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血は恐ろしい

Tennosyoharu11 by M-style
天皇賞春2011―観戦記―
逃げる意志を見せる馬がおらず、好スタートを切ったゲシュタルトやペルーサ、ビートブラックという面々が押し出されるように先行した。隊列が決まったかと思いきや、スタンド前でコスモヘレノスが一気にハナを奪い、さらに1番人気に推されたトゥザグローリーが抑え切れずに先頭に立つ。それだけでは終わらず、スタートで立ち遅れたナムラクレセントが向こう正面でまくりをかけ、なんと3度にわたって先頭のポジションが変わるという珍レースとなった。

馬場状態を考慮に入れても、前半1000mの64秒2は過去10年で最も遅く、中盤1200mの76秒5も超スローに流れた昨年とタイで最も遅い。この極限までに遅い流れの中で、折り合いを欠く馬が目立ち、それを抑え切れない騎手も多かった。それにさらに輪をかけたのがやや重馬場であり、3200mを走った各馬から容赦なくスタミナを奪い去っていった。まるでヨーロッパ競馬のようであり、どこまで「ジッと我慢できるかという精神力」と「スタミナ」、まさにステイヤーとしての資質が問われる苛酷なレースであった。

勝ったヒルノダムールは、一流のステイヤーとして世代の頂点に立った。他馬が折り合いを欠いて汲々とする中、ただ1頭だけ、何ごともなかったかのようにスムーズに走れていた。父は菊花賞と天皇賞春を制したマンハッタンカフェ、母の父は無敗のまま凱旋門賞を制したラムタラである。デットーリ騎手が「ライオンの心臓を持つ」と賞賛し、44億円という莫大な日本マネーをつぎ込んで輸入した神の子が、母の父という形で名ステイヤーを出そうとは。日高の関係者の心情を思うとなんとも言いがたいが、こういう馬をこそ、ぜひ凱旋門賞で走らせてほしい。

藤田伸二騎手も実に冷静に騎乗していた。ヒルノダムールの折り合いを欠かない長所と2番枠という枠順を最大限に生かし、理想的なポジションで道中は進み、追い出しから直線に立つタイミングまで完璧であった。ステイヤーのヒルノダムールが2000mの前走(産経大阪杯)で勝ったのだから、レース前から自信はあったに違いない。今年は乗り鞍も減り、忸怩たる思いもあるだろうし、ドバイワールドカップでは惜しくも2着に敗れて悔しい思いもしただろうが、そういう全てを胸に秘めて、大舞台で最高の仕事をやってのけた。このジョッキーもライオンのハートを持っている。

惜しくも2着に敗れてしまったエイシンフラッシュは、ダービーからおよそ1年の時をかけて、ようやく復調してきた。藤原英昭調教師の手腕によって、ほぼ完調に近いところまで馬体は立て直された。レースに行っても、これだけ遅いペースにもなんとか折り合いがついていたし、追い出されてからグッとハミを噛んで伸びていた。最後にもうひと踏ん張りできなかったのは、気持ちの面でまだ完全にダービーの疲れが癒えていないのだろう。馬の一生のうちで、精神が肉体の限界を超えて走られるレースは極めて少ない。それにしても、この馬のステイヤーとしての資質は高い。さすが最強世代のダービー馬である。

ナムラクレセントは立ち遅れてしまったことにより、自らの型に持ち込むことができなかった。それでも、結果的に3着に粘りこんでいることを考えると、すんなりハナに立てていれば、もっと際どい勝負になったのではと思わせる。スタミナが問われる馬場も苦にしなかったように、この馬も生粋のステイヤーである。

ステイヤーのマイネルキッツにとってはお膳立てが整ったようなレースであったが、松岡正海騎手がスタートから出して勝ちに行った分、馬がその気になって掛かってしまっていた。人間の勝ちたいという気持ちが馬に伝わり、今回に限っては裏目に出てしまった。

1番人気に推されたトゥザグローリーは、道中の超スローペースと入れ替わりの激しい展開とスタミナを要する馬場という3重苦に負けてしまった。前に馬を置くことができず、四位騎手もとにかく行きたがって仕方ないトゥザグローリーを抑えるのに苦労していた。向こう正面ではあきらめて先頭に立たせたが、また外から来られ、あの時点でトゥザグローリーのレースはすでに終わっていた。G1レースともなると、陣営も極限の仕上げをしてくるので、そういった時にこそ、まさに血が騒ぐのである。トゥザグローリーの場合は、母や母の父から引いた(長距離戦においては)前向きすぎる気性が表出してしまったということだ。母の父にサンデーサイレンスを持つローズキングダムにも、全く同じことが当てはまる。血は恐ろしい。

