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ムチを使うことなく

Tsunoda

今月末で角田晃一騎手が22年にわたるジョッキー人生にピリオドを打つ。デビューしたのが1989年だから、私が競馬を始めた年とほぼ同じで、そういう意味では、私の知っている競馬にはいつも角田晃一騎手が乗っていたことになる。その角田晃一騎手がムチを置くことには正直驚かされたし、アスリート人生の短さと歳月の流れる速さには、感傷的にならざるを得ない。

角田晃一騎手は高度な技術に支えられたジョッキーである。中央の騎手たちの中では、馬を勝利に導くという巧さにおいては、おそらく5本の指に入ったのではないか。もともと筋が良かったのだろう。それに加え、デビューしたばかりの頃から、シスタートウショウ、ノースフライト、ヒシアケボノ、フジキセキといった一流馬に跨り、調教をつけ、G1レースを勝った経験が、彼の才能を一気に開花させていった。全重賞38勝中10勝がG1レースであったことは、角田晃一騎手が心の強い騎手だったことだけではなく、彼の技術がより厳しいレースでこそ発揮されたことを示している。

私の記憶に最も鮮明に残っているのは、1994年に牝馬ノースフライトで勝利したマイルCSである。前走のスワンSで、快速サクラバクシンオーにスピードで圧倒されたにもかかわらず、このマイルCSは1番人気に推されての出走となった。距離が200m延長されて逆転が起こる、というのが大方の予想であった。私もそのように思っていたし、また実際にその通りの結果となったのだが、今振り返ると、この負けられない1戦に角田晃一騎手はわずか24歳で臨んでいたのである。大きな期待と大金を背負って、若かりし彼は何を想って乗っていたのだろうか。

スタートしてからゴール板に至るまで、角田晃一騎手は完璧であった。ゴールから逆算したのではないかと思わせるほどの緻密な手綱さばきと絶妙な仕掛けで、小島太サクラバクシンオーを歯牙にもかけなかった。重圧など微塵も感じさせないあっさりとした勝利に、心臓に毛が生えているのではないかと思わせられた。最後の直線で左ムチを振りかざす姿からは、ただ勝つだけではなく、魅せなければならないという自意識さえ伝わってきた。

勝気な性格を表すエピソードとして、フジキセキで朝日杯3歳ステークスを制した時の勝利ジョッキーインタビューがある。ゴール前で武豊騎手が乗るスキーキャプテンに迫られたことを指摘されるや、「こっちはムチを一度も使っていませんから」と言い放ったのである。あなたたちはヒヤヒヤしたかもしれないけど、俺とフジキセキは余裕だったんだよ。俺たちに触ると火傷するぜ、という激しさがヒシヒシと伝わってきた。フジキセキの強さに対する自負とジョッキーとしての矜持が、思わず言わせたひと言だったのだろう。レースを観てみると、確かにムチを使っていない。これはフジキセキがムチを使わずにG1レースを勝てる馬だったと同時に、角田晃一騎手もムチを使うことなくG1を勝たせることのできるジョッキーだったことを意味する。

もっともフジキセキの気性の激しさを考えると、ムチを使ってしまうと、どこに飛んで行ってしまうか分からないという危うさがあったからなのだろうが、そういう難しい馬を御すことにも長けていたということだ。彼の晩年にダービー3着に導いたアントニオバローズという癖馬もそうであった。角田晃一騎手が乗っていなければ、アントニオバローズはダービー3着はおろか、重賞すら勝てたかどうかあやしい。簡単に乗っているように見えるのは、彼のジョッキーとしての技術が卓越しているから。競馬を知っている者であれば、そのことを誰もが知っている。角田晃一騎手の調教師としての活躍を見守りたい。

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阪急杯を当てるために知っておくべき3つのこと

Hankyuhai

■1■逃げ・先行馬有利
12.3-10.9-11.4-11.7-11.7-11.8-12.7 (34.6-36.2)H
12.2-10.8-11.3-11.4-11.3-11.2-12.3 (34.3-34.8)M
12.4-11.1-11.2-11.4-11.2-11.4-12.0 (34.7-34.6)M
12.2-10.6-11.3-11.6-11.7-11.6-12.1 (34.1-35.4)H

高松宮記念を目指すスプリンターのためのステップレースである、ということがミソ。スプリンターが多く登場してくる以上、1400mという距離は少し長い馬が多いので、スプリント戦のように極端に速い流れになりにくい。平均ペースになりやすいのはそういう理由である。さらに開幕週で馬場が良いということが加わって、前に行った馬がそのまま残りやすいレースになる。

■2■内枠を引いた馬
阪神1400mコースは、内回りコースを使うため、コーナリングがきつい。全体で180度以上回ることになり、特に最終コーナーはきつい。スピードに乗ってきたぐらいでコーナーが待ち構えているので、外を走る馬は大きく外に振られてしまうため、基本的に内枠を引いた馬にとって有利なレースになる。もちろん、3~4コーナーにかけての直線部分長いため、差し馬は外からでも距離を詰められるのは確かだが、結局は最終コーナーでまた外に振られてしまうことになる。

■3■パワー型の馬を狙え
前述のとおり、先行して粘り込むといったアメリカ型のレースになることが多く、一瞬の切れ味を生かすような展開にはならない。そのため、どちらかというとサンデー系ではない、スピードの持続力で勝負する馬たちにとって有利なレースになる。具体的な血統でいうと、ミスタープロスペクター系やロベルト系のスピード馬が活躍するだろう。

また、開幕週とはいえ、芝が枯れて重くなってくる季節だけに、時計勝負ではなくパワーが問われる舞台となる。つまり、スピードの持続力があって、なおかつパワーに溢れる馬を狙いたい。

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時計が違った。

Febs10 Photo by Scrap
フェブラリーS2010-観戦記-
ローレルゲレイロが手綱をしごきながら先頭に立ち、エスポワールシチーとレッドスパーダが追いかける形でレースは進んだ。半マイルが47秒ジャスト、上がりの4ハロンが47秒9だから、このメンバーとしては少し遅いぐらいのペースで流れたことになる。しかし、エスポワールシチーをマークした馬や目標として動いた馬たちが、最後の直線で脚が上がってしまったように、タイムや着差だけでは表しきれない、エスポワールシチーの強さばかりが目立ったレースであった。

