鋼の馬

ジャパンカップも今年で29回目を数えます。初めてジャパンカップが開催された年、ほとんど実績もなく人気薄だった外国馬たちに、上位を独占されてしまいました。日本馬が勝てる日など来ないのではないか、と多くの競馬ファンは深い衝撃を受けました。あれから29年が経ち、たとえ世界の強豪が向かってきたとしても、地元であれば胸を貸せるまでのレベルに日本の競馬は成長しました。ここに至るまでには、多くのホースマンたちの挑戦や挫折があります。その歴史の重さを感じながら、今年のジャパンカップも楽しみたいですね。
第2回ジャパンカップに鳴り物入りで参戦したジョンヘンリーという外国馬がいます。当時、ジョンヘンリーは8歳となっていましたが、芝ダートを問わず大レースを勝ち続け、68戦31勝の戦績を引っさげて日本にやってきました。前年の衝撃に加え、今度はアメリカの英雄がやって来たのですから、大フィーバーとなりました。当然のことながら、ジョンヘンリーは圧倒的な1番人気に推されたのです。同じ4本脚のサラブレッドではないような感覚もあったのではないかと思います。
ジョンヘンリーという名前は、アメリカの民謡で広く知られている黒人の鉄道労働者に由来します。彼は生まれたときからハンマーを握っていたと言われ、屈強さと誠実さの象徴とされる人物です。鉄道トンネルを山腹に開通する仕事に従事しており、他の誰よりも早く力強くハンマーを振るうことで有名になりました。
そんな噂を聞きつけたあるセールスマンが、新しい蒸気ドリルを持って彼のもとに近寄り、「どんなに力の強い人間でも、このドリルには敵わないはずだ」と挑発しました。ジョンヘンリーは「そんな油と鉄で出来た機械に人間が負けるはずがない」と言い返しました。そして、人間と機械の決闘が行われたのでした。
翌日の午後、どちらが速く岩山のトンネルを貫通できるか、人間と機械の威厳を賭けた勝負が行われました。右側の山を蒸気ドリル、左側の山をジョンヘンリーが掘り進めます。最初は蒸気ドリルが一歩リードしていたのですが、途中からジョンヘンリーがジワジワと差を詰め始めました。岩山からは、固くて重い岩塊が崩れ落ちてきます。最後の最後に、ジョンヘンリーが蒸気ドリルを抜き去ったところがゴールでした。
ジョンヘンリーを応援していた人間たちは、人間が機械に勝ったと大喜びしました。しかし、人間の限界を遥かに超えてしまったジョンヘンリーは、その場で崩れ落ち、死んでしまいました。この寓話は産業社会における人間の死を暗に意味します。そして、私たちの中のどこかにある、人間が持つ機械を超えた能力への信頼と賛美もあるのではないでしょうか。
ジャパンカップで1番人気に推されたジョンヘンリーは、見せ場すら作れず、13着に敗れてしまいます。まるでトンネルを掘り終えたジョンヘンリーのように、ゴール前で力尽きてしまったのです。歴戦の疲れが出てしまったのか、それとも連戦のツケが回ってきたのか、ジョンヘンリーの意外な敗北に日本の競馬ファンは唖然としました。のちに自国へ戻ってからも、ジョンヘンリーは低迷を極めます。9歳時はわずかに5戦したのみで、さすがのジョンヘンリーも衰えたかと誰もが思いました。
ところが、10歳になったジョンヘンリーは再び力を取り戻したのです。2度目となるアーリントンミリオン(G1)を制し、9戦6勝の活躍を見せました。屈強な肉体と決してあきらめない精神力。まさにアメリカの民謡どおりの馬でした。11歳になっても現役を続行する予定でしたが、脚元のケガで惜しまれながらも引退となりました。G1レースを16勝したこともそうですが、10歳になってG1レースを4つも勝ったことも、The Horse of Steel(鋼の馬)と呼ばれたゆえんでしょう。