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Comments

確かにヒルノダムールは長距離の実績がなくても
血統だけ見ればバリバリのステイヤーでした。。

今回は人気も無さ過ぎましたね。

Posted by: 小倉の馬券師T | May 04, 2011 at 06:01 AM

こんちには。いつも勉強させてもらってます。
今回ヒルノダムールには全くの無印にしてました。馬券的にはナムラクレセントとエイシンフラッシュのワイドで少し勝つ事ができましたが…スタミナは母の父からというのを読ませてもらってローズキングダムとトゥザグローリーを本命から外したまではよかったんですが…結果を見ればラムタラとマンハッタンカフェのヒルノダムールが勝った後にヒルノダムールの馬券的な買い時が今回だったと後悔しました。。。
来年の天皇賞には繋げたいと思います。

競馬は奥が深くて面白いですね。

Posted by: シン | May 04, 2011 at 06:50 AM

小倉の馬券師Tさん

こんばんは。

いつもありがとうございます。

今の競馬の競走体系では、長距離レースが少ないので、一流のステイヤーを見つけづらくなっていますね。

ヒルノダムールは前走で産経大阪杯(2000m)の方をレコード勝ちしているからこその盲点だったと思います。

でも、この馬は胴が薄くて、バリバリのステイヤー体型ですし、なによりも折り合いがいいですからね。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 04, 2011 at 10:51 PM

シンさん

いつもありがとうございます。

ワイドが当たったのですね、おめでとうございます。

確かにヒルノダムールは単勝16倍と盲点になっていたのだと思います。

日経賞ではなく産経大阪杯を勝って(しかもレコード)いたからこそ、ステイヤーとして信頼されていなかったのでしょう。

まさに馬券的な買い時は今回でしたね~。

今回は色々な意味でステイヤーの資質を問われるレースでしたが、来年の天皇賞春はまたスローの瞬発力勝負になるかもしれません。

競馬は奥が深いですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 04, 2011 at 10:55 PM

母の父「リアルシャダイ」がいなくなって
難しく、そして寂しくなりましたね。

天皇賞を占う上であれば非常に便利でした。

Posted by: さくら | May 05, 2011 at 08:07 AM

いつも楽しく拝見しております。今回、治郎丸さんの天皇賞、母父サンデー不振を頭に入れながら、本命はナムラかマイネルか迷った挙げ句、マイネルに…
ただ、いつも人気馬を本命にする自分としては、治郎丸さんの知識が後押しになり、いつもと違ったドキドキ感を味わいながら、レースを楽しめました。

競馬歴は浅いですし、血統的な知識もありませんが、メジロ親子3代制覇の偉業にロマンを感じます。
また、メジロ牧場解散は本当に残念に思います。
勝負事にロマンを持ち込み、結果を残す事の素晴らしさを感じます。

私はプロ野球も好きなんですが、プロ野球人気の低迷の流れを見て、競馬界も決して他人事の様な状態ではないと感じています。

ROUNDERSが業界の活性、新しい流れにつながることを願ってやみません。

これからも応援しています!

Posted by: 1ファン | May 05, 2011 at 05:14 PM

さくらさん

こんにちは。

リアルシャダイは、父としても、母の父としても、まさに春天のためにあるような血でしたね。

さすがに父フレンチデピュティのアドマイヤジュピタが勝ったときには背筋がゾクッとしました。

あれも母父からスタミナを受け継いだのでしょう。

ライスシャワーが無事であったら…。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 05, 2011 at 05:40 PM

1ファンさん

惜しかったですね。

私の書いた知識が後押しになったのであれば嬉しいです。
マイネルも良かったと思うのですが、今年はいかんせん松岡騎手が力んで勝ちにいきましたね。

それだけチャンスがあると思っていたということだと思うのですが。

レースとしては面白かったのですが、もうちょっと綺麗なレースをしてほしかったというのが実感です。

どれだけ引っ掛かる馬でもきちっと折り合いをつけるのがジョッキーの仕事ですから。

おっしゃるようにメジロ牧場の撤退は残念なことです。

メジロは大牧場なので目立ちましたが、その他の中小牧場もジワジワと倒産していっています。

このまま競馬サークルが縮小していかないことを願いつつ、私にできる精一杯のことをするつもりです。

ROUNDERSもその一環になればと思いますので、応援よろしくお願いします。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 05, 2011 at 05:45 PM

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