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地図を燃やせ。

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「心が震えたレースベストテン2009」の第5位は、横山典弘騎手が乗ってカンパニーが勝ったマイルCSである。前人未到の8歳馬によるG1制覇を成し遂げた後、今度は負けられない立場として、この引退レースに臨んできた。そんな周囲のプレッシャーをはねのけるように、カンパニーは横山典弘騎手がゴール前では手綱と頬を緩める余裕さえ見せて楽勝した。そして、これは見逃されがちなことだが、8歳馬によるG1連勝も快挙である。ただでさえ消耗の激しいG1レースを、8歳馬が中2週で連勝してしまうことの凄さ。もしかすると、こちらの方がより偉業と呼ばれるに相応しいのかもしれない。

カンパニーの昨年秋の覚醒を見るにつけ、音無調教師は若い頃から変わっていないことを強調するが、私はその馬体の変化が最も大きな要因だろうと考える。それまではコロンとして映ったカンパニーの特徴的な馬体が、この秋はとてもスリムになっていた。悪く言えば貧弱、良く言えば軽量化に成功したということ。つまり、競馬の世界で言う、「枯れた」ということだ。速く走ることにとって不必要な部分は削ぎ落とされ、必要な部分だけが残った。8歳馬にしてようやく枯れた馬体を生かして、カンパニーは8歳馬によるG1連勝を成し遂げた。

もうひとつ、血統にも触れておかなければならない。無理をさせることなく大切に使ってきたからこそ高齢になるまで走り続けられたという論調があるが、諸手を挙げて賛成するわけにはいかない。だって、生涯で35戦も走っているのだから。しかも、そのうちのほとんど(32戦)が重賞レースである。3歳でデビューしてから、常に一戦級の厳しいレースの中で揉まれてきたのである。ちなみに、今年産駒がデビューするあのディープインパクトはわずか14戦のキャリアで引退している。はっきり言ってしまうと、カンパニーは血統的に恵まれておらず、種牡馬としての道がなかったからこそ、皮肉にもこれだけ現役を続けることが出来たのだ。そう、まるでセン馬のように。

しかし、その血統の中にこそ奇跡(ミラクル)があった。カンパニーの母系を辿っていくと、クラフティワイフという牝馬で指が止まる。クラフティワイフは仔出しが良いことで有名な繁殖牝馬で、初仔のブリリアントベリーからなんと10年連続で産駒をターフに送り出した。しかも、その仔たちは現役で長く丈夫に走り続けたのだ。ビッグショウリ39戦、イブキハイシーザー49戦、クラフティシャルム23戦、キョウエイフォルテ39戦、クラフティゴールド32戦などなど、バトルバニアンは現在30戦を走り、これからもまだキャリアを積み重ねていく。カンパニーの鋼のような肉体と屈強な精神力には、このようなファミリーとしての背景があったのだ。

作家・沢木耕太郎が書いた「地図を燃やす」というエッセイがある。若かりし頃の沢木耕太郎が世界的な指揮者である小沢征爾にインタビューをした時、「30までは何でもできると思っている。ところが30を過ぎると自分に可能なことが、地図のようにはっきり見えてくるんですよ」という言葉に強い印象を受けたという。その後、沢木も30を過ぎて、小沢の言葉どおりの生々しさで地図が浮かんできたという。だが、と沢木は続ける。「前に進もうとすると、見えていたはずの地図の道が陽炎のように消えていた」。40代に入った小沢に再び会った時、そんな話が聞けるのではないかという幻想がある、どうしたら脳裏に浮かぶ地図を燃やし尽くせるのだろう、と沢木は締めくくった。

私が心を動かされたのは、カンパニーが単なる頑張るオヤジのシンボルだったということではない。年齢を重ねると衰えるという、私たちがごく自然に持っている思い込みに気付かされたのだ。携わる人間の思い込みによって、陽の目を見る前に淘汰されてしまったサラブレッドは星の数ほどいるに違いない。そして、私たち人間にもそれは当てはまり、自分自身の人生に対する思い込みにもつながりかねない。

10代の頃は自分が何をしてよいのか先のことなど全く見えず、20代の頃は夢中になって人生の地図を探し求め、30代になってようやく地図がはっきりと見えたかと思いきや、あっという間に私たちの青春は終わる。だが、自分の人生はこんなもんだとあきらめたり、高を括ったりすることこそが、私たちの未来を奪っていることに気づかねばならないのだろう。カンパニーはその旅の途中で、何度地図が見えたり、陽炎のように消えたりしたことだろう。それでも走り続けて、競走生活の最後の最後に、自分の力で種牡馬への道を切り拓いた。

もしカンパニーが話すことができたなら、きっとこう言うに違いない。

「地図を燃やせ」


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Comments

永く愛読させていただいておりますが、あまりの名文に感動し、初コメントの度胸に到りました。
かように讃えられたるカンパニーは、実に幸福な名馬であります。
その他のレースにどんなストーリーが控えているのか、想像もつきませんが…楽しみにしております。

Posted by: へろ | January 14, 2010 at 08:30 PM

へろさん

はじめまして。

コメントありがとうございます。

カンパニーは本当の意味での名馬だったと思います。

この後にもベスト4を書いていきたいと思いますが、あまり期待せずに、楽しみにおまちください(笑)。

へろさんの前残りフォーカスも面白いですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 15, 2010 at 12:05 AM

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Posted by: 競馬インデックス! | January 15, 2010 at 05:49 PM

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