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ロバーツが見せる「勝負への厳しさ」

オリビエ・ペリエ、ミルコ・デムーロ、クリストフ・スミヨンと、外国人騎手を連続して取り上げてきた当コラム。ちょうどいい機会なので、今回は私なりのマイケル・ロバーツ観を披露してみたい。

ペリエ同様、短期免許による初来日以来、毎年必ず日本の競馬シーンに加わり、さまざまな影響を与えていってくれる元英国リーディングジョッキーは、私にとって不思議な騎手である。

一見すると、どこにでもいそうな騎手なのだが、実はまったくそうではない。向こう正面では、いつも馬を激しく追ったり、どぎつく抑える格好をするので、見る側に「もうダメか…」と思わせる。

ところが、ロバーツが手綱を取った馬は、直線でまた伸びてくる。強引すぎるきらいはあるが、なぜ彼の乗った馬が、最後まで動くのか不思議だ、と思わせる騎手なのだ。

見た目と、彼が現実に馬に与えている影響が違うのだ。

実際は、その格好ほど無理して追っていたり、抑えたりしているわけではなく、ハミによるギアの切り替えをちゃんとしているのだ。つまり、われわれは彼のアクションにだまされているのである。

手綱の長さ、こぶしの位置、あぶみの踏み方は、ヨーロッパのスタイルとはまた違う、ロバーツ独特のもの。その騎乗は「鮮やかな」という感じではなく、あか抜けしないものなのだが、馬を前に出すことに関しては卓越しているわけだ。

おそらく、下半身がしっかりしており、騎座の抱え方が上手なのだろう。私の目指してきたスタイルとは異なり、好きな形ではないが、彼を見ていると、問題は見た目ではなく中身だ、ということを思うときがある。彼のあか抜けなさは、中身のないものでなく、内容をきちっと持ったあか抜けなさなのだ。

ロバーツを見ていると、蛯名武五郎という騎手を思い出す。

深く腰を入れて馬を押し出す感じと、騎乗の構えがよく似ている。何よりも、蛯名さんもまた、勝負に厳しい人だった。

彼とロバーツは勝負師である。ふたりに共通するのは、強烈にアグレッシブな姿。蛯名さんがレースに向かうとき、「勝ちたい、勝つんだ」と全身で叫んでいるように感じた。同じように、ロバーツからも身体からにじみ出ている精神がある。その精神を一言で言い表すとしたら「闘魂」という言葉がふさわしい。

何とか勝たせよう、という気持ちが騎乗している姿からあふれ出ているのだ。

気迫あふれる闘魂。そして、見た目にはわからないが、実は基本に忠実な技術を持っていることに加え、ロバーツには、生まれ故郷の南アフリカから英国に移り、世界中の競馬をムチ一本携えて渡り歩いた経験がある。その経験によって、彼は各国のレースに対応できる順応性を身につけているのだ。

最近は、体に衰えがきているのか、以前ほどの冴えを見せなくなっているのは寂しいが、いまでも、ロバーツは日本の騎手とは異質な、しかし、強靭な精神とスタイルを持っている騎手である。

(「口笛ふきながら」より)

Nohirayuuji

マイケル・ロバーツという名を聞くと、競馬が熱かったあの頃を思い出す。今の日本の競馬が冷え切っているとか、私が競馬に対する情熱を失ってしまったということでは決してない。それでも、ロバーツ騎手が日本に来て騎乗していた時代は、あらゆることが熱かった。東京であろうと、中山であろうと、競馬場に駆けつけては、人ごみをかき分けて自分の賭けた馬を応援した。どうしても競馬場に行けないときには、新宿のウインズで長蛇の列に並んで馬券を買い、アルタ前で大型テレビに釘付けになって声援を送った。そんな熱き競馬ファンの目に、ロバーツ騎手の闘魂はしかと焼きつけられた。

私にとって、最も記憶に鮮明に残っているロバーツ騎手のレースは、アドマイヤコジーンに騎乗して勝った1998年の朝日杯3歳Sである。アドマイヤコジーンの単勝に賭けていたということもあって、直線で武豊騎手が乗るエイシンキャメロンを競り落としたときには、声が枯れるほどにロバーツ騎手の名を連呼したのを覚えている。上体を起こして馬を追うロバーツ騎手のスタンディングスタイルと、馬の背に張り付くように馬を推進する武豊騎手のスタイルは実に対照的であった。私にとってロバーツ騎手のスタイルは新鮮に映り、こんな馬の追い方もあるのだと初めて知らされた。

それまでに私が見てきたのは、できるだけ鐙を短く踏んで、馬の背にピタリと上体を付けて、小さなアクションで流れるように馬を動かすアメリカンスタイルであった。祐ちゃん先生らによって取り入れられたアメリカンスタイルは、その騎乗フォームの美しさと競馬のスピード化と共に、もはや日本の競馬にとっても主流なスタイルとして継承されることになった。日本を代表する武豊騎手などは典型的なアメリカンスタイルであり、祐ちゃん先生が彼の騎乗フォームを絶賛してやまなかったのはここにも理由がある。美しいこと、ファンに魅せること、そして勝つことは祐ちゃん先生や武豊騎手らの一流ジョッキーにとっての使命であった。ムチ一本持って、海の向こうからやってきたロバーツ騎手は、こうした流れに一石を投じたのである。

