集中連載:「パドックの見方を極める」第12回

■足音に耳を澄ませる
パドックで歩く馬の蹄の音に耳を澄ませたことはあるだろうか。蹄の音というよりは、蹄に装着された蹄鉄とパドックの路面がぶつかる音である。カッ、カッという鋭い音があれば、カポッ、カポッという鈍い音もある。ほとんど音が聞こえない馬もいるだろう。私たちはパドックに行くと、どうしても馬を観てしまうが、たまにはそれぞれの足音を聴いてみると面白い。
このことに気づいたのは、私が地方競馬に通っていた時代である。平日の地方競馬場に行き、第3、4レースぐらいのパドックに足を運ぶと、ほとんど観客がおらず、ゆっくりと静かに馬を観ることができた。私も最初は馬を観ていたのだが、静まり返ったパドックに鳴り響く馬の蹄の音が、どうしても気になって仕方なかった。
特に、カポッ、カポッという、お椀を返したような音を聴くと、その馬がこれから向かうレースで勝てる気が起こらなかった。なぜかと言うと、上手く説明するのは難しいが、どう考えても勝負とは無縁な音にしか聞こえなかったからであろう。サラブレッドというよりは、農耕馬が歩いているように感じたのかもしれない。実際に、カポッ、カポッという音を立てて歩いていた馬は、レースに行って走ったことがなかった。ほとんどの馬は人気薄であったが、たまに人気がある馬でもあっさり負けたりした。ある時から、カポッ、カポッという音を立ててパドックを歩く馬は走らないというジンクスは、私の中で確信に変わった。
今ならば、ある程度、その理由を説明できる。カポッ、カポッという音がするのは、蹄の外周部分が同時に着地するからである。たとえば、お椀を逆さにして、机の面に平行にして降ろしてみると、カポッと同じような音がするはずである。蹄の外周部分と地面が平行に同時に着くほど、その音は空気を含んだものになる。逆に、蹄の外周部分のどこかが先に着地すれば、カッ、カッという蹄鉄とパドックの路面との衝撃音だけ、もしくはほとんど無音に近くなるのだ。
なぜ蹄の外周部分が同時に着地するのが良くないかというと、それは歩き方の問題である。実は、現役のサラブレッドの多くは、つま先から着地するように歩く。それは速く走らなければならないという意識がそうさせる。常に前へ前へと推進するように調教されているからこそ、前のめりに歩くのである。カポッ、カポッという音がする、蹄の外周部分が同時に着地しているような馬は、緊張感に欠けるか、もしくは勝つ気がないかのどちらかであろう。リラックスしすぎているとも言える。つまり、「きちんと歩けて」いないということである。
前述したように、競走馬にとって「きちんと歩く」ことは非常に大切である。脚を引きずってデレデレ歩くのではなく、きちんと脚を上げてリズミカルに歩く。これは普通の歩き方ではないから、馬に「歩く」という意識、あるいは緊張感が必要である。人に引かれて歩くときは常にそういう歩き方をするのだとしつけておくと、馬は精神的に強くなるのだ。馬にそういう歩き方をさせるのが調教のひとつでもある。素質の高い馬で人気になっていても、きちんと歩いていない場合には、レースで気の悪さを出してということが起きたりする。きちんとした足音で歩けない馬は、きちんと走れないのである。









レースに集中できている耳
不安を感じ周囲を気にしている耳
怒りや不快感を覚えたり、他馬を気にしている耳

by ede


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