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馬を止めるのも騎手の仕事

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中山金杯にて、断然の1番人気に推されたアドマイヤコスモスが、道中で故障を発生して、大差の16着でゴールインした。第1コーナーまでの入りは完璧だったが、そこから急激に走り方がぎこちなくなり始め、向こう正面では上村洋行騎手が肩ムチを入れるシーンも見られ、その後はズルズルと下がって行った。応援している橋田満厩舎の馬であり、また馬券を買っていたこともあって、初めは驚きと無念を隠せなかった。やはり厳寒期の競馬は恐ろしいと思った。それからしばらくすると、別の感情が湧き起こってきた。

もっと早く止められなかったのだろうか。外から観ていても分かるぐらいに不自然な動きをしていたのだから、もっと早い段階で判断することができなかったのかと。アドマイヤコスモスのこれまでのレース振りを観ても、鞍上の上村騎手と息がピッタリで、流れるように道中を走っていただけに、余計にそう思えた。上村騎手を責めているわけではなく、ジョッキーにとって止め際の判断が難しいことも分かっているつもりだ。それでも、今回は最悪の事態に至らなかったことが唯一の幸いだが、ジョッキーには勇気を持って馬を止めてほしいと思った。

そこで、あるやりとりをフト思い出した。そのやりとりとは、「週刊ギャロップ」誌上で数年前に行われた、横山典弘騎手と四位洋文騎手の対談中の、馬を止めることについてのこんな会話である。かなり長くなってしまうが、とても大切な部分だと思うのでお付き合いいただきたい。

横山
「この前も土曜にアドマイヤカイトを止め、日曜にメイショウオウテを止め、自分の中ではおかしいと思って止めてみる。でも、意外となんともなかったりする。馬運車で運ばれて、診療所で獣医に見せると、なんともないって言う。なんともないって本当かって。その時は止めないで行ったほうがよかったのかって思うけど、2日してやっぱり脚が腫れてきた。そういうのあるからね。オレも若くはないから、いい加減、年食ってくると経験がそういうこと(行かせること)をさせない。経験で出来ないことがいっぱいある。でも、結果を見せなきゃダメ、勝ち負けじゃない結果ね。(脚が)折れるか、ひっくり返るか。そこが一番イヤだ」

四位
「昔、カッちゃん(田中勝春騎手)が馬を止めて騎乗停止になったじゃないですか。あの時、すごい違和感があった。馬がなんともなかったから騎乗停止になったんですよね。でも、ジョッキーって馬の走りを分かっているわけだし、おかしいと思ったら止めてあげるのもジョッキーの仕事。あそこで止めておけば死ななくて済んだのにって思うのいっぱいあるから」

横山
「あるね」

四位
「たしかに止めてなんともなかったら、ファンや関係者は何でって思うかもしれない。でも、ボクは怒られてもいいと思った。ボクはこいつ(馬)の声を聞いたから。ノリちゃんもカイトやオウテの声を聞いたんでしょ。馬の声を聞いている、そういう騎手であり続けたい」

横山
「数勝つのも素晴らしいけど、そういう声を聞けるジョッキーでありたい。言葉を換えると、繊細すぎて情けないかもしれないけど、違うんだって」

四位
「競走馬は細い脚で全力で走るから、故障するのは仕方ないけど、自分らで食い止めることができるんであれば、やっぱりそこで馬の心の声を聞いてあげてね。最後はちゃんと牧場に帰してあげたいよね」

横山
「そうね。仕方のないところもあるかもしれないけど、オレの見える範囲、手の中にいる範囲でそうはさせたくない」

(中略)

四位
「馬を大事にしようってことは、ずっとこの世界にいると麻痺して、そういう感覚がなくなってくる。競馬ではダメでも、そのあと、乗馬や繁殖として大きな可能性があるかもしれないし。最後は牧場に帰してあげたいっていうのはありますよね」

横山
「岡部さんもそうだったけど、四位に教わったな。やっぱり愛情だよ。大事にしていれば、(馬が)助けてくれるんだって。人もそうだと思うよ」

馬をレースの途中で止めることは、ジョッキーにとって非常に勇気の要る行為である。もしどこにも異常が認められなかったとしたら、騎乗停止とまではいかないにしても、巨額のお金が動いている以上、批判は避けられないだろう。八百長を疑われることもあるかもしれない。しかし、そのようなリスクを背負ってでも、やはり止めるべき時には止めるのもジョッキーの仕事だと彼らは主張する。

勝ちたいという人間のエゴが馬を殺してしまうことを、横山典弘騎手はホクトベガに学び、馬に愛情を持って大事にしていれば、いつか馬が助けてくれることがあることも多くの馬たちから教えてもらったのだろう。もちろん、ジョッキーだけではなく、競走馬に携わる全ての人々が、馬の心の声を聞こうとする気持ちを忘れないことが大切である。