勝ったエスポワールシチーは、好スタートから、外から被されることもなく、スムーズに2番手を確保することが出来た。全身に筋肉がついて、前進するパワーとスピードが他馬とは違ったということだろう。今のエスポワールシチーには、この馬について行くと、自分の馬がバテてしまうと思わせるだけの迫力がある。直線に向いて、満を持して追い出されると、最後まで一生懸命に伸びていた。1頭だけ34秒台で走ったように、時計が違った。かつては全力で走ることを恐れ、人間不信に陥っていた馬が、日本一を決めるG1レースでこれだけの走りをするのだから競馬は分からない。もうこの馬が国内で成すことはない。あとはドバイまで順調に行って欲しい。

2着に突っ込んだテスタマッタは、岩田康誠騎手の好判断、好騎乗が光った。エスポワールシチーのペースについていくと自身がバテてしまうこと、ついて行ってバテる馬たち(特に有力馬)が出てくることをイメージして、他馬が外へ外へと膨れながら追走する中、前の馬を壁にしながら、とにかく経済コースを走らせ、内を突くことだけを意識していた。内枠を引いたことも功を奏した。テスタマッタもここ2戦で前に行けるようになっていたように、以前に比べてダート馬らしい体つきになっている。勝った馬とは力差がありすぎるが、強い4歳ダート世代をリードしていく1頭になる。

サクセスブロッケンは復活した内田博幸騎手を背に、勇敢にエスポワールシチーに立ち向かった。結果論でいうと、勝ちに行くために早めに動いたことで、最後はテスタマッタに脚元をすくわれた。それだけ勝ち馬が強かったということである。サクセスブロッケン自身も昨年の出来にあり、完全に体調も戻っていただけに、エスポワールシチーには完敗を認めざるを得ないだろう。

レッドスパーダは絶好のスタートを切ったが、エスポワールシチーを追いかけて撃沈した。途中からついて行くのに骨を折っていたように、相手のスピードやパワーが完全に上だった。ダートが向かなかったというよりは、初めてのダート戦でマークした相手があまりにも強かったということだろう。それでも、最後の直線では頭が上がっていたように、現状としては、もうひと踏ん張りが求められるダート戦よりは芝向きということになる。

同じく芝から挑戦してきたリーチザクラウンは、今回は見せ場すらなかった。この馬の跳びの大きさを生かすのは、やはり芝のレースということになり、しかも中距離に限られるだろう。芝のマイル戦では、終いの切れがないだけに苦しい。調教ではどの馬にも負けないだけの動きをするほど、身体能力の高い馬だけに、本番でどうやって能力を活かすかの試行錯誤はこれからも続く。

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中山記念を当てるために知っておくべき3つのこと

Nakayamakinen

■1■中山記念を得意とする馬
中山記念の過去7年の勝ち馬と2、3着馬を見ると、面白いことが分かる。
       勝ち馬          2着                 3着
2003年 ローエングリン     バランスオブゲーム    ダイワジアン
2004年 サクラプレジデント   サイドワインダー     ローエングリン
2005年 バランスオブゲーム  カンパニー         アルビレオ
2006年 バランスオブゲーム  ダイワメジャー       エアメサイア
2007年 ローエングリン     エアシェィディ       ダンスインザモア
2008年 カンパニー        エイシンドーバー     エアシェイディ
2009年 カンパニー       ドリームジャーニー    アドマイヤフジ

ローエングリンとバランスオブゲーム、カンパニーが共に2勝を挙げている。ローエングリンはその2勝が3年間のブランクを挟んでのものであるだけでなく、実はサクラプレジデントが勝ったレースでも3着していることに驚かされる。また、バランスオブゲームは2005年、6年と連勝しただけではなく、2003年にもローエングリンの2着している。さらに、一昨年と昨年の勝馬であるカンパニーは3年前にも2着している。

谷間の重賞であることは確かで、毎年出走してくる馬にも偏りはあるのだが、中山記念は中山記念を得意とする(狙ってくる)馬が強いG2レースだと考えてよいだろう。

■2■前に行った馬が有利
次に、中山記念の過去7年間のラップタイムを見てみたい。

12.8-11.7-11.9-11.6-11.5-11.8-11.8-11.9-12.6(48.0-48.1)S 
12.4-11.5-11.4-11.2-11.1-12.0-11.9-11.5-11.9(46.5-47.3)M 
12.6-12.2-11.9-11.3-11.2-11.8-11.9-11.7-11.9(48.0-47.3)M 
13.3-11.8-12.0-12.0-11.8-12.4-12.0-11.6-12.0(49.1-48.0)S 
12.9-11.7-12.0-11.6-11.3-11.7-11.7-11.4-12.9(48.2-47.7)M 
12.6-11.5-12.0-11.8-11.8-12.3-12.2-11.5-11.6(47.9-47.6)M
13.1-12.1-12.5-12.1-12.1-12.2-12.0-11.3-11.8(49.8-47.3)S

全体のラップタイムを見ると、平均~スローな流れになりやすく、当然、前に位置した馬が有利になる。なぜこうなるかというと、レースの展開というのは最初の2ハロンまでの流れで決まることが多いからである。

中山1800mコースは、スタンド前の上り坂からのスタートとなり、最初のコーナーまでの距離は205mと極めて短い。そこから1~2コーナー中間まで上り坂が続くため、最初の2ハロンがどうしても遅くなってしまうのである。よって、各騎手がスローを過度に意識しない限り、平均~スローペースに落ち着くことが多く、前に行った馬が有利になる。

■3■持続的なスピードを支えるスタミナ
上記のハロンごとのラップタイムを見ると、最初の1ハロンと最後の1ハロンを除き、11秒台が続いているように、全体的に淀みのないレースになりやすい。どこかで急激に緩んだり、どこかで急激に速くなったりということがないレースとなる。

つまり、爆発的な脚を使えるような馬ではなく、どちらかというと同じ脚を長く続けることの出来る持続的なスピードのある馬にとって有利なレースとなりやすいのである。言い換えれば、瞬間的なスピードよりもスピードを支えるスタミナが優先されるということで、1800m以上のレースで活躍してきたような馬を狙いたい。

