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計算と直観、そして大胆


天皇賞春2012―観戦記―
ゴールデンハインドが逃げ宣言どおりにハナに立ち、それにナムラクレセントが続くと思いきや、最内枠からスタートしたビートブラックがスッと2番手に付けた。それ以外の馬(騎手)たちは、とにかく前半はレースの流れに乗ることだけを意識して、ゆっくりと1周目の坂を下っていった。ホームストレッチに入ってもその隊列は変わることなく、むしろ攻める側と守る側(失うものがない2頭とそれ以外と言うべきか)の距離は離れる一方。ナムラクレセントはその中間に位置する馬であった。最後のコーナーを回っても状況は変わることがなく、動けなかったオルフェーヴルを待っていた馬たちの仕掛けも遅れ、早めに先頭にたったビートブラックがまんまと押し切ってみせた。

勝ったビートブラックが秀逸だったのは、ちょうど中盤にあたる8~9ハロンに刻んだラップである。本来であれば、たとえG1レースの天皇賞春であっても、このあたりは13秒台に落ちることがほとんどである。この辺りでひと息入れて、ラストの4ハロンでスパートをかける。しかし、ビートブラックはここを12秒7、12秒7のペースで走った。レース全体を通しても、13秒台に落ちたことが1度もないのである。ここには石橋脩騎手の緻密な計算と直観が働いていたに違いない。前が止まらない開幕2週目の馬場を考えると、中盤でペースを落とさなくても、最後まで止まらないと。その大胆さに応えたビートブラックも見事であった。今回は究極に仕上げられ、持てる力を最大限に発揮してみせた一世一代の大駆けとなった。母にノースフライト、父にサンデーサイレンスをもつミスキャストの良血がこういう形で紡がれたのも、天皇賞春という舞台だからこそ。血統の多様性を失わないためにも、3000m級のG1レースは必要と強く感じた。

石橋脩騎手はこれからの日本競馬を背負ってゆくべき騎手のひとりになる。何よりも素晴らしいのは、馬が追えるということである。道中の思い切りの良さも目を引くが、とにかく追い出してから一変する。ビッシリ追うという表現がピッタリとくる、実に若者らしい追い方である。もの静かなタイプで、決して営業が強いわけではないが、見る人が見れば分かる。これからも関西の調教師からの騎乗依頼は増えてゆくことだろう。海外のジョッキーたちの中に入っても、決して見劣りしない日本の若手騎手が、こうして大きなタイトルを獲ったことの価値は高い。

トーセンジョーダンは中間から気配が一変しており、出来のよさを生かして2着に好走した。春秋の天皇賞制覇というわけにはいかなかったが、それでも秋の天皇賞を1分56秒台で制した馬が、3200mの天皇賞春でも連対したのだから、その能力の絶対値は疑う余地がない。岩田康誠騎手からは、オルフェーヴルを意識しながらも、常に攻める姿勢を貫いていたことが伝わってきた。結果的には、後ろの集団の中では最先着を果たしたのだから、及第点のレースと評価してよいだろう。勝ち馬とは、失うべきものがなかったかどうかの差である。

ウインバリアシオンは自分の競馬に徹していたが、自ら動けないタイプだけに、どうしても展開に左右されてしまう。今回もラスト3ハロンを33秒5で上がってきたが届かなかった。同じことはジャガーメイルにも言えるだろう。この馬の瞬発力は生かしたが、こういう展開になってしまうと手も足も出ない。

最後にオルフェーヴルについて。今回の結果を見ても分かるように、オルフェーヴル自身が走れる体調になかったということに尽きる。覆面や馬場は直接の敗因ではない。たとえ外々を回されたとしても、いつも第4コーナーで見せる脚の速さが全くなく、トモは外へ外へと流れてしまっていた。この中間のイレギュラーな調整過程も理由のひとつではあるが、これまでの伏線を考えると、オルフェーヴルは肉体的にも精神的にも参ってしまっていたということである。だからこそ、阪神大賞典はあれだけ折り合いを欠き、挙句の果てには逸走したのであり、今回の天皇賞春ではもはや行きたがる元気もなかった。騎手や調教師を責めるのはもうやめようよ、サラブレッドは機械ではないのだから。

