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完璧な逃げ切りのシナリオ

Yasuda2016
安田記念2016―観戦記―
最強マイラーであるモーリスに恐れをなしたか、意外にも少頭数で行われた安田記念は、ロゴタイプが逃げを打つことで幕を開けた。前半マイルが47秒ジャスト、後半マイルが46秒ジャストという、前後半で1秒の落差があるスローペース。G1のマイル戦では考えられないほどの超スローペースと言ってよい。このペースでは、後ろから行った馬はまず届かない。粒ぞろいのメンバーが揃ったにもかかわらず、レースのレベルは過去最低だったと言っても過言ではないだろう(ロゴタイプの勝利の価値が低いという意味ではない)。

逃げたというたったひとつの事実が、ロゴタイプの勝因の全てを物語っている。皐月賞以来、精神的なスランプが長引き、さらに脂肪がつきやすい馬体ゆえの重苦しさが出ていた時期もあったが、ここにきて首回りがすっきりして、かつての良かった頃の馬体に戻っていた。誰にも邪魔されることなく、自分のペースで、自分のタイムで走ったら、勝っていたという感じだろう。3年間にわたって、この馬を信じつづけてきた関係者の方々は、長いトンネルを抜けた喜びで一杯のはず。吉田照哉氏が「サンデーサイレンスに似ている」と評した頃の輝きを、ロゴタイプがようやく取り戻した。

田辺裕信騎手は、ロゴタイプの手綱が回ってきて3戦目で結果を出してみせた。勝つためにはどう乗るべきかを考え、最善手をシンプルに実行したからこその勝利である。モーリスに勝つためには、モーリスよりも前に行かなければならない。結果的には、(ペースの読めない)外国人騎手の乗った(動くに動けない)人気馬に蓋をさせる形になり、完璧な逃げ切りのシナリオであった。行こうと思えば行けた他の騎手たちは、ほぞを噛んでいるに違いないが、考えたことをそのまま実行することは、頭で考えるほど簡単ではない。人気がなかったから可能であったという面もあるが、それができるからこそ、今の田辺騎手のポジションがあるのだろうし、これから先、トップに立つべき騎手であるということだ。少頭数の競馬は、お互いが探り合う分、騎手たちにとっては案外難しく、得てして今回のような競馬になってしまうことを、私たちは覚えておきたい。

2着に敗れたモーリスは、最後の直線で伸び切れなかった。勝ち馬の直後だけに、ポジションとしては悪くはなかったが、道中はずっと力んでスタミナを浪費してしまっていた。前走の香港マイルのときからその兆候はあったが、精神的にやや余裕がなくなってきているからか、行きっぷりが良いと言うよりは、力んで走っている。これだけ高いレベルの競走で連勝をしてくれば、馬も人間も目には見えない疲れが積み重なっているものだ。陣営は百も承知だろうが、この機会にゆっくりと休養を入れて、次のレースはもう1度、ゆっくりと走らせることから始めるべきである。

フィエロは実に惜しい3着であった。後ろから行った馬の中で最も良く伸びただけに、このスローペースが悔やまれる。馬体にわずかに重さがある馬だけに、G1レベルの争いになると勝ち切れなさを露呈してしまう。内田博幸騎手は、前に行けなかった分、最後の直線に向いても脚を溜めに溜めて、フィエロの切れ味を引き出した好騎乗であった。

サトノアラジンも脚質的に勝ち切れなかった。前走を後方から差し切ったという布石があったにもかかわらず、川田将雅騎手はある程度、展開を読んでいたのか、サトノアラジンをできる限り前にポジションしようと意識していた。それでも中団から差し込んで4着なのだから、今回は運がなかったとあきらめざるをえない。

イスラボニータはもったいない競馬であった。モーリスが返し馬から気負っているのを見て、引っ掛かることを期待して、モーリスの後ろにつける作戦を考えていたのだろうか。第1コーナーで先頭に立つこともできたはずの行きっぷりの良さにもかかわらず、手綱を引いてしまい、外からリアルスティールにポジションを奪われてしまった。スローペースの外を回された挙句、イスラボニータの先行力を生かせなかった。

リアルスティールは思い切って出していき、モーリスを見ながら、勝ち馬の後ろという最高のポジションを走ることができた。直線に入って海外遠征帰りのモーリスの脚が上がる可能性に期待したが、自身が先に力尽きてしまった。これがリアルスティールの本来の力ではなく、マイルの距離が短かったわけでもなく、異国の地で激走した見えない疲れが残っていたのであろう。

Photo by 三浦晃一

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