自分たちが貫いてきたスタイルとは異なるものを感じたとき、人々には様々な反応がある。それを拒絶する者、否定する者、受け入れる者、そこから学ぼうとする者。どれが正しいということではなく、全体としてはレベルアップしていけるチャンスなのだ。祐ちゃん先生は、ロバーツ騎手のスタイルを指して、あか抜けない、自分が目指してきたそれとは異なるとはしながらも、馬を前に出すことに関しては卓越していると断じている。問題は見た目ではなく、中身なのだと。さらにはロバーツ騎手の勝負への厳しさを、自分になかったものとして自省しつつ、あるべき姿として賞賛しているのだ。祐ちゃん先生のジョッキーとしての矜持がそうさせるのだろう。

最近では、あの時代とは比べものにならないぐらい、海外や地方競馬からあらゆるバックグラウンドを持った騎手たちがやって来る。彼らは独特のスタイルを日本(中央)の競馬に持ち込み、進化させる。たとえば、園田競馬場から中央入りした岩田康誠騎手は最も分かりやすい例だろう。彼の出自である地方のダート競馬では、動かない馬をどれだけ動かすか、またバテた馬をどこまで粘らせるかという技術がジョッキーに問われる。そのため、どうしても彼らは強引と見えるほどの大きなアクションで馬を叱咤激励する。必要に迫られて、馬を御する技術や馬を動かすコツ、馬を追う肉体を、日々の実戦を通して築き上げるのだ。もちろん、全く同じスタイルでは中央の競馬では通用しないため、芝のレースや緩急のあるレースにも対応できるよう、自分を適応させながら進化していかなければならない。そうしていく中で、彼ら独特のスタイルがさらに磨き上げられてゆくのだ。それは美しくないとか、世界の主流ではないとか、馬主へのアピールしか考えていないとか、批判の対象になることは多いが、そこにどれだけの意味があろうか。彼らの騎乗フォームが美しくないとは思わないし、勝つことに対する厳しさを彼らからは感じることができる。そして実際に彼らは勝つのだから、問題は見た目ではなく、やはり中身なのである。

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Comments

こんにちは。
外国人騎手への短期免許制度ができて、もうどれくらいの数の騎手がやってきたでしょうか。
雑誌や新聞のコラムなどに彼らの日常が書かれたりすることもしばしば。成功することの一つとして、いかに環境に順応するか が問われる気がします。ロバーツ騎手の溶け込み方はエージェントも驚くほどだったと記憶しています。転入してくる地方騎手にも言える事なのかもしれませんが、岩田騎手も成功例ですね。
個性的な騎乗フォームを見なくなった昨今、川田騎手の追い方にもつい目が行ってしまいます。

Posted by: ビンゴカンタ | March 01, 2012 11:06 AM

いつもありがとうございます。

たしかに環境に順応した外国人騎手は成功していますね。

それは言葉の問題であったり、生活習慣であったり、騎乗のスタイルであったりするのでしょうが。

ロバーツ騎手は日本の競馬をよく知っていましたよね。

ランドを連れてきて成功させたのも、ロバーツ騎手の助言があったからこそでした。

地方から来たジョッキーたちにも同じような勝負に対するハングリーさを感じて私は好きです。

Posted by: 治郎丸敬之 | March 02, 2012 12:46 PM

岩田Jがリーディング争いに入ってきてるのは
こういう適応性があったからなんだな〜と思います

結構あると思うんですよ
よく競馬場やウィンズで競馬好きのファンが言うのは
「人気薄でも岩田だ」
「内枠の岩田は買い」
競馬好きのファンをそこまで言わせるのは凄いと思うんですよ
中身や結果が大事とは思いつつ
騎乗がたまにチグハグになってるなんて言ったのが恥ずかしいです
実際結果を出してますから
ロバーツJは正直初めて名前を聞きました
それでも当時からこういう風潮はあったんですね

次郎丸さんのエントリーは自分がもっと競馬を好きになれるから
いつも楽しみにしてます
頑張ってください

Posted by: あさひ | March 04, 2012 02:41 AM

あさひさん

こんばんは。

今日の弥生賞はチグハグな競馬になってしまいましたね(笑)

それでも、トップジョッキーの1人であることに間違いはなく、実際にこれからも結果を出し続けていくことでしょう。

マイケル・ロバーツ騎手の映像はほとんど残っていないと思いますが(ネット上では)、ペリエ騎手と同じぐらい衝撃を持って私は記憶しています。

競馬が好きになれるとおっしゃっていただいて、
私も素直に嬉しいです。

これかもどうぞよろしくお願いいたします。

Posted by: 治郎丸敬之 | March 04, 2012 10:18 PM

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