競走馬のピークが4歳なんて誰が言ったのでしょうね。先週のカンパニーにしてもそうですが、個体差こそあれ、サラブレッドは意外や高齢になっても能力は衰えないのかもしれません。人間が勝手に衰えたと見限るだけで、実はほんの少し調子を落としているだけなのかもしれません。じっくりと待てば、ふたたび輝きを取り戻してくれるのです。それを馬の恩返しと言った調教師もいました。簡単に引退させてしまうのも考えものですね。私たち人間だってそうではないでしょうか。調子の悪い時期が長く続くことだってあるはずです。そんな時でも、年齢による衰えだとか自分の能力の限界だとかあきらめないで、己を信じて、時を待つことの大切さを、ジョンヘンリーやカンパニーは教えてくれたのです。

菊花賞2
有馬記念
阪神大賞典
天皇賞春1
天皇賞春2
宝塚記念1
宝塚記念2
宝塚記念3
凱旋門賞1
凱旋門賞2
ジャパンカップ
ファイナルフライト1
引退式
ハーツクライ
伝説のウオッカ
メイショウサムソン
スイープトウショウ引退記念
アドマイヤムーン
ダイワスカーレット桜花賞
ディープスカイ
ウオッカ安田記念
伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
Comments
ジョンヘンリーがJCに出たレースは外してしまいました、JCが出来てからのレースは驚愕ですルドルフも負けたのに地方馬のロッキータイガーだったかな?活躍が凄かったと記憶してます。ジョンヘンリーのこの話しは聞いたことが有るような雑誌で読んだことが有るような、忘れてしまいましたが、今の団塊世代以降の疲れきった親父にも勇気を与えてくれる話です。酒を呑みながら眼鏡なしで携帯から必死に書き込みさせて貰いました。皆さんごめんなさい
Posted by: 鬼太郎 | November 26, 2009 at 08:14 PM
鬼太郎さん
こんばんは。
ジョンヘンリーが出走したJCの馬券を買っていたなんて、かなりのベテランですね。
おっしゃる通り、ジャパンカップはプライドをぶつけ合うような凄いレースが多いです。
ロッキータイガーの激走や、翌年のシンボリルドルフのリベンジなどドラマもあります。
先週のカンパニーに私も勇気付けられて、ふとジョンヘンリーのことを思い出してしまいました。
時代が移り変わった今でも、彼の走りは世界の競馬ファンの記憶に残っています。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 27, 2009 at 12:56 AM
治郎丸さん こんばんは。
カンパニー顔負けの高齢馬(婆?!)にもかかわらず、
11月上旬に連闘してしまい、そのつけが 今になってまわってきている 一姫三太郎です。
ジャパンカップ
このレースは 私にとって 3年前の あの時の様々な気持ちが甦る 少々郷愁めいたものを感じる一戦です。
>日本馬が勝てる日など来ないのではないか、…
といわれた29年前から
>多くのホースマンたちの挑戦や挫折があり…
日本の競馬は成長した…
その歴史の 私は ほんの3年しか知りませんが、
その厚い壁を突き破ってきた 過去の名馬たちに敬意を表しながら、今年もレースを楽しみたいと思います。
さて カンパニー
私も 彼からは 大いに勇気をもらいました。
8歳にして この頑張り 頭が下がりますし、
本当に 記録にも 記憶にも残る名馬だと思います。
調子の良くない時期でも
勝てない時でも
常に 挑戦し続ける事 <時を待つことの大切さ>を
教えてくれましたね。
ジョンヘンリー 彼のことは初めて知りましたが、
何ともドラマチックな競走馬人生、
あきらめない精神力 人間にも通じる大切なことですよね。
そして 11月29日
私は 心の底から
ウオッカァァァーーーッ と叫びに
カンパニーと同じく 中2週の強行軍で、
府中に出走します。
Posted by: 一姫三太郎 | November 27, 2009 at 02:22 AM
初めまして。ブログはいつも拝見してるのですが、コメントは初めてです。ジャパンカップの話題に誘われてしまいました。
昭和59年、ミスターシービーとシンボリルドルフ
2頭の三冠馬の初対決として超盛り上がっていました。