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空白の時代

Jiromaru

横山典弘と藤沢和雄。関東を代表するジョッキーと調教師でありながら、意外なことに、この2人には蜜月の時代がありません。藤沢和雄厩舎には岡部幸雄騎手というほとんど専属のジョッキーがいましたし、岡部幸雄騎手が引退した後は、所属の若手騎手や腕の立つ外国人ジョッキーに騎乗依頼をすることが多く、横山典弘騎手に白羽の矢が立つことが少なかったのでしょう。それだけではなく、実はこの2人には、関係が断絶されていた空白の時代があるのです。

このことを語る前に、横山典弘騎手のお酒にまつわる逸話を紹介しておかなければならないでしょう。

デビューした18歳の頃の函館で、1日に3回も落馬した話です。朝5時まで飲んでいた横山典弘騎手は、最初に調教場まで乗ってきたバイクでひっくり返りました。その次は、角馬場でうるさい馬を叱ろうとしてムチを大きく振った瞬間、地面に落馬しました。最後は、まさに追い切りを行っている最中にアブミが外れてしまい、足を掛け直そうとしたが、そのまま真っ逆さまに地面へ叩きつけられてしまいました。「大丈夫か?」と救急隊員が駆け寄ると、横山典弘騎手は酒臭い息を吐きながら、そのままグーグーと眠ってしまったそうです。

このようなエピソードには事欠かず、横山典弘騎手はお酒に飲まれてしまうことで有名でした。腕は達者であっても、安心して手綱を任せることの危うい、どこか脆い面を持ち合わせていたのでした。厩舎関係者の信頼だけではなく、お酒によって横山典弘騎手は健康をも損ねてしまいました。痛風と診断されたように、お酒で足を痛めてしまったのです。そんな横山典弘騎手のことを、藤沢和雄調教師は見ていたのでしょう。ゼンノロブロイでダービーを2着に負けたレースを機に、横山典弘騎手に騎乗を依頼しなくなったのでした。

Yokoyamaそれまでは、調教にも跨ってもらっていた横山典弘騎手に対し、藤沢和雄調教師はこう言ったそうです。「明日から攻め馬に来なくていいよ」と。横山典弘騎手は何も言えませんでした。お互いにプロとして、勝負の世界では結果を出せなければ飯が食っていけません。調教師が乗れないジョッキーに騎乗を依頼するわけにはいきません。ドライではありますが、当たり前の話ですよね。こうして、およそ2年以上にわたって、横山典弘騎手が藤沢和雄厩舎の馬に跨ることはありませんでした。

横山典弘騎手はお酒をやめました。藤沢和雄調教師にもう一度認めてもらうためではなく、自分がダービーが勝ちたいから。自分自身には馬しかないと気づいた時、彼は酒ときっぱり縁を切ったのでした。「最高潮で乗れるのは、あと5年ほどかもしれない。もう10年は残されていないんです。ダービーに乗れるチャンスも、5回しかないじゃないですか。その残されたチャンスに、もし自分自身が絶好調なら、ひょっとしてハナ差で勝てるレースがあるかもしれない。それをもう落としたくないんです」と横山典弘騎手は語りました。そして昨年、残された5回のチャンスを、見事にモノにしたのでした。

藤沢和雄調教師はずっと見守っていました。タイキシャトル、スティンガー、シンボリインディのような、自身が育てた強いマイラーに、関東を代表するジョッキーを乗せて、いつの日か再び関西馬たちと互角の勝負をする日を夢見ながら。

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東京ダート1600m

Tokyo1600d1

ポケットからの発走でスタート直後に80mほど芝コースを走る。外枠の方が若干長く芝コースを走ることができるが、ほとんど枠順による差はないといってよい。ダートコースに入ってすぐの2コーナーは緩く、進路を左に変える程度のもので、実質的な第1コーナーは3コーナーとなる。そのため、スタートから第1コーナーまでの距離は670mと非常に長く、先行馬にとっては息を入れることのできない速いペースになってしまうことが多い。

それでも、フェブラリーSは1分34秒台という芝なみの速い時計で決着することが多く、前に行った馬も簡単には止まらない。全体的にペースが緩むところがあまりなく、スタートからゴールまでスピードを持続することが求められるため、スタミナがないと克服することが出来ないコースでもある。

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騎手・岡部幸雄の本質

岡部幸雄の本質を私の中で改めて浮き彫りにさせたのはスティンガーという4歳牝馬だった。それも彼が手綱を取っていないときのスティンガーの姿やレースを見てのことだ。

武豊が騎乗して鮮やかな直線一気の圧勝を演じた京王杯スプリングCと、田中勝春が騎乗して4着に敗れた安田記念。この2戦に出走したスティンガーの背景に岡部の姿が鮮明に浮かび上がっていたのである。

というのも、世界に出しても恥ずかしくない現在のスティンガーを見事に作り上げたのは、彼という存在なしにはありえないからだ。

一流のレースで勝ち負けのできる馬は生まれつきの素質、資質が必要なのは当然。スティンガーはマイラーの資質があった。だが、それだけでは単なるマイラーで終わっていただろう。

いまのスティンガーは、資質に「好位で揉み合って抜け出せる強さ」というプラスαを身につけている。関係者と岡部が「スティンガーを単なるマイラーにしたくない。2000mでも勝てる馬にしたい」と願って、レースや調教でじっくり教え込んだからにほかならない。

私から見れば、「何もそこまで苦しめなくていいだろう」と思うほど道中でためることを教え込み、脚力と精神力の強さを作り上げていったのである。地のままでは昨秋の天皇賞で見せたような粘りはできなかったはず。

(中略)

スティンガーは、人間が理想の形に見事に作り上げた最近の一例である。

これは厩舎スタッフの考え方も絶対に必要だが、サレブレッドを完璧に仕上げようとする岡部の思想も大きい。いまのスティンガーを作り上げたのは、彼の思い込みである。

「自分の乗った馬を、力で相手をねじ伏せる馬にしたい。そのためにはもう少しこうなればいい」という激しい思い込みが、彼を理想の馬作りへと導くのだ。「思い込み」を「愛」という言葉に言い換えてもいい。

