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日本人騎手に必要な騎乗技術とは(後編)

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日本人騎手に必要な騎乗技術のもう1点は、溜める技術である。ここでの溜めるとは、脚を溜める、つまり道中で競走馬のスタミナやパワーを温存するということ。競走馬は常にトップスピードで走ることはできないため、騎手は脚を溜める必要がある。いや、レース全体として考えても、馬を追う時間よりも脚を溜めるそれの方が長く、結果(着順)に与える影響は明らかに後者の方が大きい。傍目からは同じように走っているように見えても、脚が溜まっている馬は最後の直線に向いてから弾けるが、脚が溜まっていなければいくら追えども失速してしまう。

ここで敢えて溜めるという表現にこだわったのは、脚を溜めるのと馬を抑えるのでは全く違うからだ。脚を溜めるのがスタミナやパワーを温存することである一方、馬を抑えるのはスピードを制限する、つまりブレーキをかける行為に他ならない。脚を溜めているように見えて、実は馬のやる気を削ぎ、馬とケンカしながら、ただ単に力づくで馬を抑えているにすぎないケースもある。海外のトップジョッキーと日本人騎手の道中の違いは、同じ行為をしているように見えても、脚を溜めると馬を抑えるとの差ぐらいある。日本人騎手に求められるのは、脚を溜める技術なのである。

脚を溜める技術の差は、直線に向いてヨーイドンの超スローペースのレースでこそ如実に出る。スローペースでは道中で行きたがる馬を馬群の中でなだめ、手綱やハミ、そして騎座を通して馬をコントロールしながら、肉体的、精神的なスタミナとパワーを温存しなければならない。日本競馬に特有の上がり3ハロンが32~33秒台のレースにおいて、意外にも外国人ジョッキーが力を発揮するのは脚を溜める技術が高いからである。

たとえば、2013年のジャパンカップは、前半の1000mが62秒4、後半が58秒1という究極のスローペースとなり、R・ムーア騎手、W.ビュイック騎手、C.ウィリアムズ騎手、J.スペンサー騎手といった外国人ジョッキーが、混戦の中で上位を占めた。馬の力や体調如何はあるにせよ、R・ムーア騎手は勝ちきれなかったジェンティルドンナを勝利に導き、W.ビュイック騎手は11番人気、J.スペンサー騎手は13番人気の馬を掲示板に持ってきたのだから、単なる偶然ではないだろう。最後の直線で、わずかハナの差、首の差だけでも馬を前に出せるのは、この脚を溜める技術の賜物である。


それでは日本人騎手はどうすれば良いのだろうか。正直に言うと、私は元ジョッキーではないし、騎手のインストラクターでもないので、これといった具体的な方法は知らない。それでも、ひとつだけ言えるとすれば、やはりヨーロッパに行ってレースに乗ってみなければならないということだ。最後に、故野平祐二さんの言葉を借りて締めくくりたい。

―馬をキープさせる技術の差は、どういうところから生じてくるのでしょうか? 野平祐二(以下、敬称略) 毎日の調教の積み重ねからくるものでしょう。日本の場合、単走か、もしくは併走ですが、ヨーロッパでは横に並んでの調教はまずないんです。常にタテ、一列縦隊の形をとるんです。たとえば5頭の馬が馬場に出たとします。先頭の馬、2番手の馬、3番手の馬という風に順番が決まっていて、うしろにつけた馬は泥を被っても、その位置をキープしなければいけないんです。もし隊列を崩して、2番手の馬が先頭の馬に並びかけようものなら、あとで調教師からこっぴどく怒られますからね。乗り手はどんなことをしてでも抑えつけなければならないわけです。どこの厩舎でも、競馬学校を卒業してきた若い騎手が10人ぐらいはいるんですけど、毎日こうした訓練をするんですから、抑える技術が巧になるのは当然です。

―その隊列を崩さずに抑える技術というのは、どこにポイントがあるんですか?
野平祐二
うーん、それが難しいんですよ。とにかく乗り手の重心が、馬の背から移動させませんからね。日本の騎手というのは、どうしてもうしろに引いて、重心が動いてしまう人が多いですからね。そのため馬の後躯の方に人間の重心がかかってしまうわけです。馬の重心はキ甲を中心にしてあるから、これでは溜めるというのではなく、ブレーキをかけているようなものなんです。溜めたからには、あとで爆発させなければならないんですからね。ヨーロッパの騎手は、馬の中心に合わせて溜めて乗っているんです。絶対に重心を後ろに移動させません。

―そのあたりは、どこをどうやって操作しているんですか?
野平祐二
腕力でということもあるかもしれません。向こうの騎手の上半身は、日本の騎手よりも強いですからね。ただそれだけでもないでしょう。やはり普段からの訓練の結晶としかいいようがありません。日本でも行きたがる馬を抑えるのが達者な騎手がかなりいますけど、では、しまいに溜めた力を爆発させて伸ばせるかというと、案外伸ばせないんです。(中略)私がこうやって言葉でいくら説明しても、理解できないと思うんです。実際に向こうでレースを経験してみないと分からないことなんです。ですから、とにかくヨーロッパでレースに乗ってみなさい、としかいいようがありません。そうすれば、ああ、こうも違うのかと痛感するはずです。
(「名騎手たちの秘密」より)

Photo by 三浦晃一

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