スタートすると同時にカツラギエースの大逃げ。あれよ、あれよという間にゴール。あわてて突っ込んできたルドルフは何とか3着、シービーは着外。その瞬間の府中競馬場を蔽った何ともいえない静寂。今のように関東と関西の交流のなかった時代、初めて日本馬が勝ったというのにほとんどの人の顔に「カツラギエースってだれ」みたいな戸惑いが浮かんでいました。
府中競馬場で見ていた私は、20年以上たった今でも
ジャパンカップの時期が来ると その時のあの不思議な静けさを思い出します。
そのカツラギエースもシービーもすでに天馬になってしまいました。
Posted by: ネイチャミツコ | November 27, 2009 at 11:08 AM
ほんと深い良い話ですね。
治郎丸さんはほんとにいろんな話や逸話を知っていて羨ましい限りです。
それだけ治郎丸さんが他の人より勉強したり努力したり経験した者が知りうることですよね。
自分もこうゆう馬に纏わる逸話はスキなのでこうゆう逸話を1つでも多く聴けて嬉しいです。
運命は簡単に変えられないものかもしれないけど時として何かを誰かを信じる気持ちは運命すら容易く変えらることが出来ると思います。
治郎丸さん…
いつも為になる逸話や話を聞かせてもらってありがとうごさいます。
Posted by: ユビキタス | November 27, 2009 at 11:29 AM
一姫三太郎さん
こんばんは。
11月上旬に連闘ですか(笑)凄いですね。
そうなると、ジャパンカップにも出走しないわけにはいきませんよね。
ぜひ思いっ切りウオッカを応援してきてください。
私は行きたい気持ちは山々ですが、おそらく自宅のテレビで応援することになると思います。
ウオッカのポスターを眺めながら、
明日のウオッカの走りをワクワクしながら想像している一姫三太郎さんが目に浮かぶようで嬉しいコメントでした。
ありがとうございます。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 28, 2009 at 02:04 AM
ネイチャミツコさん
こちらこそはじめまして。
カツラギエースが勝った時のあの静けさを知ってらっしゃるのですね。羨ましい。
あのような形で世界の壁が破られることを、誰が想像したでしょうか。
その翌年に勝利したシンボリルドルフは、仔トウカイテイオーと親子制覇ですから、よほどジャパンカップに縁があるのでしょう。
サラブレッドの一生は人間のそれに比べて短い分、その血の脈々としたつながりを切に感じますね。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 28, 2009 at 02:08 AM
ユビキタスさん
こちらこそ、いつも読んでくれてありがとうございます。
私もこういう馬たちのドラマによって生かされているところがありますので、それを少しでも多くの人に知ってもらいたいのですよね。
>運命は簡単に変えられないものかもしれないけど時として何かを誰かを信じる気持ちは運命すら容易く変えらることが出来ると思います。
本当にそうだと思います。
私たちはどこかで何かをあきらめてしまっていますが、カンパニーやジョンヘンリーの活躍を見るにつけ、まだまだと自分を戒めることができます。
作家の沢木耕太郎さんが「地図を燃やす」とどこかで書かれていましたが、目の前にある人生の地図を燃やして生きていきたいですね。
Posted by: 治郎丸敬之 | November 28, 2009 at 02:13 AM
ほんと治郎丸さんのゆうとおりサラブレッドがサラブレッド故に勝つことでしか評価をしてもらえないとても厳しい世界で命を磨り減らしながら逃れることが許されない運命の中でも必死に前だけを向いて後ろは決して振り向かず己だけを信じてただひたすら走る姿には心を熱くし感動すると同時に自分の生き方すら考えさせられますよね。
これからもいろんな競馬に纏わる話を聞かせてくださいね。
Posted by: ユビキタス | November 28, 2009 at 07:05 PM