« 厳しい長距離GⅠでの経験を糧として生かせる馬を見極めろ | Main | ダービーフィズとビッグアーサーが文句なしの5つ☆ »

マイヒーロー、マンハッタンカフェ

今週の札幌記念に向けて「週刊Gallop」の連載を書き終え、久しぶりの夏休みを取ってのんびりしていると、編集部から「ルージュバックが出走回避しました」との連絡があった。やはりルージュバックには荷が重かったかと心の奥底で反省しつつ、慌てて一から原稿を書き直し、なんとか締め切りに間に合った。発熱するような状態では、勝ち負けにはならなかっただろうし、もう少し休ませてほしいという馬からのサインを見逃さなくて良かったと思う。そんな経緯もあってか、翌日、ルージュバックの父マンハッタンカフェが亡くなったと聞き、禍福は糾える縄の如し、良いことも悪いこともつながっているものだと実感した。

最も印象に残っているマンハッタンカフェのレースは、2002年の天皇賞春である。ジャングルポケットやナリタトップロードとの3強対決を制し、サンデーサイレンスの血の凄さと自身が最強のステイヤーであることを証明した一戦である。菊花賞はもちろん馬券を持っていなかったし、有馬記念は彼のせいで寒空の下のオケラ街道を歩いて帰らされることになったにもかかわらず、天皇賞春はマンハッタンカフェが勝つと信じて疑わなかった。この時点ですでにマンハッタンカフェの強さを認めていた、いや認めざるを得ないほど強かったということだろう。そして、実際に大枚をはたいて単勝を買った。

早めに先頭に立ったマンハッタンカフェからは、絶対に抜かせないという気迫が伝わってきた。私は勝利を確信し、馬券を片手に安心して狂喜乱舞することができた。勝って当然、負けるわけがないと私は思っていたが、あとから小島太調教師のエピソードを聞くと、実はそんなに簡単ではなかったということが知れて、冷や汗が出たものだ。マンハッタンカフェは蹄が薄くて苦労した馬で、天皇賞春のときはその蹄の状態が思わしくなく、出走するかどうかさえ悩んでいたという。そんな薄氷を踏むような勝利であったとは露知らず。そう言われてみれば、直線で脚を引きずって走っているように見えるし、いつものマンハッタンカフェらしい鋭さに欠けたのもたしかである。

マンハッタンカフェが現役を引退し、種牡馬入りした年、たまたま社台スタリオンステーションを訪れた。次から次へと現れる豪華絢爛な種牡馬たちの中でも、マンハッタンカフェとシンボリクリスエスの馬体の美しさには驚かされ、その場に立ち尽くして見惚れてしまったことを思い出す。2頭ともつい最近までターフを走っていたからかもしれないが、彼らが種牡馬としても成功したことは、あの神秘的な馬体を知る私にとっては何ら不思議ではない。

そんな美しい馬体を誇ったマンハッタンカフェも、最期は骨と皮だけになっていたという。腹腔内腫瘍、つまり人間でいうガンを患っていたそうだ。それでも生きようとする生命力には感心させられた、と小島太調教師は語った。その言葉を聞いたとき、私には天皇賞春の最後の直線で、蹄の傷みに耐えながらも抜かせまいと踏ん張るマンハッタンカフェの姿が浮かんだ。あのときと同じように、ガンに冒されながらも、最期まで生きようと力を振り絞ったのだと思う。彼は最後の最期まで走り続けたのである。そして彼は勝った。

マイヒーロー、マンハッタンカフェ。

現在のランキング順位はこちら

|

Comments

次郎丸さん
こんにちは。
マンハッタンカフェの現役時代は知らないので 私の中のでマンハッタンカフェはアメリカ同時多発テロのサイン馬券と言われたアメリカンボスとの有馬記念のイメージが強いです。
一青窈さんのハナミズキも同時多発テロをもとに作られたという説もありますね。
今日 小倉の新馬戦でシンガリ人気のオウケンダイヤという馬が勝ちましたが 父がオウケンマジック 母もオウケンさんの馬ですが 父オウケンマジックと聞いてもピンとこない方も多いと思います。
オウケンマジックの曾祖母がロジータなんですが 私のヒーローのオグリキャップと同時代を築いた南関東の最強牝馬です。
きっと馬主さんの思い入れがあり オウケンマジックは種牡馬入りしたんだと思いますが こういう馬の存在が競馬がロマンであることを証明してくれている気がします。

Posted by: 通りすがりの皇帝ペンギン | August 22, 2015 at 01:27 PM

通りすがりの皇帝ペンギンさん

こんにちは。

あのときの有馬記念には度胆を抜かれましたよ。

馬券的な意味でも(笑)、マンハッタンカフェの勝ち方にも。

その時と比べると、天皇賞春時はたしかに蹄が悪かったのだと思います。

それにしてもオウケンマジックという馬、私も知りませんでしたよ。

自家製の種牡馬で誕生した馬が新馬戦を勝ってしまうなんて、競馬はロマンがありますね。

私もオウケンダイヤのその後を追いかけてみようと思います。

Posted by: 治郎丸敬之 | August 23, 2015 at 10:33 AM

次郎丸さん
おはようございます。
追記ですがオウケンダイヤは世代に1頭がしかいないオウケンマジック産駒らしいです。
タニノギムレット系を築く種牡馬になることは難しいかもしれませんが種牡馬として1頭でも産駒を残して欲しいですね。
華々しく種牡馬デビューした馬の仔もいれば
種牡馬入りしたことすら知られていない馬の仔もいる。境遇は違うけれど 繋がれた命に感謝です。
昨年 オウケンブルースリとオウケンサクラの牝馬も誕生しているようなのでこちらも楽しみですね。
けなげに走るオウケンサクラが好きでした。オウケンブルースリは私が競馬を始めた頃の馬でウオッカとのジャパンカップが 昨日のことのように鮮明に思い出せます。あれから何年が過ぎたのだろうと時の流れの早さを感じます。気付けばもう明日は月曜でギャロップの発売日ですね。明日も楽しみにコンビニに行ってきます。

Posted by: 通りすがりの皇帝ペンギン | August 23, 2015 at 11:01 AM

通りすがりの皇帝ペンギンさん

たしかに産駒が1勝したからどうこうというわけではないのですが、それでも希望がつながったのもたしかですね。

オウケンサクラとオウケンブルースりの仔とは、ものすごくスタミナがあってしぶとそうですね(笑)。

私もオウケンブルースりはあのウオッカを苦しめたジャパンカップのレースが思い浮かびます。

あのハナ差は大きかったですね。

明日のギャロップも楽しみにしていてください!

Posted by: 治郎丸敬之 | August 23, 2015 at 12:21 PM

Post a comment