彼は愛ゆえに、どんな馬も、完璧な馬にしようと乗り尽くしている。それが、むしろ痛々しく感じられることもあるのだけれど…。
(「口笛吹きながら」より)

Nohirayuuji

岡部幸雄元騎手は、最も私の競馬観に影響を与えたジョッキーかもしれない。彼の語った言葉を聞き、彼の騎乗するレースを眺めて私は育った。彼の唱えた「馬優先主義」という考え方は、ホースマンなら誰しもが共感するところだろうが、第一人者がメッセージとして発し、実践したことで、改めて私たちの心の深い部分に染み入ったのである。同じレースに騎乗したことのあるジョッキーであれば、少し大袈裟に言うと、それはもう遺伝子のレベルにまで影響を与えたのではないだろうかとさえ思えるのだ。

騎手が馬を作る。作るという表現がしっくり来なければ、育てると言い換えてもよい。そんな当然のことが、当然のこととして行われた時代があった。今となっては、調教師を筆頭する厩舎全体は、アウトソーシングをしながら馬房を効率良く回すことが第一優先で(これを「馬房優先主義」という)、時間を掛けて1頭の馬を作り上げてゆくことが極めて少なくなった。

ではレースで育てようと思っても、乗り替わりが激しいため、まずは目先の勝利にこだわらざるを得ない。負けてもいいから色々なことを教えようなんて考えていると、次は外国人ジョッキーに手綱を持って行かれたなんてことになってしまう。もしかすると、岡部幸雄元騎手は、ジョッキーが馬を作ることが出来た最後の世代だったのかもしれない。いつの間にか、ジョッキーは強い馬に跨って、先頭でゴールを駆け抜けてさえいれば良くなった。

そんな時代の中でも、懸命に馬を作らんとするジョッキーもいる。

たとえば、安藤勝己騎手はレースよりも調教が上手いと言われているジョッキーである。彼の騎乗した数々の名馬の中でも、ダイワスカーレットという名牝がいるが、この馬は安藤勝己騎手が作り上げた馬と言っても過言ではないだろう。レースだけではなく、調教でもその背に跨り、ジョッキーと呼吸を合わせながら競馬で最も速く走ることを教えていった。底知れぬ能力を秘めた牝馬であったが、安藤勝己騎手でなければ、果たしてその素質が開花していたかどうか。単なるマイラーで終わっていた可能性も十分すぎるほどある。

また、最近で言うと、佐藤哲三騎手とエスポワールシチーのコンビもそうだろう。高い能力はあっても、レースでは自分にブレーキをかけるようなところがあった同馬を、佐藤哲三騎手は普通の馬の何倍もの時間をかけてG1馬へと育てていった。速く走ることを強要してくる人間に対して不信感を持っていたエスポワールシチーの心を、佐藤哲三騎手は散歩に連れ出したり、付きっ切りで調教をつけたりして解きほぐしていった。レースでも様々な課題を課しながら、勝ったり負けたりを繰り返しつつ、どんなレースにでも対応できるよう教えていった。エスポワールシチーも佐藤哲三騎手の期待に応えるべく、いや、期待以上の成長を遂げたのだ。

馬を作るのは「思い込み」である。馬は既製品ではない。もっとこうなれば良いという「愛情」がなければ、馬は育たない。そんな当たり前の、馬とジョッキーの信頼関係が希薄になって久しい。日本を代表するトレーナーである藤沢和雄調教師が、“ジョッキー”と呼んだのは岡部幸雄元騎手だけだそうである。馬に対する「思い込み」や「愛情」がなければ“ジョッキー”ではない、という強烈なメッセージがそこには込められている気がするのだ。人間が馬を作り、その過程の中で人間が育てられてゆく。そこに競馬というスポーツの本質であり原点がある。

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フェブラリーSを当てるために知っておくべき3つのこと

Feb

■1■スピードが求められる
平成14年以降、アグネスデジタル(マイルCS、天皇賞秋、安田記念など)、ゴールドアリュール(ダービー5着)、アドマイヤドン(朝日杯フューチュリティS、菊花賞4着)、メイショウボーラー(皐月賞3着、NHKマイルC3着)など、芝コースで実績のある馬の活躍が目立っている。2着馬に目を移しても、平成16年のサイレントディールはシンザン記念を制していて、平成17年のシーキングザダイヤはニュージーランドTを勝っている。ここ数年で、芝のG1戦線でも十分に勝ち負けになる実力馬の参戦、もしくは転戦により、フェブラリーSの勢力図が変化してきていることは見逃せない。

なぜ芝コースで実績のある馬が、畑違いのダートG1レースでも同じような走りを見せることができるのだろうか。もちろん、芝コースで実績のある馬は能力自体が高いのだが、それ以外の理由として以下の2つが挙げられる。

1)東京ダート1600mのコースは、スタート直後に80mほど芝コースを走るから
2)1分35秒台で決着することが多く、スピードが求められるから

1)のスタート直後の芝コースは、確かに東京ダート1600mコース独特のものである。スタート直後80mの芝部分を利して、芝実績のある馬が先手を取って流れに乗ることが出来るということである。しかし、わずかスタート直後80mの芝部分がレースの勝敗を左右するとは思えない。とすると、2)のスピードが求められるという理由の方が大きいのではないだろうか。

東京競馬場のダートコースは砂が浅いため、冬場の時期でも、それほど力のいる馬場にはならない。平成10年は勝ち時計が1分37秒5と、非常に力の必要とされる馬場であったが、さまざまな原因が重なって起こった例外的なものと考えていいだろう。

標準的な馬場であれば、オープンクラスだとマイルで1分35秒台での決着となる。これくらいの馬場状態だと、ダート戦といってもスピードがないと勝負にならず、パワーだけで勝負する生粋のダート馬にとっては苦しいレースになるだろう。スピードの絶対値が高い馬、つまり芝コースでの実績馬が活躍するのは当然といえば当然の結果である。


■2■4、5歳馬が中心
4歳   【5-7-1-39】
5歳   【6-2-3-32】
6歳   【2-1-6-54】
7歳以上【0-3-3-46】

過去13年の年齢別の成績を見てみると、4、5歳馬から勝ち馬が11頭と、若い世代が高齢馬を圧倒している。ダートは馬が痛まないので高齢まで長く好走できるのだが、極限のスピード能力が要求されるフェブラリーSでは、スピード能力の落ちてきた高齢馬のゴマカシが利かず、ある意味において篩(ふるい)に掛けられてしまうのである。