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Comments

最後の一文。心打たれました。

サラブレッドは機械ではないのだから。
あちこちで拝見した観戦記・回顧の中でナンバーワンでした。

ありがとうございました。

Posted by: さっさん | May 02, 2012 at 07:56 PM

治郎丸さん、こんばんは。

いつも楽しみにし且つ、勉強させて頂いてます。

ありがとうございます。

孔熊と申します。


個人的にでは有りますが、あまりにも『名言』だな〜と思い、慣れないながらコメントしてしまいました。


〜分からない事を分かると言う事〜

『競馬は無限なり個を立てよ』

も素晴らしいのですが 、、、


〜騎手や調教師を責めるのは、もうやめようよ〜

『サラブレッドは、機械では無いのだから』



、、、競馬の原点と。
哀しいかな速過ぎた故に、人間に経済動物へとされてしまった、競争馬への愛情を感じて居ります。

今回のオルフェーヴルの件から、リベリタスを思い出しました。







少し話がそれますが。

ルーラーシップ!
素晴らしい走りで偉業を成したのに、余りにも騒がれずに可哀想です。


奇しくも噂では、宝塚でオルフェーヴルと競合の可能性が有るかもとか?

JRAさんには、売上を伸ばし、是が非でも競馬界を盛り上げてもらわんと困りますが 、、、


『稀代の名馬に成りうる、オルフェーヴル』
彼の心情を第1に考える事が、臨むべき長期利益に繋がる可能性を忘れず肝に命じて欲しい物です。



治郎丸殿の名の如く。

オルフェーヴル!

パドックから覇気が薄くなった気がしていた(後付けですがsweat01)

どうか現状を『治し丸く治め』

今年が無理なら来年。


『 凱旋門を頼む!』


(まだまだ、競馬初心者にて乱筆乱文を御容赦です)


Posted by: 孔熊 | May 02, 2012 at 08:06 PM

>石橋脩騎手はこれからの日本競馬を背負ってゆくべき騎手のひとりになる。

そのナイス騎乗の天皇賞ジョッキーが制裁を受けるなんて、何か釈然としません。悪法としかいいようがないような……。


>今回の結果を見ても分かるように、オルフェーヴル自身が走れる体調になかったということに尽きる。覆面や馬場は直接の敗因ではない。

私もそう思います。
私が尊敬する人達が揃って「ダービーを頂点にして一戦毎にパフォーマンスが下がっていた。三冠、四冠の達成は絶対能力の高さ故である」と。
私ももう一度オルフェーヴルの一連のレースを見直してみたいと思います。

それから、オルフェーヴル。ゆっくりオバーホールしてください。立ち直るのは案外難しいかも知れません。しかし、もう一度ファンの勝手な願いとして、強い走りを取り戻して欲しい、見せて欲しいと思います。

Posted by: 蒼光 | May 02, 2012 at 08:07 PM

治郎丸さんが、かつてコラムで書いていた様に、連勝馬が
負けた次戦は、非常に危険である旨を裏付けるような
競馬になってしまいましたね。

競馬をギャンブルの側面だけで捉えるなら、至極まっとう
に思えるオルフェーヴルの惨敗も、あれだけ圧倒的に支持
をした人間にとっては、不条理以外なにものでもない結果
に感じるでしょうね。

最強馬を切望しながら、オルフェーヴルに一銭も賭けず、
当然の帰結に無情さを感じながら、その実、ギャンブルと
しては大勝し、その愉悦に浸る自己内面に非常に矛盾を
感じずにはおられない一戦でもありました。


個人的には、次戦のオルフェーヴルにも一銭も賭けない
でしょう。
また、賭けに値するオッズにもならないでしょう。


それでも、オルフェーヴルには、次こそ快勝して欲しい
気持ちも、また事実です。


ギャンブルとして、賭けないという判断をしているという
ことは、現実として、今回の敗戦は競走馬としての能力の
喪失の可能性まであるという現実を、ギャンブルとしての
嗅覚が鋭く反応している所為です。


それほどまでにオルフェーヴルにとって、今回の一戦は
スキャンダラスな敗戦だったと判断しうる要素に富んだ
レースだと言うことです。


圧倒的な競争能力を持つ馬なのはだれもが知るところ
ですが、復活できるかどうかは、現段階で五分五分。


かつての名馬、オグリキャップやトウカイテイオーの様に
不死鳥の如く、蘇えることを切に祈ります。

Posted by: まさ | May 02, 2012 at 10:22 PM

こんにちは中田次郎と申します。オルフェの凡走はある程度読めましたよね。宝塚何かには出走せずにじっくり立て直してもらいたいものです。

Posted by: 儲かる競馬予想の探求者 中田次郎 | May 02, 2012 at 11:26 PM

治郎丸さんこんばんは。

春天前に「信じるしかない」とは言ったのですが、結局心のどこかでオルフェーヴルを信じ切ることができないままになりました。
個人的には、待避所前でおとなしそうな表情で静かにしているのが胸に刺さりました。乗り方一つで着順は多少変動したかもしれませんが、勝つまでには至っていなかったでしょう。「サラブレッドは機械ではない」、まさにそれを象徴する敗戦だったと思います。レースに臨むにあたって、体も気持ちもできていなかったのが伝わってきました。
肉体的にも精神的にも大きな問題であるだけに、急いたことだけはどうかしないで欲しいと願うばかりです。

