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名を残す馬たち

Derby2016
日本ダービー2016―観戦記―
きちんと朝食を食べ、部屋の片づけをし、トイレの便器をピカピカに磨いてから家を出る。競馬場に向かう途中の電車のホームで横入りをされても、グッと我慢して心を平穏に保つ。ゲンを担いでいるつもりはないが、せめて今日ぐらいは神様に味方してもらいたい。ダービーはそんな日なのである。競馬場に到着すると、すでに第10レースの出走馬たちはパドックを回っていて、それでも呑気にソフトクリームなんかを食べていると、あっと言う間にスターターが旗を振り、今年の日本ダービーの幕は切って落とされた。

内枠を利してマイネルハニーが先頭に立ち、アグネスフォルテとプロフェットが続く。この時点でペースが速くなる見込みはなく、案の定、前半1200mが72秒9、後半71秒1という超がつくスローに流れた。府中の2400mでこうなると、内枠の前目のポジションで脚を溜められた馬にとって、極めて有利な瞬発力勝負のレースになる。上位に来た4頭は全て内枠の馬であり、外枠からの発走となったリオンディーズだけが自分の競馬ができずに力を発揮できなかったといえる。

勝ったマカヒキにとっては、待ち望んでいたレースであり展開であった。すべては内枠を引いたことから始まったといっても過言ではなく、いつもより前のポジションをすんなりと確保し、直線に向くまでに無駄な動きひとつすることなく、徹底的に脚をためることができた。極限まで絞られた矢が放たれると、あとは伸びてゆくのみ。ゴールまで真っ直ぐに突き抜けて、サトノダイヤモンドの追撃をハナ差だけ凌いでみせた。フットワークの大きなマカヒキにとって、東京競馬場の広いコースは存分に力を発揮できる舞台であった。父ディープインパクトをそのままひと回り大きくしたような馬体であり、その分、スケールが大きい。この先、どのような活躍をするか分からないが、ディープインパクトの後継者はこの馬であろう。10年後に血統表を開いてみると、サンデーサイレンスからディープインパクト―マカヒキとつながっている図が目に浮かぶ。

川田将雅騎手はダービー初制覇となった。枠なりに少し出してゆくのは予定どおりだろうし、第1コーナーまでゴチャつかずにスムーズに乗り切れた時点で、好走を確信したのではないか。直線に向いて、前が開かない瞬間があったが、結果的にはあそこでひと呼吸置けて、脚がさらにたまったことが良かった。最後の直線では、外から来るサトノダイヤモンドのクリストフ・ルメール騎手との叩き合いになり、むこうは柔、こちらは剛といった追い比べを制してみせた。勝率や連対率からみても、日本人のジョッキーとしては最も巧い騎手であることは確かで、マカヒキの手綱が回ってくるべくして回ってきた、日本ダービーを勝つべくして勝ったといえるのではないか。

サトノダイヤモンドは惜しくも勝利を逃してしまったが、力は出し切っている(落鉄の影響の有無についてここでは述べない)。皐月賞は休み明けでやや太目残りだったが、今回はきっちりと仕上げられてきたことがスタートダッシュのスピードからも伝わってきた。折り合いを欠くことのない馬だけに、スローペースの流れにも乗り、最後の直線を理想の形で迎えた。追い出しのタイミングも文句なしだったが、そこから右によれてしまったロスが最後に響いた(落鉄の影響の有無についてここでは述べない)。着差が着差だけに、枠順が少なからず影響したことも否めない。自身も100%のレースをしているが、それ以上の走りをした馬がいたということだ。日本ダービーを勝てる力のある馬であることを自ら証明したが、勝ち馬のマカヒキと比べるとやや手脚が短く、重心が低く、将来性やスケールという点では見劣りする。もちろん、この世代のトップホースの1頭であることに間違いはない。

皐月賞馬のディーマジェスティは、最後まで伸びたが3着が精いっぱい。前の2頭に比べると瞬発力に劣るため、今回のようなラスト3ハロン33秒台の決着になると分が悪い。蛯名正義騎手もそのあたりは把握しており、早目に動こうとして工夫はしているが、レース全体の流れがこうなってしまうと仕方ない。この馬は上がりが掛かれば掛かるほど、馬場が重ければ重いほど力を発揮するタイプだけに、パンパンの良馬場でよくぞここまで走ったとも言えるだろう。上位馬たちの中でも最もヨーロッパの競馬に対する適性が高いだけに、二ノ宮調教師と蛯名正義騎手など、このチームでぜひとも凱旋門賞に挑戦してもらいたい。そうすれば、日本ダービーは勝てずとも、日本人騎手として初めて凱旋門賞を制するのは蛯名騎手となるはずである。