■3■1600m以上のスタミナが求められる
スタートしてから第1コーナーまでの距離が長いため、息の入らない激しい流れになることが多い。そのため、スピードだけではなく、最後の直線でバテずに踏ん張ることのできるスタミナも必要とされる。1600mという数字以上のスタミナを要求されるのは、過去の勝ち馬を見ても明らかである。前述したスピードと、それを持続するスタミナ、そのどちらを欠いてもフェブラリーステークスを制することはできない。

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集中連載:「パドックの見方を極める」第7回

Paddock06_2

■きちんと歩くこと
馬を歩かせることを常歩(なみあし)というが、常歩は意識して歩くことなので、馬はこれが好きではない。しかし、人に引かれて歩くときは必ずそうするのだと教えておくと、馬は勝手な行動をしなくなり、人間の指示に素直に従うようになる。それによって、人も馬もより安全になるだけではなく、レースに行ってもジョッキーの合図にきちんと応えて走られる馬になる。

日本を代表するトレーナーである藤沢和雄調教師は、著書「競走馬私論」の中で、きちんと歩くことについて以下のように書いている。

競走馬にとって「きちんと歩く」ことは非常に大切である。脚を引きずってデレデレ歩くのではなく、きちんと脚を上げてリズミカルに歩く。馬にもそういう歩き方をさせるのである。

これは普通の歩き方ではないから、馬に「歩く」という意識、あるいは緊張感が必要である。人に引かれて歩くときは常にそういう歩き方をするのだとしつけておくと、馬は精神的に強くなる。我慢が効くようになると言ってもよい。しかも、こうして歩いているときは、馬がそれに意識を集中しているので、急に暴れたりすることがない。

(中略)

競馬場のパドックでは、厩務員が出走馬を引いて歩く。このとき人馬ともに「きちんと歩いているか」を見るとよい。素質の高い馬で人気になっていても、きちんと歩いていない場合には、レースで気の悪さを出して―――ということが起きたりする。きちんと歩けない馬はきちんと走れないのである。

パドックにおいて、私たちはついつい馬体を見てしまうが、何よりも先に見るべきは馬の歩き方なのである。普段からきちんと歩く訓練をしていないと、パドックでもきちんと歩くことはできない。パドックできちんと歩けない馬が、レースに行ってきちんと走れるとは思えない。いくら素質が高く、能力に溢れていたとしても、人間(騎手)の指示に従わずに暴走してしまってはレースで勝利するのは難しいのである。

理想的な歩き方としては、首を下げて、トモ(後肢)をしっかり踏み込み(踏み込みすぎるのは×)、歩くことに気持ちを集中しているということ。これが意外と難しく、急に首を上げてみたり、小足を使ってチャカついてみたり、あたりをキョロキョロと見回してみたりと、オープンクラスの馬でもきちんと歩けない馬もいる。もちろん、上のクラスの馬ほどきちんと歩けるし、古馬の方が若馬よりもきちんと歩ける。きちんと歩けるということは、精神面を含めたその馬の競走馬としての資質をストレートに表していると言えるだろう。

きちんと歩けている馬


きちんと歩けていない馬


ましてや、パドックで順番に歩けない馬など論外である。パドックでは出走番号順に登場し、周回を重ね、そして番号順に退場していく。1番の馬の次は2番の馬で、その次は3番の馬である。そのように歩くのがルールなのだ。しかし、たまに1番、2番、4番というように、3番の馬が番号順の周回から外れてしまっていることがある。どこに行ってしまったのかと見回すと、一番後ろにポツンと付いて回っていたりする。他馬が後ろや前にいることを気にするのだろうか、それとも人間の言うことに従わないのだろうか。いかなる理由があろうとも、この3番の馬はきちんと歩くことができない馬である。このようにきちんと歩けない馬は、まずレースでも勝てない。

すでに自分が買ってしまった馬が、パドックできちんと順番に歩けていないと非常にがっかりしてしまう。この時点で、既にハズレに確定の赤ランプが灯ったようなものだ。いまだかつて、このような馬が好走した記憶がないし、案の定、凡走してしまったというケースがほとんどである。つまり、きちんと歩けないということは、それだけで馬券の対象から消す十分な根拠となりうるのである。

これは余談だが、パドックの外側や内側を歩かせることで順番を調節することもある。気合乗りが良く、前進意欲に満ち、踏み込みがしっかりとしている馬であれば、自然とパドックで歩くスピードも速くなる。パドックでは順番に歩かなければならないため、歩くスピードの速い馬はなるべくパドックの外側を歩き、遅い馬はパドックの内側を歩くことで調整する。同じ馬であっても、調子が良い時はパドックの外側を歩いているが、疲れが出て調子が悪くなってくると内側を歩くことがある。パドックのどこを歩いているかで調子を判断することも出来るのだ。

(第8回へ続く→)

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きさらぎ賞を当てるために知っておくべき3つのこと

Kisaragi_2

■1■1800m以上のスタミナと持続力
ひとつだけラップ構成から垣間見えるレースの特徴がある。勝ち馬や全体のタイムはほとんど関係ないので、過去10年のラップと前後半4ハロンのタイムだけを時系列に並べてみたい(一番下が2008年のラップ)。

13.0-11.1-11.6-12.3-12.4-12.1-11.6-11.8-12.1(48.0-47.6) 平均ラップ
12.7-11.3-11.7-12.1-12.6-12.5-11.7-11.7-11.6(47.8-47.5) 平均ラップ
12.5-11.0-11.5-12.4-12.4-12.2-11.9-11.9-11.8(47.4-47.8) 平均ラップ
12.8-11.4-12.0-12.6-12.9-12.4-11.8-11.8-11.9(48.8-47.9) 平均ラップ
12.9-11.3-11.5-12.1-12.5-12.5-11.8-11.7-11.7(47.8-47.7) 平均ラップ
12.9-11.8-11.9-12.5-12.4-12.0-11.6-11.4-12.0(49.1-47.0) 後傾ラップ
12.8-11.0-11.5-12.2-12.5-12.5-11.9-11.3-11.7(47.5-47.4) 平均ラップ
12.8-11.3-12.3-12.9-12.4-12.1-11.3-11.4-12.3(49.3-47.1) 後傾ラップ
12.8-11.0-12.3-12.5-12.2-12.1-12.1-11.8-12.0(48.6-48.0) 平均ラップ
13.0-11.5-11.9-12.7-12.6-12.2-11.8-11.1-12.1(49.1-47.2) 後傾ラップ

