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負けた騎手が勝たせる

Jiromaru

ある読者の方から、岩田康誠騎手について、こんなメールをいただきました。ちょうどマイルCSのあと、「そろそろ負けを認めた方がいい」という観戦記を書いたところでしたので、また武豊騎手の威を借りた岩田騎手批判かと内心思ったのですが(笑)、そうではありませんでした。乗馬という視点から、岩田康誠騎手の騎乗技術について書かれていました。私も共感するところが多く、許可を取った上で、こちらに掲載させていただきます。

私は乗るほうも少しかじるのですが、私の馬乗りの師匠はまだ地方騎手だった頃の彼が乗馬用の馬場で乗っているのを実際に見たことのある人で(考えたらものすごく珍しい証人ですねえ。自クラブでのことです)、「岩田はあたりが柔らかい、あんなに柔らかい拳は見たことがない、天才だ」とずーっと絶賛しております。

大方のメディアやそれに同調する世間がバッシングする中、これはかなり意外だったので以来そういう目で見てきて思いました、確かにすごい技術の持ち主でしかし無意識に的確に発揮しているあたりやはり天才肌です。今年のマイルCS、4角~直線の手綱のバランスとハミ受け、重心移動のタイミングなど、すべての馬乗りが理屈ではわかっていても反応できないことを瞬時にやってのけるのは、やっぱり脊髄反射的で、だからなかなか言葉にできないのかもしれません。

手綱がゆるんでいるようで、コンタクトは外れてないというのは、日本においては案外競馬の世界にいるひとより馬術家のほうがわかることかもしれません。私のようなへたくそが見ても、欧米の騎手と比較して、日本の騎手は「馬乗り」の基礎が不足しているのではないかと思うことがよくあります。いわゆる「ぶっぱなして乗る」のがスタンダードになっている。これはレースだけでなく調教でもそうですね。馬術上がりの乗り手が多いといわれる厩舎と岩田騎手の相性が悪くないような感じがしています。

私が観戦記には書かなかったことを書いてくださっていますね。メチャクチャなフォームで乗っているようでいて、実は基本は外していない。むしろそれ以上の乗り方をしているからこそ、非常識だと突っ込まれる部分もあるし、その凄さは分かる人にしか分からない。マイルCSのゴール前のフォームを見ると、もう彼は馬に乗るというよりは、馬と一緒に走って闘っているようです。これぞ人馬一体。あのレスター・ピゴット騎手も野平祐二騎手も、本当に勝たなければならないときには、スタンドの方を向いて馬を追っていました。フォームが美しいことよりも、たとえ鼻差でも勝つことを希求するからです。

岩田康誠騎手ほど誤解され、過小評価されているジョッキーはいないかもしれません。その誤解のひとつとして、どんなレースでも、手段を選ばず、とにかく勝ちに行く、勝利至上主義だというもの。彼は勝たなければならないときには、人目も憚らず、がむしゃらに勝ちに行きますが、そうではないとき、馬を育てるべきときには、勝つことよりも馬を育てることを優先する騎手です。ぶっ放してしまえば勝てるレースでも、馬に我慢して折り合うことを教えることに徹します。その結果、目の前のレースは惜しくも敗れることになってしまったとしても、先々のレースにおいて、馬が上手に走られるようになり、大きな勝利を手に入れることにつながります。そのとき、自分が背にいるかどうかは関係ありません。

たとえば、今回の阪神ジュベナイルFにも岩田騎手によって育てられた2頭の牝馬が出走してきます。レッツゴードンキとダノングラシアス。2頭とも、岩田騎手が乗って、前走の重賞を1番人気で落としていますが、勝とうと思えば勝てたレースでした。スローペースは分かっていても、前に行かず、道中で我慢することを教え込んだからこそ、僅かに届きませんでした。わざと負けたわけではありませんが、本当に勝ちたいところで勝つためには、馬を育てるレースがあるということです。今回のレースでは、岩田騎手は香港に遠征するため、浜中俊騎手とビュイック騎手に乗り替わりますが、2頭はどんな走りをするでしょうか。勝利ジョッキー騎手以上に、前走で負けた騎手が勝たせるというレースがあるのも競馬なのです。

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