オルフェーヴルに関しては胸が痛くなることばかりでしたが、ビートブラックと石橋騎手のGⅠ勝利は嬉しかったです。
ゴール後のガッツポーズは、石橋騎手の万感の思いがあふれていてとても眩しく見えました。

Posted by: クロサキ | May 03, 2012 at 12:33 AM

さっさん

そうおっしゃっていただけて光栄です。

最後の一文は私の素直な心情の吐露ということで。

また遊びにきてください。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 11:08 AM

孔熊さん

力強い文章をありがとうございます。

しかも、私の書いた言葉まで覚えてくださっていて、
嬉しいやら恐縮してしまいます。

先入観があったからかもしれませんが、
オルフェーヴルはパドックでも良く見えませんでした。

とても自信がなさそうに映りました。

ルーラーシップは素晴らしい走りでしたね。

この馬はスターになるべき馬です。

これからも競馬を愉しみましょう!

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 11:11 AM

石橋君だけが勝ちにいっていましたね。

あとは、相対的に「失敗」しないためだけに走っているように見えました。「セオリーから外れない」というか。その中では、岩田君の「腕っ節」が抜けてた訳ですが。

懐古主義じゃないですが、ふた昔前なら、あのビートブラックの外に、4角でオルフェーヴルとトーセンジョーダンがあわせにかかっていたんじゃないでしょうか。1993年、パーマーの逃げをマックイーン、そしてライスシャワーがなだれ込むように直線に向かったように。

そういう競馬が見たかったです。

Posted by: bowie | May 03, 2012 at 12:42 PM

蒼光さん

こんばんは。

オルフェーブルも生き物ですから、必ず体調のバイオリズムがあります。

ダービーであれだけ厳しい勝ち方をしたのですから、疲れがないわけがありませんよね。

それでも菊花賞では最高のパフォーマンスを披露してくれましたし、有馬記念は走りすぎた気がします。

まさに今がオーバーホールの時期ですから、無理をして使っていくことはないと思います。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 09:06 PM

まささん

こんばんは。

連勝が止まった馬の次走も危険ということを、良く覚えていますね。

私自身そのことは敢えてひと言も触れずに来たつもりなので、ちょっとびっくりしました。

おっしゃるように、ギャンブルとしては、今回のレースでオルフェーヴルを買わないという根拠を持ってないと、勝てるかどうかのスタート地点にも立てないですよね。

でも、私はそれでも勝ってほしいと思っていたので、そういう(個人的には)細かなノウハウは胸の内にしまっておきました。

実は馬券は今回買わなかったのもそういう理由です。

オルフェーヴルが負けて残念というのが正直な気持ちですから。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 09:11 PM

中田さん

そうですね。

理論上は好走は難しかったと思います。

それでも勝って、凱旋門賞に向かってほしかったというのが正直な気持ちです。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 09:12 PM

クロサキさん

物事を100%信じきることって難しいですよね。

私も馬券を買うときは、そんな自分といつも戦っています。

結果論かもしれませんが、オルフェーヴルはパドックの様子から違っていましたよね。

私だってそう思ったのですから、陣営は気づいていたのではないかと思うのです。

それでも走ってほしかった、これは皆の思いでしょう。

競馬は強い馬が強いレースをして盛り上がりますから。

もちろんビートブラックと石橋騎手も素晴らしいレースをしました。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 09:15 PM

bowieさん

こんばんは。

石橋騎手は勝ちに行く競馬を最初からしていましたよね。

バテたら頭を下げようと思ったと言っていましたが、そう開き直ってもなかなかできることではありません。

結果が出てから後ろからだと物理的に届かないと決める人が出てきますが、頭では分かっていても動けない(できない)のがレースの難しさではないでしょうか。

それがスポーツの難しさでもありますよね。

それでもマックイーンやライスシャワーのように、人気馬でさえも捨て身で勝負するようなレースが観てみたいですねえ。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 03, 2012 at 09:18 PM