前後半のラップの差が1秒以上ない場合を平均ラップとして考えると、過去10年中で僅か3レースのみが後傾ラップとなる。それ以外の年のレースは平均ラップで流れていて、スローペースになりやすい近年の傾向を考えると、中距離としてはかなり珍しい部類のレースに入る。

なぜこのような平均的な流れになるかというと、京都1800m(外回り)というコースの形態に理由がある。京都1800mは、向う正面を延長したポケットの最深部からスタートするため、スタートから最初のコーナーまでの距離がなんと912mという長さになる。この数字を見てピンときた人はさすがだが、つまりレース全体距離の半分が最初の直線に費やされるということだ。

これだけ直線が長いと、どうしても逃げ・先行馬が息を入れずに気分良く行ってしまうため、前半部分が速くなりやすい。しかし、その代わりに後半が遅くなるかというとそうでもなく、3コーナーを回ってからゴールまでは下り一辺倒になるので、後半も同じように速い上がりでの勝負となる。つまり、全体的に淀みのないラップが刻まれ続ける、厳しいレースになるということだ。

よって、このレースを勝ち切るためにまず問われるのは、1800m以上のスタミナである。過去の勝ち馬から菊花賞馬が2頭、ダービー馬が1頭出ていることは、あながち偶然でもないだろう。そして、もうひとつ問われるのは、速いラップを長く刻み続けることの出来る持続力である。マイル戦でスピードを生かす競馬を得意とする馬や、一瞬の差し脚で勝負する馬は狙いを下げた方が賢明である。

■2■前走は500万下組の素質馬を狙え
過去10年の優勝馬だけではなく、連対馬からもG1ウィナーを輩出しているように、クラシックへ向けての試金石となる一戦。勝ち馬の前走だけを見ると、過去10年でダートG1からが1頭(レインボーペガサス)、G3レースからが2頭(アサクサキングス、リーチザクラウン)、オープンからが1頭(アグネスゴールド)と、それ以外の6頭は全て500万下レースを勝った後の連勝となっている。つまり、ここに狙いを定めて出走してくる、2歳時に無理をしなかった素質馬を狙うべきということだ。

■3■キャリア3~5戦の馬
過去10年間の勝ち馬のうち、7頭までがキャリア3~5戦のゾーンであった。上述のように「2歳時に無理をしなかった素質馬」という観点からは、キャリアが6戦以上の馬は外れるだろう。かといって、さすがにキャリア1戦の馬では勝ち切るのは厳しい。つまり、キャリアが少なすぎても多すぎても、このレースを勝つための資質という点からは遠ざかっていくということである。

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星を見上げて

Seethestars

「心が震えたレースベストテン2009」の第2位は、シーザスターズが勝った凱旋門賞である。

シーザスターズの兄弟には、英ダービー、アイリッシュダービー、キングジョージを連勝したガリレオがいる。名伯楽エイダン・オブライエンをして、「彼は水の上でも走ることができる」と言わしめたサラブレッドの中のサラブレッドである。母アーバンシーは牝馬ながらに凱旋門賞を制した名牝であり、1993年のジャパンカップにも出走したこともあるように、日本の競馬ファンにとっても縁深い。シーザスターズは母仔で凱旋門賞を制覇したことになるが、これはデトロワ(母)とカーネギー(仔)に続く史上2頭目の快挙となった。母系はドイツ最強の血統Aラインであり、そこにはドイツ競馬のヒーローであるアルヒミストがいる。地味に積み上げられてきた華々しい血統というべきだろうか。

戦績も凄まじい。デビュー戦で4着に負けて以降は、凱旋門賞まで負けなしの連勝街道を突っ走り、史上初となる英2000ギニー、英ダービー、凱旋門賞の同一年制覇を成し遂げた。1989年のナシュワン以来となる英2冠達成であるとともに、過去の伝説の名馬たちをも凌駕したことになる。イギリス3冠馬のニジンスキーは凱旋門賞で、ミルリーフは英2000ギニーで、ダンシングブレーヴは英ダービーを取りこぼしているのだ。日本の競馬でいうと、皐月賞とダービーを勝ち、返す刀で宝塚記念を勝ち、天皇賞秋を勝ち、最後にジャパンカップを制したようなものである。シーザスターズという馬が、単に強いだけではなく、どれだけタフな馬であったかが分かる。

その血統的な背景や戦績から注目しないわけにはいかなかったが、レースでは期待以上の圧倒的な強さを見せてくれた。

ひとつ目の試練は、スタートしてから最初のコーナーに向かう直線。調教師も2000mがベストと語るだけに、あまりのスローペースに、シーザスターズは行きたがって首を上げてしまったのだ。あのシーンを観て、ディープインパクトが走った凱旋門賞を思い出した方もいただろう。しかし、マイケル・キネーン騎手は少しも慌てることなく、シーザスターズを馬群の中で我慢させて折り合いを付けた。逃げるように外に出してしまったディープインパクトとは対照的であった。人馬共に自信があり、信頼が厚かったということだろう。

最後の直線に向き、狭くなりかけた馬群をシーザスターズが一瞬にして突き抜けてきた時には、背筋がゾクッとするほどの衝撃を受けた。筆舌に尽くしがたいと言えば陳腐になるだろうか。「熱いナイフでバターを切り裂くようだった」と書いた記者もいた。生涯にわたって手綱を取り続けたマイケル・キネーン騎手は、レース後、「シーザスターズが凄いのは、わずか3歩でトップギアに入るところです。そんな加速の仕方は他の馬では味わったことがない」と語った。数々の名馬に跨ってきた名ジョッキーがそう言うのだから間違いはない。

