「安藤勝己の頭脳 名牝騎乗論」

競馬を知り尽くした百戦錬磨のジョッキーに馬券を極めようとする天才がインタビューすると、馬券本ながらもこれだけ奥の深い内容になる、というお手本のような書である。シリーズ前著、前々著についても述べたが、安藤勝己騎手から競馬の本質を引き出し、核心を突こうとする、亀谷敬正氏の手腕にはいつも敬服する。
個人的に気づきがあった部分や馬券のヒントになりそうな頁に付箋を貼る習慣が私にはあり、この本にはなんと9個の付箋が付いた。せっかくなので、そのひとつをここに紹介したい。
ひとつはダイワスカーレットが勝った2007年の桜花賞について。1番人気のウオッカの追撃を振り切って、ダイワスカーレットがチューリップ賞の借りを返したレースである。レース後に勝因としてよく挙げられた、「チューリップ賞はウオッカが来るまで待ってから追い出して、瞬発力勝負になってしまったので、桜花賞は持続力勝負に持ち込もうとして早めに動いた」という意見に、当時の私は戸惑いがあった。レースを観る限り、チューリップ賞と桜花賞ではそれほど大きな動きの違いはなかったように思えたからである。
亀谷
「結果的に桜花賞と同じ時計でしたが、パフォーマンスを上げたのでしょうか?」安藤
「それはあると思います。チューリップ賞よりも少し時計の掛かる馬場だったことを考慮すると、それより走っている印象はあります。チューリップ賞では同じような流れでウオッカに勝負所で並ばれたわけだから、そのあたりも全然違いましたよ。ただ、その時も追い出してからはまだ差し返すようなところがありました。だから、持久力勝負の追い合いになれば5分以上かなというのがあって、そのあたりを意識して動いてはいます。実際には大きく乗り方を変えたつもりはありませんが」亀谷
「チューリップ賞よりも、相手を待たずに追い出したということですか?」安藤
「それはよく言われるんですが、本当に気持ち程度です。それよりも、チューリップ賞は逃げる形で馬が力んでいたけど、3番手で走った今回はリラックスしていましたからね。それでも1馬身半ほどの上積みがあったわけではないと思うんですよ」
このやりとりを読んで、私は少し安心した。「チューリップ賞では瞬発力勝負になって負けたから、桜花賞では持続力勝負に持ち込んで勝った」という単純化された方程式を、安藤勝己騎手がやんわりと否定してくれたからであろう。曖昧なことを言っているように見えて、実はダイワスカーレットがチューリップ賞よりも仕上げられていたこと、同じようなラップでもチューリップ賞は逃げる形で力んでいたこと、ウオッカが前走ほどのパフォーマンスをしなかったことなど、様々な要因が重なり合っての勝利だったと教えてくれているのだ。競馬はそんな簡単なものではないよ、と言っているようでもある。
競馬は難しいけど、だからこそ楽しい。
あなたはこの本にいくつの付箋を貼るだろうか。

菊花賞2
有馬記念
阪神大賞典
天皇賞春1
天皇賞春2
宝塚記念1
宝塚記念2
宝塚記念3
凱旋門賞1
凱旋門賞2
ジャパンカップ
ファイナルフライト1
引退式
ハーツクライ
伝説のウオッカ
メイショウサムソン
スイープトウショウ引退記念
アドマイヤムーン
ダイワスカーレット桜花賞
ディープスカイ
ウオッカ安田記念
伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
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