エアスピネルは武豊騎手に導かれ、力を出し切っての4着。スローペースを読んで先行し、これしかないという競馬であった。生まれた世代が悪かったという言い方はしたくないが、先着された3頭は圧倒的に強い。この馬自身にとって2400mは長く、マイルから2000mぐらいまでの距離でこそ、最も力を発揮できるはず。

リオンディーズはここ2走続けて掛かり気味に先行してしまったので、今回は抑えていく作戦に出たが、外枠とあいまってポジションを悪くしてしまった。気がつくと後方を走ることになってしまい、スローペースに見事にはまってしまった。最後は伸びているが、前も伸びており、掲示板に載るのが精いっぱいという競馬であった。これだけレベルの高い争いになると、折り合いに不安を抱えているだけで勝ち切れない馬になってしまう。

ここ最近の日本ダービーを観ていると、枠順によって勝敗や着順が決してしまうことが少なくない。昨年のドゥラメンテのように1頭だけ傑出している場合を除き、内枠を引かないと勝てないレースになってしまっている。世代の頂点が最終的に枠順によって左右されてしまうことに違和感を覚えるものの、それだけトップを決める争いに参加する馬のレベルが拮抗するということでもあり、またトラックを回る競馬という競技の特性上仕方ない(さすがに2400mを直線競で行うわけにはいかない)とあきらめざるをえないのだろう。

Photo by 三浦晃一

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Comments

リオンディーズは掛かりましたね。パドックではそんな素振りは全く見せずに素晴らしい出来に見えましたが、返し馬からどんどんテンションが上がって・・。結局、皐月賞で出して行って引っかかったのが尾を引いた?よくおっしゃってる「リズム」が刻まれてしまったのでしょうね。それでも上がり32秒台の脚!これで折り合ったらどれだけの爆発力を秘めているのか楽しみはできました。兄と同じ道を辿るような予感がしています。

何にしても生のダービーは格別ですね!10万もの人が絶叫する大音量。金曜日から場所取りしたり、当日朝4時半起きする以上のものがあってやめられません。

Posted by: やっとこ | May 30, 2016 at 09:59 PM

やっとこさん

こんばんは。

リオンディーズは皐月賞と日本ダービーと枠順に泣かされましたね。

皐月賞は前に行かざるをえず、馬が引っ掛かるようになってしまい、日本ダービーでは追い打ちをかけるように外枠へ。

兄が掛かりぐせのある馬だけに、陣営がデビュー戦から細心の注意を払ってきたにもかかわらず、枠順ひとつでここまで馬が変わってしまうということを私も知りました。

こうなると折り合いを教えていくのは難しいと思います。

日本ダービーは私もなんとしても現場であの雰囲気を味わいたいレースです。今年も良いレースが観られましたね。

Posted by: 治郎丸敬之 | June 01, 2016 at 09:54 PM

治郎丸さん、こんばんは。
当日は蛯名騎手に勝って欲しいという空気が競馬ファンの最大公約数だったような気がしましたが、体質の関係か、ディーマジェスティは調整が上手くいかなかったようで残念でしたね。

粒揃いの世代ですが、身体能力ではリオンディーズがずば抜けてると思っていました。ただ、昨年のダービーでも今年の故障明け中山記念でも、常識的には控える競馬が予想されたところをケレン味なく出して行ったデムーロ騎手にしては消極的な競馬で残念です。(これが福永騎手でこの内容・結果なら、回線がパンクするほど袋叩きにされてるでしょうね)

アンカツさんも「鞍上が神経を使わなければいけないような馬は大一番を勝つのは難しい」と言ってましたし、マツクニ師も「1コーナーで騎手に無意識に手綱を引かせるような馬(昨年のリアルスティールのことを言ってるのかとドキッとしました)にしないのが調教師の仕事」と言うようなことを言ってました。リオンディーズも立て直しに時間はかかるでしょうが、スローのロングスパート戦なら強いと思うので、秋は菊花賞路線を歩んで欲しいのですが、どうでしょうか。

Posted by: シンプル | June 02, 2016 at 10:33 PM

シンプルさん

こんにちは。

私も蛯名騎手に勝ってほしいという思いはありましたが、ヨーイドンの競馬だと前の2頭に分がありますね。

皐月賞で激しいレースをした反動が中間に出ていたようですが、これぐらいはよくあることで、当日は力を出し切れる状態にあったと思いますよ。

来年、凱旋門賞に挑戦するみたいですが、いよいよ日本馬初の凱旋門賞制覇が観られるかもしれません。

リオンディーズは奇しくもここ2戦で前に行く競馬になってしまい、今回の枠順だと抑えるのは当然だと思いますし、アンカツさんのおっしゃるように、コントロールが難しい馬がダービーを勝つのは難しいと思いました。

今年の皐月賞とダービーで面白かったのは、皐月賞の1、2着馬は展開に恵まれた上に、ダービーでは枠順にも恵まれたということです。リオンディーズはどちらでも恵まれませんでした。勝負事には運の要素が大きいですね。もう1度、時間をかけて、折り合うことを教えていけば、菊花賞を勝つだけの能力は十分にありますからね。

Posted by: 治郎丸敬之 | June 03, 2016 at 02:44 PM

経緯や枠を問題にするならば、昨年のダービーで祐一がリアルスティールを控えさせたのも「仕方なかった」ことで、叩かれるに値しなかったということですね?