私が同時代に観てきた凱旋門賞の中で、サラブレッドとしての強さを最も感じさせられたレースであった。強さに純粋に心が震えるという体験であった。シーザスターズはあと数年もすれば、歴史的名馬とされるニジンスキーやミルリーフ、ダンシングブレーヴと同じか、それ以上の評価を受けていることだろう。それは血脈が残っていくという意味でもある。ウオッカをはじめ、多くの名牝たちが繁殖牝馬として手を挙げている。世界各国のホースマンたちは、シーズザスターズにサラブレッドとしての究極形を見ているのだろう。それは私にも良く分かる。シーザスターズと同時代を生きることが出来た私は幸せである。


シーザスターズ(黄色い勝負服)の強さをもう一度

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シルクロードSを当てるために知っておくべき3つのこと

Silkroads

■1■差し追い込み馬を狙え
開催時期が2月下旬に変更になって以降、過去10年間のラップタイムは以下のとおり。

12.1-10.6-11.1-11.5-12,0-12.2 (33.8-35.7)H
12.1-10.9-10.9-10.9-11.8-12.1 (33.9-34.8)M
12.3-10.7-10.9-11.2-11.6-12.0 (33.9-34.8)M
12.6-10.9-10.8-11.2-11.1-12.0 (34.3-34.3)M
12.5-10.8-11.1-11.1-11.2-11.9 (34.4-34.2)M
12.3-10.7-10.9-11.2-11.3-11.7 (33.9-34.2)M
12.2-11.1-11.1-11.0-11.5-12.0 (34.4-34.5)M
12.0-10.7-10.8-10.7-11.2-12.4 (33.5-34.3)M
12.3-10.6-10.8-11.2-11.9-12.3 (33.7-35.4)H
11.9-10.8-10.9-11.0-11.7-12.2(33.6-34.9)H

スプリント戦にしてはハイペースになっておらず、どの年も前半と後半がほとんどイーブンなペースで流れていることが分かる。京都の1200mコースは、スタートから最初のコーナーまでの距離が316mと長くも短くもない。3コーナーの丘を越えると、あとはゴールまで下り坂が続く。一見、先行馬に有利な短距離戦に思えるが、実はそうでもない。前半が遅く見えるのは、スタートしてから第1コーナーまでが登り坂になっているから。ここで少しでもオーバーペースで行ってしまった先行馬は、最後の直線で脚が止まるのだ。つまり、中団よりやや後方で脚を溜める馬が有利になる。

■2■休み明けの馬は割引
厳寒期の始動戦という意味合いもあって、休み明けの一流馬たちは無理をして仕上げてはこない。その上、重いハンデを課せられるので、苦戦を強いられることになる。対して、2ヶ月以内にレースを使っている馬たちは、コンディションを維持しており、ハンデもそれほど重くはないはずで、一流馬相手にも好走が可能となる。ちなみに、開催時期が2月下旬に変更になって以来、過去9年の連対馬全ては、前走で昨年の12月以降のレースに使われていた。前走からの間隔が開きすぎている馬は割り引いて考えた方が賢明か。

■3■淀短距離S組は負けた馬に妙味あり
番組のローテーション上、淀短距離Sが最も有力なステップレースとなる。ところが、淀短距離S→シルクロードSという連勝は、昨年のファイングレイン以外にはない(それまでは2着が最高)。それは淀短距離Sが別定戦で、シルクロードSがハンデ戦であることと関係があるだろう。淀短距離Sで負けて、ハンデが軽くなったシルクロードSで勝つというパターンはこれからも続くだろうし、その逆もまた然りである。

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集中連載:「パドックの見方を極める」第6回

Paddock05

リズム良くスムーズに歩くと対照的な状態は、「入れ込み」である。一般的に、「入れ込む」とはレースに対して気持ちが入りすぎて、周りが見えないということだろうか。だからこそ、「気合乗りが良い」と「入れ込み」は区別が難しいと思われてしまう。どちらもレースに対して気持ちが向いている状態で、それが自分でコントロールできていれば「気合乗りが良い」、できていなければ「入れ込んでいる」とされる。「入れ込んでいる」にもかかわらず、「気合乗りが良い」と評価されたり、またその逆も然り。そのような例を挙げれば、枚挙に暇がないだろう。

実際のところ、「入れ込み」と「気合乗が良い」はベクトルが全く違う。「入れ込み」は馬が目前に迫ったレースから逃げようとしている状態なのに対し、「気合乗りが良い」はレースに向けて闘争心を滾(たぎ)らしている状態なのである。つまり、馬の精神状態が全く違うということだ。

サラブレッドはレースの苦しさを知っている。記憶力が非常に良く(特に嫌な記憶については)、ほんの些細なことでも永遠に覚えているという。ましてやレースに行って、極限まで全速力で走り続けさせられる競馬に対し、プラスの感情を持っている馬は限りなく少ない。調教が強くなってくれば、レースが近いことを察し、普段から入れ込みがきつくなる馬もいる。いつもと違う場所に連れて行かれ、大勢の人間の前で長時間歩かせられれば、入れ込まない方がおかしいのかもしれない。

それでも敢えて、なぜ馬が「入れ込む」かというと、レースに向けての準備が出来ていないからである。肉体的には、休み明けで体がきっちり出来上がっていなかったり、使い込まれていて余力が残っていない。また、精神的には、レースに飽きてしまっている、逆に実戦から遠ざかって久々である等など、どこか苦しいところがあるのである。誰よりも馬自身が、自分がこのままレースで走れば苦しいことになる、と知っているからである。「入れ込み」の原因はその馬の性格であることも多いが、基本的には体調が良くない時ほど「入れ込み」はキツいと考えてよい。今これから行われようとしている苦しいレースから、一刻も早く、とにかく逃げ出したいと思って「入れ込む」のである。

「入れ込んだ」状態は、あらゆる要素から見極めることが出来るが、歩くリズムとスムーズさはそのひとつである。リズム良くスムーズに歩けていない、つまり、歩いては止まり、また急に急いで歩き出したり、立ち上がったりして、手綱を放すとどこへ行ってしまうか分からない馬は、間違いなく「入れ込んで」いる。鼻歌を歌うとは縁遠く、我を忘れてしまうほど興奮してしまっているである。

入れ込んでいる馬(13頭立ての12着に惨敗)