そして、当たり前のことではあるが、私たち競馬ファンも、自分が買った馬がレースの途中で止められても仕方ないだけの馬券を買うべきである。そもそも私たちは、運という最も理不尽で不平等で矛盾したものに身を委ねて馬券を買っている以上、いかなる理由であろうとも、自分の買った馬券が紙くずになることを前提に私たちは賭けなければならない。

だからこそ、ジョッキーには遠慮することなく馬を止めてもらいたい。

そうすれば、馬券が外れる以外の、悲しい出来事は少なくなるはずだから。

Photo by Photo Stable

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「うえちんのひとりごと」:アドマイヤコスモスが完走することになった理由

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Comments

全くだと思います。
ギャンブルだからとだけ言いきれないから
競馬は素晴らしいのだと思います。

「競走馬は人のために走る」
そこに愛がなければ、低俗な文化になってしまうでしょう。

人より馬の方が頼れるかも。
馬は愛情を注げば裏切らない。
人は平気で裏切るのに。。。

Posted by: Kenちゃん@浦河 | January 06, 2012 at 04:31 AM

治郎丸 いつもどうもです(^-^)

岡部騎手や横山騎手や四位騎手のように考える騎手が1人でも多くな ることを強く願わずにはいられませんよね。


人が人である前に1つしかない命なら姿形は違えどサラブレッドも同じ1つしかない命なんですよね。


だからこそサラブレッドに合わせた競馬をして欲しいですよね。


たとえ騎乗停止になろうとも馬主や調教師に何をゆわれファンにヤジられようとほんとに止めて欲しいと思いますね。


馬券はお金で済むことだけど命は消えてしまったらどんな偉い人でもどうにも出来ませんからね。

人が1番正しいことをやってるように思われてる世の中だけど1番過ちを犯す動物だとゆうことも忘れて欲しくないですよね。

Posted by: ユビキタス | January 06, 2012 at 11:59 AM

馬の声が聴こえる…

これこそ一流騎手だから言える
人馬一体の競馬の奥深さだと思います

命あるものが命あるものと心を通わせて勝負に挑む
時に優しく…時に厳しく…

だから競馬はやめられない

今年もよろしくお願いいたします

Posted by: DreamVodka | January 06, 2012 at 01:10 PM

治郎丸さん、明けましておめでとうございます。
レースだけでなく競馬にまつわる読み応えのある記事を
いつも楽しみに拝見しております。
今年もよろしくお願いいたします♪

Posted by: チコ | January 06, 2012 at 03:57 PM

 こんばんは アドマイヤコスモスは残念でした。ショックでした。上村騎手が鞍上での違和感をブログで書いてくれていました。
 (ブログ:うえちんのひとりごと)

 美浦で手術を受けられるのは、オーナーの愛情ですね。父も母もオーナーゆかりの血統ですから・・・。

 単勝1番人気の重圧は・・・たいへんなものです。1口愛馬エスポワールシチーがG1で人気を背負ったときは、本当にハラハラ・ドキドキしました。勝ったときの安堵感、負けたときの茫然自失・・・どちらも味わっています。馬券で儲かる儲からないとは違った意味でのスリルです。

 穴人気で勝つと馬券的にはうれしいのですが、1番人気で勝つことはもっともっとうれしいのです。1/500ですから馬代金1口24000円しか出資していないくせに、「ああG1で1番人気の責任が果たせてよかった」などと、大げさなことを言ってしまいますから(笑)。ジョッキーや調教師の皆さんだって、きっと1番人気で勝つほうがうれしいと思います。

 儲けるなら本業や株投資などでもいいのでしょう。でも多くの馬主さんが私財を投入して馬を買うのも・・・他では味わえないスリルや感動があるからなのでしょう。
 

Posted by: 玉ちゃん | January 06, 2012 at 09:56 PM

Kenちゃん@浦河さん

こんばんは。

この問題にも競馬はギャンブルだけではないという考え方が大切なのだと思います。

もしギャンブルだけなのであれば、騎手はどんなことがあろうとも、100%の確信が無い限り馬を最後まで追うべきでしょう。

でもそこにはサラブレッドは人間と同じ生きものであるという最低限のラインがあるのが競馬です。

馬の心の声を聞いてあげたいですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 06, 2012 at 11:48 PM

ユビキタスさん

大変なことだとは思うのですが、
騎手には馬を止めるという役割があります。

速く走らせるだけがジョッキーではありません。

だからこそ、馬を止めることに対する、私たちの理解が必要なのだと思うのです。

競馬関係者はもちろんのこと、競馬ファンもしっかりとこのことを知っておくべきだと思い、賛否両論あると思ったのですが、勇気を出して書きました。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 06, 2012 at 11:50 PM

DreamVodkaさん

馬と一体になったジョッキーは、
馬の痛みを自分のもののように感じるのですから、
上村騎手もとても辛かったと思います。

すごく後悔しているものとも思います。

だからこそ、私たちが馬を止めることに対して、理解を進めなければならないのだと思うのです。

命あるものと命あるものが織り成すドラマが競馬の本質だから。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 06, 2012 at 11:53 PM

