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大逃亡劇のトリック

Elizabeth09 by @84 image
エリザベス女王杯2009-観戦記-
行くしかないとハナを叩いたクイーンスプマンテをテイエムプリキュアが追いかけ、後続との差がみるみるついたと思いきや、そのままの形でゴールまでなだれ込んだ。前半の1000mが60秒5という遅めの流れにもかかわらず、3番手集団は遥か後方にいたのだから、どれだけ金縛り状態にあったかが分かる。痺れを切らせた横山典弘騎手が動いた時には時すでに遅しという、行った行ったの典型的なレースであった。これぞ競馬のレースは生き物であるという怖さである。

なぜ、このような前残りのレースになってしまったのだろうか。ここを明らかにせずしては、今年のエリザベス女王杯は語れない。というよりも、ほとんどの馬が力を出し切っていない状況では、他に語るべきはないのかもしれない。先行した2頭以外の馬に跨ったジョッキーたちが、なぜこれだけのスローであることが分かっていても動けなかったのだろうか。

答えはもちろん、先に動けば負けてしまうからである。どれだけスローで流れていても、同じ母集団からであれば、先に脚を使った馬が後から仕掛けた馬にやられる可能性は高い。京都の2200mというスタミナを問われるタフなコースで、牝馬が自ら動くのは勇気が要る。さらに圧倒的な1番人気のブエナビスタが後ろに控えている状況が加わると、ブエナビスタに勝つために少しでも末脚を溜めておきたいと考えるのは当然のジョッキー心理である。自分以外の誰かが動いてくれることを期待して、誰もが自ら動こうとはしなかったのである。

と、ここまではありきたりの解説にすぎず、このレースの全貌を解明したことにはならない。スローペースの前残りは、このような状況で日常的に繰り返されているのだ。それでは、なぜこれほどまでのボーンヘッドが、これだけの大舞台で公然と行われてしまったのだろうか。本当に先に動けば負けてしまうからという理由だけで、百戦錬磨のトップジョッキーたちが、いともやすやすと2頭の逃げ切りを許してしまったのだろうか。そうではないだろう。実はこのレースを紐解くトリックは別にある。

そのトリックとは、3番手につけたリトルアマポーラの鞍上にある。そう、今秋から短期免許で久しぶりに日本競馬に参戦しているスミヨン騎手である。日本競馬のペースにまだ不慣れな外国人ジョッキーが、後続集団の先頭に立ち、レースに蓋をしてしまう形になったことが、極端な前残りの展開に繋がったのだ。スミヨン騎手が目測を誤ったことにより、自ら動けない後方の馬たちも共倒れとなってしまった。外国人騎手や地方からスポット参戦してくるジョッキーが、このポジションを取ると、得てしてこうした展開に陥ることある。

たとえば、イングランディーレが逃げ切った2004年の天皇賞春もまったく同じ状況であった。あの時は、イングランディーレが超がつくほどのスローペースで逃げているにもかかわらず、離れた後方集団の先頭を走るアマノブレイブリー小牧太騎手が、まったく突っつこうともしなかった(追いかけようともしなかった)。当時の小牧太騎手はまだ地方・園田競馬場から中央競馬に移籍してきたばかりで、特に地方にはない長距離のレースでのペース判断が難しかったのである。

恐ろしいほどの凡レースになってしまった以上、負けた馬たちを責めることは出来ない。力を出し切っておらず、レースが終わってもすぐに息が入った馬が多かったのではないだろうか。その中でも、責任を果たすべく途中から動きつつ、最後は1頭になっても伸び続けたブエナビスタの強さを改めて認識できたことが唯一の救いであった。春に比べて馬体が細く映り、体調が芳しくないにもかかわらず、これだけの走りを見せてくれることに頭が下がる。この後はゆっくりと休んで、来年に備えてほしい。

フランスから来たシャラナヤも最後は鋭い脚で追い込んできた。まだまだ成長の余地を残した馬体に映ったが、さすがオペラ賞の勝ち馬というところを見せてくれた。メイショウベルーガも末脚勝負になって、自身の良さは生かせたのではないか。好枠からそのまま中団につけられたことも大きかった。ブロードストリートは不完全燃焼だろう。スタミナに一抹の不安があり、動かないことを自ら選択した結果だけに、仕方ないといえば仕方ない。

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