踏み込みが深すぎる(強すぎる)ように見える馬も要注意である。一般的に、踏み込みが深い馬は調子が良いとされるが、ただ単に気持ちが空回りしている場合が多い。こちらの場合は、レースに対する気持ちが強すぎて、肩に力が入りすぎていると考えてもらえば分かりやすい。グッ、グッと前に進むので、一見、リズム良く歩けているように映るが、決してスムーズとは言いがたい。流れるように歩くのではなく、上下動が激しい歩き方である。このような歩き方をするのは短距離馬に多く、その力みが前向きさにつながり好走することも稀にあるが、ほとんどはレースに行くと力を出せずに凡走することが多い。パドックであまりにも力強く歩きすぎるのも考えものである。

踏み込みが深い馬(逃げて5馬身差の6着に惨敗)


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共同通信杯を当てるために知っておくべき3つのこと

Kyoudoutuusinhai

■1■先行馬有利
東京1800mコースは、ポケットから発走して157mで本線に合流する。第1コーナーまでの距離が極端に短いため、無謀なポジション争いはなく、各馬が出たままの平均ペースに流れることが多い。これが「府中の千八、展開いらず」と言われるゆえんである。とはいえ、このレベルで平均よりも遅めに流れると、前に行った馬は簡単には止まらない。力のある馬であれば差して来られるが、先行馬にとって有利なレースである。

■2■瞬発力ではなく持続力&パワー
上記のように、平均ペースで前に行った馬が粘り込むというレースになりやすい以上、ヨーイドンで瞬発力ではなく、スピードの持続力の勝負になる。ビュっと伸びるのではなく、ジワジワと良い脚をどれだけ長く続けることが出来るかが問われるレースと言ってもよいだろう。先週の東京新聞杯に比べ、サンデーサイレンス系の馬の活躍が目立たないのはそれゆえである。また、時期的に芝はやや重い状態なので、パワーに欠ける馬にとっては苦しいレースになる。スピードの持続力とパワーを兼備した馬を狙いたい。

■3■前走は1800m以上
過去10年の勝ち馬のステップレースを見ると、1600m戦からが3頭に対し、1800m以上のレースからは7頭と圧倒的に多い。ごまかしの利かない府中の1800m戦だけに、前走でマイル戦を走っていたようなマイラーではなく、長めの距離を使われてきたスタミナに支えられた馬が活躍するということだ。具体的に言うと、朝日杯フューチュリティS組ではなく、東スポ杯もしくはラジオNIKKEI杯2歳Sから臨んでくる馬を上に見たい。

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最後は心臓で勝負する。

Derby01

「心が震えたレースベストテン2009」の第3位は横山典弘騎手がロジユニヴァースで勝ったダービーである。横山典弘騎手は私が初めて好きになったジョッキーである。競馬を始めた頃、ナムラコクオーやヒシアマゾンなど好きな馬は何頭かいたが、好きなジョッキーはいなかった。好きになる理由がなかったのだろう。実際に走っている馬には感情移入できても、その背に跨っているジョッキーにまで意識が向かなかった。競馬は馬が主役なのだから、当然といえば当然のことだ。

きっかけは突然に訪れた。1995年の札幌記念、横山典弘騎手は1番人気のトロットサンダーに騎乗した。勝てるものだと思い、私はトロットサンダーの馬券を買っていたが、横山典弘は小回りコースを意識してか、早目に動き出したものの、直線では伸び切れずに7着と惨敗した。「ジョッキーは何やってるんだ、下手くそだなあ」とド素人の私は小声でつぶやいた。

レース後、横山典弘騎手のコメントが私に衝撃を与えた。正確には覚えていないが、「俺が下手に乗ったせいで負けてしまった…」という旨の発言をしたのだ。今となっては私のこの衝撃は伝わりにくいだろうが、当時、自分のミスで負けたなどとコメントするジョッキーなど皆無に等しかったのだ。そんなことをすれば、馬券を買ったファンからどれだけ野次られるか分からないし、騎乗依頼が減ってしまう恐れもある。そんな時代の中、正直に己の非を語った横山典弘騎手に、私は男としての潔さと職人としての強い矜持を感じ取り、このジョッキーを応援したいと素直に思ったのだ。

今年、横山典弘騎手がダービーを勝てた理由は2つあると思う。

ひとつは騎乗観の変化である。こちらにも少し書いたように、騎乗に対する考え方が変わってきたということだ。もう少し具体的に述べると、ポジションについての意識が変化してきた。今年に入ってからの(特に重賞などの)大レースにおける騎乗を観ると、それが良く分かる。馬のリズムを大切にしながらも、勝つためのポジションを積極的に取りに行っている。腕っぷしが強く、追えるジョッキーと評され、芝の追い込み馬が好きだと語っていた横山典弘騎手が、ロジユニヴァースで内を突いて勝った事実が全てを物語っている。

もうひとつは心である。「変な言い方かもしれないけど、勝っちゃダメだったんだ。怖さも知らずに。こんな重みは感じなかったかもしれないし、あのころなんてはっきり言って感謝の気持ちなんてなかったから。ここまで勝てなかったのが、自分なりに分かった気がする」、とダービージョッキー横山典弘騎手は語る。ここでいう心とは感謝の気持ちではない。そんな単純なものではなく、横山典弘騎手はメジロライアンで勝てると思って2着に敗れたダービーから、長い歳月をかけて心を鍛えたのだ。極限の状況で最高のパフォーマンスが出来る強い心を。19年前の横山典弘はロジユニヴァースを同じようにゴールまで導けただろうか。

馬は「肺で走り、心臓で頑張る」という。それは競馬の予想をする私たちも同じではないだろうか。将棋の羽生善治はその著書の中で、「私は心臓(ハート)で考えるという概念がとても好きです」と語る。ここでいう心臓で考えるとは、私流に解釈すると、直観を信じて賭けるということだ。そして、直観を信じるだけではなく、その直観を即行動に移してみるということに他ならない。これがやってみると実に難しいことに気づく。それは無欲、無心ということでもあり、ダービーでの横山典弘騎手の心境にもつながってくるだろう。

私たちが頭(脳)で考えることなんか、たかがしれている。

サラブレッドも、ジョッキーも、そして予想をする私たちも、
最後は心臓で勝負するのだ。


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