集中連載:「パドックの見方を極める」第6回

リズム良くスムーズに歩くと対照的な状態は、「入れ込み」である。一般的に、「入れ込む」とはレースに対して気持ちが入りすぎて、周りが見えないということだろうか。だからこそ、「気合乗りが良い」と「入れ込み」は区別が難しいと思われてしまう。どちらもレースに対して気持ちが向いている状態で、それが自分でコントロールできていれば「気合乗りが良い」、できていなければ「入れ込んでいる」とされる。「入れ込んでいる」にもかかわらず、「気合乗りが良い」と評価されたり、またその逆も然り。そのような例を挙げれば、枚挙に暇がないだろう。
実際のところ、「入れ込み」と「気合乗が良い」はベクトルが全く違う。「入れ込み」は馬が目前に迫ったレースから逃げようとしている状態なのに対し、「気合乗りが良い」はレースに向けて闘争心を滾(たぎ)らしている状態なのである。つまり、馬の精神状態が全く違うということだ。
サラブレッドはレースの苦しさを知っている。記憶力が非常に良く(特に嫌な記憶については)、ほんの些細なことでも永遠に覚えているという。ましてやレースに行って、極限まで全速力で走り続けさせられる競馬に対し、プラスの感情を持っている馬は限りなく少ない。調教が強くなってくれば、レースが近いことを察し、普段から入れ込みがきつくなる馬もいる。いつもと違う場所に連れて行かれ、大勢の人間の前で長時間歩かせられれば、入れ込まない方がおかしいのかもしれない。
それでも敢えて、なぜ馬が「入れ込む」かというと、レースに向けての準備が出来ていないからである。肉体的には、休み明けで体がきっちり出来上がっていなかったり、使い込まれていて余力が残っていない。また、精神的には、レースに飽きてしまっている、逆に実戦から遠ざかって久々である等など、どこか苦しいところがあるのである。誰よりも馬自身が、自分がこのままレースで走れば苦しいことになる、と知っているからである。「入れ込み」の原因はその馬の性格であることも多いが、基本的には体調が良くない時ほど「入れ込み」はキツいと考えてよい。今これから行われようとしている苦しいレースから、一刻も早く、とにかく逃げ出したいと思って「入れ込む」のである。
「入れ込んだ」状態は、あらゆる要素から見極めることが出来るが、歩くリズムとスムーズさはそのひとつである。リズム良くスムーズに歩けていない、つまり、歩いては止まり、また急に急いで歩き出したり、立ち上がったりして、手綱を放すとどこへ行ってしまうか分からない馬は、間違いなく「入れ込んで」いる。鼻歌を歌うとは縁遠く、我を忘れてしまうほど興奮してしまっているである。
入れ込んでいる馬(13頭立ての12着に惨敗)
踏み込みが深すぎる(強すぎる)ように見える馬も要注意である。一般的に、踏み込みが深い馬は調子が良いとされるが、ただ単に気持ちが空回りしている場合が多い。こちらの場合は、レースに対する気持ちが強すぎて、肩に力が入りすぎていると考えてもらえば分かりやすい。グッ、グッと前に進むので、一見、リズム良く歩けているように映るが、決してスムーズとは言いがたい。流れるように歩くのではなく、上下動が激しい歩き方である。このような歩き方をするのは短距離馬に多く、その力みが前向きさにつながり好走することも稀にあるが、ほとんどはレースに行くと力を出せずに凡走することが多い。パドックであまりにも力強く歩きすぎるのも考えものである。
踏み込みが深い馬(逃げて5馬身差の6着に惨敗)
Photo by Photo Stable

菊花賞2
有馬記念
阪神大賞典
天皇賞春1
天皇賞春2
宝塚記念1
宝塚記念2
宝塚記念3
凱旋門賞1
凱旋門賞2
ジャパンカップ
ファイナルフライト1
引退式
ハーツクライ
伝説のウオッカ
メイショウサムソン
スイープトウショウ引退記念
アドマイヤムーン
ダイワスカーレット桜花賞
ディープスカイ
ウオッカ安田記念
伝説の天皇賞秋
ダイワスカーレット有馬記念
Comments
いつも記事楽しみにしてます。
うーん、踏み込みが深すぎるっていうのが難しいなあ。
2つ目のパドック動画だと買いの材料にしちゃいそう。
もう一度、前回のと比べてみて見ます。
Posted by: kus | February 05, 2010 at 11:02 PM
ご無沙汰しておりました。
「パドックの見方を極める」初回から逃さず拝見させて頂いています。どういった方向に進むのかと思いつつ拝見させて頂いていましたが、実践的な項に移り、深い洞察もさる事ながら、毎度「馬学」に根ざした、芯の通った考察とその根拠に「深いなぁ」と思いつつ学ばせて頂いています。
言われてみれば、とてもシンプルな事なのですが、こういった視点があるのとないのとでは雲泥の差ですね・・・。
また違ったテーマでパドックを見られる事がとても楽しみです(といっても自分の見方は変わらず適当ですが・・・)
話は変わりますが、挿絵のミニチュア風写真(昨年の秋天でしょうか)、趣向としての面もあると思いますが、注視すれば、きっちり中心に馬がいて、躍動感を捉えている気がして、凄いなぁと見入ってしまいました(笑)
Posted by: childsview | February 05, 2010 at 11:03 PM
kusさん
はじめまして。
そうですね、
踏み込みが深すぎる馬は見極めが難しいです。
踏み込みが深ければ良いというものではない、
と知っておいていただけるだけで良いのかもしれません。
それにしても、前回の動画と見比べるなんて嬉しいなあ。
Posted by: 治郎丸敬之 | February 07, 2010 at 03:45 AM
childsviewさん
こんばんは。
コメントありがとうございます。
ようやく話を実践的な部分に移すことが出来ました(笑)
今回の連載は、今までに語り古されたパドックの見方と違ったものを伝えたくて書いています。
そういう見方もあるぐらいに捉えていただけると幸いです。
上の写真はPhotoStableというサイトのものを使わせていただいています。
凄く良い写真ばかりでお気に入りです。
ぜひご覧になってみてくださいな。
Posted by: 治郎丸敬之 | February 07, 2010 at 03:49 AM