スタミナは母の父から

スタミナは母の父から遺伝することに気付いたのは、私に起こったある2つの非連続的な出来事による。ひとつは、昨年の天皇賞春において、母父にサンデーサイレンスの血を持つ有力馬たちが、淀の最後の直線でバタバタと倒れていったこと。勝った馬は父チーフベアハート×母父サッカーボーイという血統構成のマイネルキッツであった。私は2年連続でアサクサキングスに本命を打っていただけに、あまりの無様な負け方に少なからずショックを受けた。そして、サラブレッドの血による支配を感じざるを得なかった。
人気に推された有力馬たちの血統を挙げると、以下のようになる。
アサクサキングス(1番人気)父ホワイトマズル 母父サンデーサイレンス
スクリーンヒーロー(2番人気) 父グラスワンダー 母父サンデーサイレンス
ジャガーメイル(6番人気) 父ジャングルポケット 母父サンデーサイレンス
ヒカルカザブエ(7番人気) 父ジャングルポケット 母父サンデーサイレンス
いずれの馬も馬体だけを見ると、胴部や手脚に伸びがあり、長距離レースを走られそうなスタミナを有しているように思える。前哨戦の走りを見てもそれは明らかで、だからこそ本番の天皇賞春でも人気になったともいえる。アサクサキングスとヒカルカザブエは阪神大賞典(3000m)の1、2着馬である。さらに、アサクサキングスの父ホワイトマズルは、天皇賞春を制したイングランディーレを出している。スクリーンヒーローの父グラスワンダー自身は2500mの有馬記念を、ジャガーメイルとヒカルカザブエの父ジャングルポケットは、2400mのダービーとジャパンカップを勝っている。前哨戦から距離がわずか200m伸びただけで、またレースの格が上がり、中身の濃い厳しい競馬になったとしても、この4頭があそこまで大崩れしてしまうとは到底考えられなかったのだ。
もうひとつは、ある飲み会の席でのちょっとした会話である。髪の毛の話になり、席上のひとりが自分の頭を指差してこう言った。「俺のオヤジは禿げてるんだけど、母親のおやじがフサフサでさ、おかげで助かったよ、ほらこの通り」。それを聞いたもうひとりが、「そっか、だから僕は髪の毛が薄いんだ…。オヤジはフサフサなのになぁ」と返した。そんなやり取りを見て、私はドキッとして、ひと言も発することが出来なかった。最近薄くなってきた自分の頭や母の父を想い、「なるほどね」と我が意を得たのである。信じたくはないが、サラブレッドのスタミナの有無が母の父から受け継がれるように、人間における髪の毛の薄さも母の父から遺伝するようだ。
日本競馬を席巻し、なお今も産駒の直仔を通して圧倒的な影響を及ぼし続けるサンデーサイレンスだが、唯一の弱点は母父に入った時のスタミナのなさという点だろう。サンデーサイレンスは基本的にはスピードと瞬発力を伝える種牡馬である。その裏返しとして、母父に入った時には、ジリジリと走らなければならない、スタミナを問われるレースを苦手とする。父としてはダンスインザダークやディープインパクトなど、菊花賞や天皇賞春を制した産駒をたくさん出したが、それは母父にスタミナを十分に有する種牡馬がかかっていたからである。ちなみに、ダンスインザダークの母父はニジンスキー、ディープインパクトの母父はアルザオである。
たとえ現代のスピード化された競馬であっても、3000mを超すレースではスタミナが問われる。スタミナが母の父から受け継がれる以上、長距離レースを予想するにおいてまず見るべきは母の父だろう。昨年ほどではないが、今年の天皇賞春にも母父にサンデーサイレンスの血を持つ馬が出走してくる。京都記念であのブエナビスタに迫ったジャガーメイルや親子4代制覇を目論むホクトスルタンがそうである(ホクトスルタンは残念ながら出走できず)。対して、ジャミールやメイショウベルーガ、フォゲッタブル、トーセンクラウンといった、母父にサドラーズウェルズやトニービン、ダンシングブレーヴなど欧州のステイヤーの血を含む馬も多い。極限のスタミナを問われるはずの天皇賞春こそが、髪の薄さとスタミナの有無は母の父から遺伝するという仮説を実証してくれるのではないだろうか。
Special photo by Usuda Ichiro













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