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武豊騎手の米国競馬本格参戦

武豊が安田記念後にも米国競馬に長期にわたって滞在し、本格参戦するという。

彼がその表明記者会見をした記事を読んだとき、思わず本人に電話を掛けてしまったほどうれしかった。もちろん、彼の決断にももろ手を挙げて大賛成し、大歓迎しているからだ。

私はかつてフランスに長期滞在したことがある。当時、欧州は私の競馬の原点だった。スピードシンボリとともに三度戦った欧州競馬を経て、ヨーロッパ競馬への渇望が胸のうちに広がっていった。

あれだけの戦いでは、まだ欧州の競馬を知り尽くしたとはいえない。まだ、欧州にはやり残したことがある。もっと深く本場の競馬で勉強したい。

日本騎手クラブ会長という公的な立場にありながら、その思いが日増しに強く、抗しがたいものとなった昭和47年4月、私は再びヨーロッパへ渡った。シャンティー競馬場の近隣に自宅を構え、過ごした日々は1年半ばかりであった。

私の後に続く騎手がようやく現れてくれた、なんて大それたことは思っていないが、米国長期滞在を決めた武豊の気持ちはわかるつもりだ。

しかも、いまや日本の競馬は賞金面では世界一であり、レベル的にも欧州に並ぼうとしている。国内にいればいくらでも稼げるし、確固たる不動の地位にいつまでも立っていられる。

にもかかわらず、それらを差し置いてまでも、彼にとっての原点に身を置きたい、と考えて行動に移す姿には、敬意という言葉を使いたくなる。

実行に移すなら、いまをおいてない、と思えるほどタイミングもいい。

いまの武豊は「冴えている」などというものではない。「技を超えている」と表現していいほど最高潮にある。

そうでなくては、どんなにうまく乗ってもあれほど勝てるものではない。いまの彼は、言葉では形容できないほどだ。まさに脂の乗り切っているときなのだ。

私が欧州滞在を始めたのは44歳のときである。残り少ない騎手人生の最後のチャンスと思い、異国の地に腰を落ち着かせたわけだが、肉体的、精神的にこの年齢ではキツいと感じ、「もっと早くに行くべきだったかな」と思ったこともあった。

31歳の充実期に新天地へ向かう武豊が、アメリカ競馬に本格参戦してどう感じるかは彼自身の問題である。

豪州からヨーロッパに渡り名を馳せたゲイリー・ムーアやW・ピアス(名牝ダリアの主戦)ですら、大レースを勝つまでに1~2年を要した。

英国の名手レスター・ピゴットは、アメリカで、新大陸の名手シューメイカーと対戦して敗れたことで新たなライディングスタイルを生み出し、欧州競馬を席巻して大きな変革をもたらした。

武豊が、日米の違いを身を持って感じたとき、彼にどのような変化が見られるのだろうか。「苦労してこい」とは言わない。私がやったときとは時代が違うのだから。
「勝ってこい」とも言わない。
しかし、「負けないでくれ」とは言いたい。
成功しなければ帰らない、という気持ちでやってほしい。いや、成功したら帰ってこなくてもいい。向こうでなら、殿堂入りの名誉があるのだから。
(「口笛吹きながら」より)

Nohirayuuji

池添謙一騎手がフランス遠征を打ち切ったニュースを聞いて、心底残念に思ったのは私だけではないだろう。野平祐二先生が武豊騎手の米国参戦の表明を受け、思わず電話してしまったほど嬉しかったのとは正反対の気持ちである。昨年の凱旋門賞におけるC・スミヨン騎手への乗り替わりの悔しさをバネにして、自分に足りないものを得るべく海を渡った池添騎手の行動力は素晴らしいと考えていたが、どうやら大きな勘違いをしていたらしい。

凱旋門賞でオルフェーヴルに跨るために必要だったものは、欧州の競馬場でレースに出走した経験そのものではなく、欧州競馬のレースに騎乗する経験を積むことによって得られるはずの騎乗技術や判断力、そして自信である。オルフェーヴルの手綱を任されるかどうかは別にして、てっきり騎手としてひと回りもふた回りも成長するために、長期の遠征を予定しているのかと考えていたが、そうではなかった。池添騎手の欧州遠征の目的はただひとつ、凱旋門賞でオルフェーヴルに乗ること(良く言えばオルフェーヴルを勝たせること)であったのだ。

それが叶わないとなるや遠征を打ち切ったのだから、結果的には、オルフェーヴルの手綱を今年もスミヨン騎手に委ねた社台グループの判断が正しかったことが証明されたことになる。池添騎手の遠征はオルフェーヴルに乗せてくれという振りでしかなく、騎手として自らを本質的な意味で成長させようと新天地に赴いたのではなかったということ。そんな付け焼刃の経験で、向こうのトップジョッキーであるスミヨン騎手と同等になれるはずがなく、それで勝てるほど凱旋門賞は甘くない。

なぜこんなことを書くかというと、日本の競馬や騎手が生き残っていくためには、日本人騎手が海外へ長期遠征しなくてはならないと思うからだ。ディープインパクトやオルフェーヴルの凱旋門賞出走やその他の馬たちの海外挑戦を振り返ると、そのことで日本の競馬が盛り上がることに気づく。競馬ファンだけではなく、ときには一般の人々も巻き込むことができる。それが日本の競馬がグローバルなスポーツであることのアピールにもなる。野球やサッカー、テニスなど、他のスポーツを見てもそれが分かるだろう。