チコさん

こんばんは。

レースや予想だけではなく、競馬にまつわる話も書いていきたいと思います。

そうすることで、競馬のレースも予想ももっと深みを増してくるはずですから。

これからもよろしくお願いします。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 06, 2012 at 11:55 PM

玉ちゃん

こんばんは。

うえちんのブログ読みました。

彼も辛いでしょうし、関係者も辛い、またどうしても書けないこともあると思うのですが、書ける範囲で書いてくれてありがたいですよね。

私も誤解を招くこともあるかも、賛否両論あると思いつつも、書きました。

決して上村騎手が悪いのではなく、もっと騎手が早く止められるようにするには、私たちの理解がなければならないということが言いたかったのです。

最終的には、競馬はお金だけではないですし、もはや私にとってはお金ではないです。

そういう競馬ファンの方が圧倒的に多いと願います。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 07, 2012 at 12:05 AM

初めまして。
amazonに注文していたROUNDERS vol.1が今日届きました。
最初に読んだ記事は久保和功氏との対談です。
他の記事も全体的に文がサラッとしていて読みやすいのですが、老眼がかかってきた目には文字が小さいです(笑)。
vol.2は某一口クラブのプレゼントで貰う予定(笑)ですので、それまでにvol.1を読破するつもりです。

最近ユニクロのヒートテックのコマーシャルで若駒の育成場が出ていましたね。
あれってノーザンファームの空港か早来ですか?
ああいうところがJRAの宣伝以外のコマーシャルで流れるなんていいなぁと思います。

Posted by: ぺんぺん | January 07, 2012 at 08:16 PM

ぺんぺんさん

ROUNDERSを読んでくださってありがとうございます。

文字の小ささはよく指摘されますので、
次号からは少し大きめを予定しております。

vol.2は某一口クラブのプレゼントで当たるといいですね(笑)。

ユニクロのCMで育成場が出ているのですか?
それは知りませんでした。
教えてくださってありがとうございます。
あまりテレビは見ないのですが、よく注意してみてみますね。
そういうCMが増えてゆくといいですねえ。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 08, 2012 at 12:06 PM

あけましておめでとうございます!

非常に難しい問題ですよね。

でも僕は良い解決策があると思うんです。

それは・・・

故障や落馬した馬は全額払い戻し!!

これならホースマンもファンも納得できると思いますし、障害レースでも思いきった馬券が買えるのではないでしょうか?
昔からこう思っています。。。

Posted by: スペシャルウィーク | January 09, 2012 at 12:39 AM

スペシャルウィークさん

なるほどですね。

どんな状況になるのか想像がつきませんが、
JRAとしては売り上げが減るので避けたいと思うのではないかと邪推します(笑)。

平地はいいのですが、障害は落馬がセーフとなるとなんだかつまらなくなる気もしますが。

難しい問題ですよね。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 10, 2012 at 01:02 AM

売り上げ減はもちろん痛いと思いますが目先の話だけ考えるよりもファンや購入者を増やすためにも近い未来を中央、公営の運営に携わる方達には考えてもらいたいです!数年売り上げが落ちても潰れる団体では無いですし、投資のつもりでやっていただきたいです。プレミアムレースよりは効果は期待出来ると思いませんか?力負けならファンも納得出来るでしょうが大きく買って楽しんでいる真のお得意様にとって落馬や故障はちょっと辛いのではないでしょうか・・・
また返還金を使ってもらえば良い話ですしね^^

障害レースも結構ショッキングな場面を見たあげく馬券もダメになるとダブルショックですよ!
醍醐味と言えば醍醐味なのかもしれませんが・・・

Posted by: スペシャルウィーク | January 10, 2012 at 02:18 AM

スペシャルウィークさん

こんばんは。

確かにプレミアムレースよりも効果はありそうです。

故障を未然に防ぐことに直結するかどうかは分かりませんが、競馬ファンの立場に立てば、平地のレースについてはやってみてもよいかもしれません。

ただ、障害レースで落馬が返還というのは、なにか違和感があります。

障害レースにおける失敗が帳消しにされてしまうというか、そのスポーツ性が失われてしまうというか。

そうなったら私は障害の馬券を買うことはしないかもしれません。

Posted by: 治郎丸敬之 | January 11, 2012 at 01:41 AM

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Posted by: busco mujeres | April 12, 2014 at 06:43 PM

すごくいい記事を読ませてもらった。
騎手の方が、この様な気持ちで馬を思っていてもらえるのは、本当に嬉しい。

素晴らしい内容で感動しました。

それと同時に、大好きだったホクトスルタンが故障して逝ってしまった時の
最後の鞍上だった騎手を、恨んでしまう。。。
明らかに、歩様がおかしいのに
最後迄ムチを入れてた。
本当に今でも、あの騎手を恨んでしまう。

Posted by: みち | June 02, 2016 at 02:43 AM

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