« 先輩が後輩を育て、後輩の存在もまた先輩を強くする | Main | セントウルSを当てるために知っておくべき3つのこと »

集中連載:現代のコアな競馬ファンがすなる一口馬主というものを(第15回)

Hitokuti15

年を取ると時が経つのが速く感じるのは、それだけ時間や歳月に対しての意識が強くなるからであろう。私も例にもれず、最近はますます時間の流れの速さを痛感している。あれから何年も経つのに、何も変わっていないことに対する後悔や、何もできていない自分に対する情けなさばかり。ふとしたことがきっかけとなり、実現したいことと自分に与えられた有限の時間との間にある大きな溝を見下ろしては背筋が凍ることになる。この集中連載を始めてから、もう1年が経とうとしている。あの頃は、自分が選んだ馬が競馬場で走ることなど遠い未来のことに思えたが、私の意識が混濁している間に時は流れ、もうすぐそこまで来ている。そう、クインアマランサスのデビューが近づいているのだ。

8/19
在厩場所:北海道・ノーザンファーム空港
調教内容:週2回屋内坂路コースでハロン14秒のキャンター2本、残りの日は軽めの調整
担当者「この中間から入厩に向けてハロン14秒までペースを上げています。坂路での動きは良いものを感じますし、鞍上の指示にしっかりと反応して瞬発力のありそうな走りをしています。高野調教師と打ち合わせを行い、入厩に備えて来週ノーザンファームしがらきに移動する予定になりました」馬体重467kg

8/26
在厩場所:滋賀県・ノーザンファームしがらき
調教内容:ウォーキングマシン調整
次走予定:未定
厩舎長「25日に無事到着いたしました。長距離輸送の後ですから、今週いっぱいは軽めに調整をして疲れを取ってあげようと思います。変わりなければ環境に慣れさせる為にスクーリングから開始していこうと思います」

8/31
在厩場所:栗東トレセン 31日に入厩
調教内容:
次走予定:未定
高野調教師「北海道からしがらきに到着後は若干疲れが見られたそうですが、翌日はすぐに元気も戻ったようですから、31日の検疫で入厩させてこちらで進めて行くことにしました。まずはゲート試験を目標に明日から調教を開始していきたいと思います」

シルクホースクラブから届いたメールを時系列に並べてみた。8月上旬に入厩の段取りを組み始め、8月19日にノーザンファームしがらきに移動することが決まり、25日に到着し、31日には栗東トレセンに入厩した。もう少し長くノーザンファームしがらきに滞在するのかと思い、取材も兼ねてクインアマランサスに会いに行くことも考えたが、予定を調整する前にすでに栗東トレセンに入ってしまった。ノーザンファームしがらきは本当の意味での馬房が空くまでのワンクッションだったのだろう。初めての長距離輸送を経験し、1週間後にはまた新しい環境に放り込まれる。果たしてゲート試験を無事にクリアできるのだろうか。多くのサラブレッドたちが通ってきている道ではあるが、こと自分の愛馬に関しては些細なことにも気を揉んでしまう。

競走馬としてデビューすることは、実はそう簡単なことではない。何らかの形で競走馬がデビューする過程に立ち会ったことがある人ならば、その難しさが分かるだろう。競走馬として生を受けたにもかかわらず、デビュー戦を迎えることなく去っていった馬の何と多いことか。怪我や病気や事故など、あらゆる万難を排して、ようやく競走馬としてターフで走ることができる。競馬場に立つことができた馬は、ある意味ではラッキーと言えるのかもしれない。

デビューするための最後の難関として、ゲート試験がある。ゲートにすんなりと入ることができ、ゲート内で大人しく待っていることができ、ゲートが開いたら飛び出してダッシュできるかどうかを試されるのである。何もかもが初めての体験となる若駒のことでもあり、中には閉所恐怖症の馬もいるので、このゲート試験に合格することは想像以上に難しい。厩舎関係者の中で、ゲート試験に受かることを「競走馬になる」と言うのはそれゆえである。どれだけ速く走ることのできる馬でも、このゲート試験をパスしなければ、競走馬としてデビューすることは叶わないのである。

しかも、ゲート試験は2本連続で行われるため、1本目は成功したとしても、2本目で失敗してしまうと不合格となってしまうのだ。このやり方に疑問を投げかける関係者は多い。たった1回だけでも、若駒にとってゲート試験は肉体的にも大変で、神経をすり減らすものであり、それを2回連続で成功させるとなると、練習を含めると大きな負担となる。ちなみに、栗東トレセンでのゲート試験の合格率は75%程度だという。ゲート試験だけのために入厩して、合格すると放牧に出す馬が多いことからも、ゲート試験の負担の大きさが分かる。

とはいえ、公正競馬の観点から考えると、仕方がない部分もある。レースにはお金がかかっている以上、競走馬がゲートから出て行かなかったでは済まされない。競走馬は生きものであり、どれだけ試験に合格していても100%ゲートを無事に出る保証はないのだが、たった1回のテストでは心もとない。そう考えると、数回、しかも日にちを分けてテストをしたいところなのだが、馬の負担を考えて2回に限っているのではないだろうか。

それよりも、私にとってゲート試験の最大の問題と思われるのは、あまりゲートの練習をやりすぎて、スタートして全速力でダッシュしてしまうリズムを馬に作ってしまうことである。短距離戦でバリバリ活躍していこうと思う馬ならそれでいい。そうではなく、ミドルディスタンス以上の距離でこそ真価を発揮するような馬が、スタートしてから力んで走るようになってしまえば目も当てられない。松田博資元調教師はゲート練習をほとんど馬に課さなかったという。なるほど、ブエナビスタやハープスターの走りを見ると納得してしまう。長めをゆったりと追い切る調教方法だけではなく、こういう小さなところからも、一介のスピード馬で終わらせない馬づくりの本質が見える。もちろん、それも馬が無事にゲート試験に受かってくれたらの話である。もし不合格が続き、デビューが危ぶまれたとしたら、悠長なことを言っていられなくなるだろう。もしそれで、将来の偉大な馬たちの芽が摘まれてしまうのであれば、それはもったいないことである。今はとにかく、クインアマランサスが無事にゲート試験をクリアして、デビュー戦を迎えられることを願いたい。

Photo by fakePlace

|

Comments

Post a comment