しかし、1頭の馬の単発的な海外遠征では所詮、一過性の打ち上げ花火でしかなく、継続性がない。サラブレッドの海外遠征のコストやリスクを考えれば考えるほど、仕方のないことではある。だとすれば、人が長期的に、継続して挑戦をするしかない。たとえば浜中俊騎手のように身体能力が高く、日本の競馬で実績のある若手騎手が、無期限で海外の競馬に挑戦するのだ。そうすることでマスコミに対する継続的なアピールにもつながり、もちろん結果も出やすくなるだろう。そして何よりも、いつしか本物の経験を日本に持ち帰ってくることができる。

この提案が現実離れしているのは百も承知である。中央競馬の賞金が他国の競馬に比べて圧倒的に高いという歪な構造になっているからである。日本の競馬を差し置いて無期限で海外に挑戦するのは、豊かな生活を捨てて、騎手道を追求することの体現である。残りの騎手人生を賭けた野平祐二騎手や、全てをなげうって高みを目指した武豊騎手や蛯名正義騎手のような崇高なジョッキーが現れるのはごく稀である。もしそういう勇敢な日本人ジョッキーが再び現れたとしたら、そのとき私は「苦労してこい」とも言わず、「勝ってこい」とも言わない。しかし、「帰ってくるな」とは言いたい。

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Comments

ヴィクトリアマイルの日、東京競馬場に居ました。
目の前にとても面白いヤジを飛ばすグループの人達。
騎手にとって厳しく、しかし競馬に対して深い愛情のあるヤジだと思って聞いていました。

彼らの池添騎手に対するヤジはなかなか強烈なものでした。
私も彼がフランス遠征を切り上げたと聞いたとき「なんだかな」と感じていたことを代弁してくれるような、そんなヤジでした。

このエントリーを読んで、その「なんだかな」という思いがなんだったのかがはっきりとわかりました。

池添騎手のような姿勢でしか競馬に臨めないのであれば、日本の競馬で日本人騎手が外国人騎手に取って代わられるのは遠くない未来だと思います。

Posted by: ふぉんてん | May 17, 2013 at 05:05 PM

批判するのは自由だが、池添さんも騎手でもない人間に言われたくはないと思う

Posted by: 稲川 | May 18, 2013 at 12:11 AM

治郎丸さん、ご無沙汰しています。

ぼくもこのニュースを聞いたとき「そんなものか…」と残念な気持ちになりました。
確かに日本の競馬サークルにいれば、厚遇を維持できるでしょう。でも、去年の降板からの悔しさは一体何だったのか?
ジョッキーとしての向上心や探究心は、「今年の凱旋門賞」一点に集約されたものなのでしょうか。

池添Jにとって、今年の凱旋門賞はそのくらい重要なものであるという気持ちは理解できます。
ただ、それが叶わなかったからこそ、その後、その悔しさを受けて彼がどう行動するか真価が問われるところだったと思います。

勿論、海外遠征だけが答えではないでしょうが、今回のような態度からは、本当に「武者修行」ではなく、ただの「アピール」以外の何ものでもなかったのかな、とファンや関係者に受け取られても仕方のない話だと感じました。

個人的にオルフェーヴルと池添Jのコンビについては、ぼくは去年の阪神大賞典での逸走で、池添Jがオルフェーヴルに原因を求めた時点で、このコンビに「信頼の絆」はないな、と思っているのですが…。

ただ、宝塚記念に池添Jを配するなどサンデーレーシングや池江厩舎の考えも正直、理解に苦しみます。
斜行癖があるのなら、それを矯正できるようにあらゆる手段を講じて矯正できるよう実戦で試行錯誤すべきだと思うのですが、国内では無難に…ということなのでしょうか?
そういう部分でも個人的に、この陣営からオルフェーヴル以外からは情熱を感じ取りにくいです…。

Posted by: onion | May 18, 2013 at 07:51 AM

ふぉんてんさん

ご無沙汰しております。

アスリートは勝負の世界で生きているので、厳しい中で戦っていることは百も承知ですが、だからこそ誰かが枠を飛び出さなければならないと思います。

これだけ高額賞金が動く国の競馬に、騎手だけが守られることはなくなると思うのです。

もちろん、そのあとは調教師にもその波は訪れるかもしれません。

池添騎手のような才能あるジョッキーがようやく飛び出したと思ったらこれでは、先が続きませんよね。

まさになんだかなあという感じです。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 18, 2013 at 09:50 PM

onionさん

こんばんわ。

ここまではっきり割り切っているのは、ある意味清々しいのかもしれませんが(笑)、そんなに簡単に海外遠征って行って帰ってこられるものなのでしょうかね。

向こうでサポートしようとしてくれた人もいるのではないかなど、色々考えてしまいます。

宝塚記念は池添騎手が乗って勝つと思いますし、今年の凱旋門賞は出走できればかなり期待できると思います。

ただ、凱旋門賞単発では競馬がグローバルスポーツであることを知らしめることができないのではないかと思うのです。

JRAは海外に挑戦する騎手にある程度のサポートをしても、それに見合うだけの何かが競馬に返ってくると思うのですが、いかがですかねえ。

って、onionさんに愚痴っても仕方ないですね。

お久しぶりにコメントいただき嬉しかったです!

Posted by: 治郎丸敬之 | May 18, 2013 at 10:01 PM

愛のある文章だと思いました。藤岡祐介にはでっかくなって帰ってきてほしいですね。スーパーホーネットや、最近ではメイケイペガスターの悔しさをバネにして頑張ってもらいたいです!

Posted by: chick | May 19, 2013 at 05:40 PM

chickさん

ありがとうございます。

池添騎手は才能があるまだ若手なので、本当の意味で挑戦してほしかったのです。

藤岡祐介騎手もおっきくなって帰ってきてほしい、いや帰ってこないぐらいに頑張ってほしいですね。

Posted by: 治郎丸敬之 | May 28, 2013 at 11:36 AM

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