 こんばんは

 圧倒的1番人気を背負って大本命馬が敗れたとき、競馬場内・場外馬券売り場全体がシーンとなります。そこにいるすべての人から言葉が出なくなります。

 2年前の南部杯(盛岡)、単勝1.1倍でオーロマイスターに敗れたエスポワールシチー。元返しにもかかわらず単勝馬券を買った愚か者は私です・・・「1口出資者として当然だ」と、単勝・馬単・三連単をすべて頭から買いました。結果2着・・・馬単の裏は40倍、そして三連単は2着で馬券に絡んだにもかかわらず140万円の配当でした。私も言葉を失いました。

 今回のオルフェーブル惨敗は残念でしたが、この経験をもつ者として冷静に受け止めることができました。

 昨年のかしわ記念・・・愛馬の口取り抽選に当たり、スーツで船橋競馬場。1時間前に「調子はよいと聞いています。でも競馬ですから何があるか分かりません。」と、クラブの方は誠実なコメント。スタートの瞬間に出遅れてフリオーソの3着。わずか2秒で口取りの夢は潰えました。

 その後も帝王賞でスマートファルコンに破れ、南部杯でトランセンドに破れJCDでも返り討ちに・・・。年が明けてG3平安ステークスに出ても勝てず。フェブラリーSではテスタマッタやシルクフォーチュンに遠く及ばぬ5着。

 もう終わった馬・・・新聞の印からはこれまでの◎が消え、今年のかしわ記念は△や☆の印が増えました。私自身も仕事があり、口取りの申し込みすらしていませんでした。

 しかし、馬はあきらめていませんでした。佐藤騎手もあきらめていませんでした。フリオーソ、テスタマッタ、シルクフォーチュンを破っての優勝。エスポワールシチーは、2年ぶりのG1優勝を果たしました。

 まだ4歳のオルフェーブルにとって、立て直す時間はまだ十分にあります。きっとオルフェーブル出資会員の皆さんも、オルフェーブルが復活しG1の頂点に戻ってくる日を待っていることでしょう。私も競馬ファンの1人として、その日が来ることを信じています。

 

Posted by: 玉ちゃん | May 03, 2012 at 11:46 PM

サラブレッドは機械ではない

だからこそ人間が経済動物として携わっている以上なんとかしてあげなくちゃいけない。守ってあげなくちゃいけない。

ちょっとはオルフェーブルに謝ったってバチは当たらないでしょう

Posted by: imuso | May 04, 2012 at 12:09 AM

玉ちゃん

おめでとうございます。

かしわ記念でのエスポワールシチーの勝利のニュースを聞いたとき、すぐに玉ちゃんの名前が浮びましたよ。

良かったですね。

おっしゃるとおり、オルフェーヴルにはまだ立て直す時間もチャンスも十分にあるのですよね。

負けて強くなることができるはずです。

勝ち続けるのは誰にとっても辛いものです。

頑張りましょう!

Posted by: 治郎丸敬之 | May 04, 2012 at 01:09 AM

imusoさん

こんばんは。

まさにおっしゃるとおりですね。

言葉がしゃべれないからこそ、私たち人間が気持ちに寄り添ってあげなければならない。

陣営の方々の苦労がしのばれます。

今は励ますときだと思います。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 04, 2012 at 01:10 AM

ご無沙汰しております
次郎丸さんが馬券購入しなかった理由も納得しました

個人的には石橋Jの好騎乗が凄い印象的でした
リアルインパクトの勝った去年の安田記念で
悔しそうにしていた時も印象的でしたが
まさか一年も経たない内にG1を勝つとは思いませんでした
それが三冠馬が出場する天皇賞春で

人気薄とは言え
こういう腹の据わった騎乗のできるジョッキーは貴重だと思います
まして関東所属であまり乗っていない関西圏での競馬場でのG1勝利ですから

Posted by: あさひ | May 04, 2012 at 01:36 AM

あさひさん

こちらこそご無沙汰しております。

そういえば、昨年の安田記念は悔しいレースでしたね。

道中のわずかな位置取りが勝敗を分けたレースでした。

しかも、自分ではどうしようもない(動けない)ポジションでしたから、余計にそう思えたはずです。

あれから1年も経たないうちに、
こうして頂点に立った素晴らしい騎乗でしたね。

これからもぜひ応援したい騎手のひとりです。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 05, 2012 at 01:59 AM

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