今年のダービーでのリオンディーズ=6枠12番
昨年のダービーでのリアルスティール=7枠13番
昨年のダービーでのドゥラメンテ=7枠14番

私は祐一ファンですが、昨年のリアルスティールの騎乗ではダービーは言い訳できない戦略ミスだったと思ってます。
同様に、今年のダービーでのリオンディーズのミルコの騎乗にはガッカリしました。(と、同時にやっぱりエピファネイアは騎手に神経を使わせてしまう分の敗因が、3歳春の時点ではキズナに対してあったと思います。)
片方を仕方ないと言う評価なら両方とも仕方ないと言ってほしかったところです。

Posted by: シンプル | June 03, 2016 at 08:24 PM

シンプルさん

こんばんは。

昨年のリアルスティールのダービーは、勝ちに行く騎乗ではなかったと思います。

あの枠順から前に行こうとすれば、かなり強引に出していかなければならず、その後、大バテしてしまったかもしれませんが、それでも出していかなければああゆう競馬になることは目に見えていました。

同じ意味合いで、今回のリオンディーズは出して行くと引っ掛かることは目に見えていたので、控えていかざるを得なかったのだと思っています。

馬とそれまでの状況が全く異なりますし、私は何としても福永騎手にダービーを勝ってもらいたいのですが、そうした全てをひっくるめて仕方ないと書きました。

どのジョッキーも勝ちたくて必死に乗っていますので、それを私たちが外からとやかく言うのは無責任だと思うのですが、スポーツは批評がないと高まりませんので、この場を借りて書かせていただいています。

偉そうなこと言って、おまえはキャンターすら満足にできないだろと言われてしまえばそこで終わりなのですが(笑)

Posted by: 治郎丸敬之 | June 04, 2016 at 09:39 PM

>偉そうなこと言って、おまえはキャンターすら満足にできないだろと言われてしまえばそこで終わりなのですが(笑)

そんな大人げないことは言いませんよ(笑)

「それぞれ過程が違う」というお返事は予想してましたが、私は線で見たら同じだと思います。皐月賞を勝つために昨年の祐一、今年のミルコはそれぞれ出して行ったわけですし。ダービーで出して行きづらくなったところに、出して行きにくい外枠が当たった。

タイプ的にはピーキーで末脚が燃えやすい(短い)リアルスティールと、かなりの息が長い末脚がありそうなリオンディーズ。コントロールしやすいのはリオンディーズの方じゃないでしょうか?兄エピファネイアと比べてもそうで、ピーキーで打点が高いものの、好走条件が狭い(ラビットを用意するなど周囲の助けが必要)エピファネイアに比べるとリオンディーズのほうがまだ好走条件が広く扱いやすいように見えます。ツボにはまった時のパフォーマンスはまだ兄には及ばないでしょうが・・・

そういうこともあって、今年はデムーロらしからぬ(道中緩んだところで動かなかったところも含め)消極的な騎乗に映りました。

Posted by: シンプル | June 05, 2016 at 09:17 PM

シンプルさん

なるほど、よく分かっていらっしゃいますね。

偉そうにすいません(笑)

皐月賞を勝つために出して行ったのはどちらも同じで、外枠を引いてしまい、出していきにくくなったのも同じですね。

リオンディーズ兄弟と比べて、リアルスティールはスタミナという点でガス欠を起こしやすいタイプなので、出していきにくさは同じかもしれません。

コントロールしやすさという点でいうと、私はリオンディーズ兄弟の方が難しいと思います。

気性的にガツンとスイッチが入りやすく、しかも怪力なのでジョッキーの腕力では抑えられないと思います。

ダービーに向かう中間で、デムーロ騎手は抑えられるとコメントしていましたが、本音は掛かったら抑えられない、(ソロッと出していけば)抑えられるだったはずです。

だからダービーでデムーロ騎手が抑えてくるのは目に見えていましたし、それでも展開が向けば、朝日杯のような末脚が使える能力は持っていますから、抑えていく=消極的だとはレース前の時点では分かりませんでした。もちろん、道中で緩んだところで、デムーロ騎手の得意なまくりをかけても良かったかもしれません。その点では攻めなかったと考えることもできますね。

対して、リアルスティールの場合は、とにかくドゥラメンテを負かさないとダービーは勝てないので、ドゥラメンテよりも前のポジションに行かないことは2着狙いと同じことだと私は解釈しました。その点で消極的だったと思います。

Posted by: 治郎丸敬之 | June 06, 2016 at 07:47 PM

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