばでライスシャワーに抵抗することなく交わされ、惜しくも3冠なりませんでした。たった1頭の逃げ馬が歴史を変えたのでした。その後、キョウエイボーガンは脚部不安でターフを去り、種牡馬にはなれずに廃用になる予定であったところをファンの女性に引き取られ、今は群馬県の乗馬クラブで余生を送っているそうです。
キョウエイボーガン陣営は、菊花賞で逃げるかどうか、ギリギリまで頭を悩ませていたそうです。キョウエイボーガンの気性から、逃げなければまず勝てないが、逃げてもバテてしまうだろう。もしレースを壊してまで逃げて、自分の敗北だけならまだしも、ミホノブルボンの3冠をも台無しにすることがあれば、批判は避けられない。自分の馬が勝つためだけのわずかな可能性に賭けるべきなのか、それとも競馬全体の空気を読むべきなのか。今考えてみても、どちらが正しい決断だったかは正直私にも分かりません。ただひとつ、「逃げ馬」はひとつのレースにたった1頭しかいないという悲しい宿命を、キョウエイボーガンは私たちに教えてくれたのでした。今年の菊花賞は、果たしてどの馬が逃げるのでしょうか。
今ではなかなか見られなくなった玉砕的な逃げをご覧ください。

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凱旋門賞2
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伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
Comments
他馬を妨害するとかは論外として、
>もしレースを壊してまで逃げて、自分の敗北だけならまだしも、ミホノブルボンの3冠をも台無しにすることがあれば、批判は避けられない。
……こういう批判って、あるんでしょうか。ミホノブルボンのファンにはいろいろ言われるでしょうが、公正な競走という意味では、「自分の馬が勝つためだけのわずかな可能性に賭けるべき」というのは当然のような気がします。
ちなみに秋華賞で「有力馬が牽制しあっているうちに、アッと驚く逃げ馬が……みたいな展開にならないかなぁ」と妄想し、ヴィーヴァヴォドカから買って玉砕した私です(汗)
Posted by: タビノナカマ | October 22, 2009 at 10:59 AM
タビノナカマさん
こんにちは。
難しい問題ですが、関係者からは少なからず批判はあると思います。
私の考えとしては、出走する以上は自分の馬が勝つためだけのわずかな可能性に賭けるべきだと思うのですが、その前段階として出走するかどうかを公正に吟味して欲しいなと思います。
昔はテレビ馬といって、テレビに映るためだけに逃げる馬がいましたが、これだけ出走頭数が限定されている中で、レースを自分たちのためだけにしてしまうのもどうかと。
クラシック最後のレースだからと言って、出なければいけないということではありませんからね。
いずれにせよライスシャワーが勝ったと思うのですが、キョウエイボーガンがいたからといういい訳は面白くないではないですか。
かくいう私も、記憶の限りでは、キョウエイボーガンの馬券を買っていました(笑)
いち競馬ファンにとっては、こういう馬はいてくれても盛り上がりますよね。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 22, 2009 at 12:05 PM
なるほど。
私は競馬を始めて日が浅いのですが、少し前の名馬のレース映像を観ると、ツインターボという馬がよく逃げていて、「何だろうこの馬は?」と思った覚えがあります(笑)
それにしても、後方からごぼう抜きして勝つというのは、初心者にも観ていて馬の強さ・速さが分かりやすいんですが、逃げて勝つというのは、どうして逃げ切れたのかがよく分かりにくいことが多いような気がします。その分、なんだか芸術的な勝ち方のような印象があります。映像で観ただけの過去の名馬のレースで一番「何で?」と思うのが、マヤノトップガンが逃げ切った有馬記念なんですよね。サイレンススズカのように大きく差をつけて逃げるというなら、まだ分かるんですが……。
そういえばユタカはGIでの逃げ切り勝ちがないとか……。今週は(人気になるでしょうけど)リーチザクラウンから買おうと思っています。って、ダービーでも買ったんですが、家人が買っていたロジに負けた……。
Posted by: タビノナカマ | October 23, 2009 at 03:07 PM
タビノナカマさん
こんにちは。
ツインターボとは懐かしい名前ですね。
私にとって逃げ馬といえば、サイレンススズカかツインターボですからね。
ああゆうレースをする馬は最近はいなくなりました。
もっと渋いところで言えば、ユーワアトラスというもの凄い印象の強い馬がいました。
逃げ馬が強い勝ち方をした時って、本当に芸術的というかゾクッとしますよね。
おそらく逃げるであろうリーチザクラウンにも、そんな勝ち方をしてもらいたいものです。
今回はロジはいませんからね(笑)
Posted by: 治郎丸敬之 | October 24, 2009 at 11:42 AM
自分はミホノブルボンに競馬とゆうものを教えてもらった馬なのでキョウエイボーガンとミホノブルボンの逸話も聴いたことがありました。
いろんな意味でこうゆう絡みや駆け引きや運命が交錯するのが良くも悪くも競馬なんだと痛感したレースでした。
しかしのちのミホノブルボンの好敵手だったライスシャワーのことはミホノブルボン以上に自分の記憶に刻まれています。
今でも淀の帝王にして最強のステイヤーだと今でも思っています。
ライスシャワーのことを思い出すと今でも熱いものが込み上げてきます。
キョウエイボーガンがいてライスシャワーがあってミホノブルボンとゆう馬があったようにまで思います。
競走馬ゆえアスリートがゆえに怪我はつきものだと思いますが競馬をするものとしてたまに自分自身に言い知れない憤りを感じます。
あと日本のスピード競馬にも理解は出来るけど馬達のことを考えると納得がいきません。
治郎丸さんにこんなことをゆってもしょうがないですがつい熱くなっちゃいましたね。
どうもすみませんでした。
Posted by: ユビキタス | October 24, 2009 at 07:21 PM
ユビキタスさん
こんばんは。
私にとっても最高のステイヤーはライスシャワーですね。
メジロマックイーンはもう少し融通性がありましたから、こてこてのステイヤーといえばライスです。
それにしても、ライスシャワーの血が後世に残っていないことを思うたびに、あの宝塚記念だけは残念でなりません。
スピード競馬だけが悪いわけではないのですが、ちょうどあの頃は馬場が固くて、可哀想なことになってしまいました。
今年は京都競馬場に行きたいと思っているので、お墓参りに行ってきます。
Posted by: 治郎丸敬之 | October 24, 2009 at 11:17 PM